怪文書研究

鵜海 喨

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  空が綺麗だ。
 意味も無く浮かぶ雲は紅に染まり、川の水面はそれらを宝石のように反射した。

 澄んだ秋の香り。すっかり涼しくなった空気を鼻腔いっぱいに吸い込み、ゆったりと吐き出す。

 稲子は最後の晩餐だと騒いでいる。
 コウモリはすっかり肌寒くなって憂鬱に羽撃く。
 少し早い白い彼岸花が咲いている。

 重たくも滑らかな空気。
 少し草臥れた堤防の草原に座る釣り人は、ロケットを投げ入れはぜを釣っている。
 バッタの翅の音。鈴虫の歌声。川の音。

 消波ブロックの上に立ち、胸を広げる。
 軋む鳥籠胸郭いっぱいに空気を吸い込み小鳥心臓は鳴いた。

 鉄筋を突き出した消波ブロックは、恰も日時計のように時間を見て佇んでいる。川が満ちてきた。死んだ沙蚕釣り餌が流れている。
 釣り上がった鯊は大きな口を広げ、半透明な体をくねらせた。その大きな目で何を見通し何を思うのだろうか。

 笑える。鯊が思えるほど頭が無い事は知っている。見える餌に喰らい、釣り上がる鯊。先を見れば終わる事が分かるのに、それすら思わないんだ。

 人に似ている。鯊は頭が良いのかもしれない。

 今ここで川に倒れたら。そしたら冷たい水が体を障り凍えてしまいそうな寒気が私を襲う。そして気泡あぶくを目の前に広げ、薄暗い水面越しに空を見るんだ。はらわたはずっしりと重たくなって戻れなくなる。小鳥は凍え鳴くのをやめる。ぐちゃぐちゃになって流れる。凍えて寒く流れる。ぐちゃぐちゃな意味。ぐちゃぐちゃな体。戻れなくなる。ぐちゃぐちゃになって。体が動かなくなる。寒い。寒い。一人になる。寂しさでぐちゃぐちゃになる。ぷかぷか一人で浮いて。重たい腸では空気すら吸えず、重たく沈んでいく。魚が食い散らかす体は彼岸花みたいにぐちゃぐちゃで。踏まれた彼岸花。

 止まって。

 結局一人なんだ。一人だけで。さみしくぐちゃぐちゃな顔晒して馬鹿にされながら。ぷかぷか浮いて、それが相応しいって。拍手喝采。拍手喝采。拍手喝采。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃが相応しいって。沈んでいく。寒い世界に流されていく。重い重い。気泡が消えていく。浮かんでいって私を見放して。人の背中を見続けて。落ちろ。飛び込めば楽になる。飛び込め! 早く飛び込んでしまえ! ここで川に倒れたら。冷たい水が体を障り凍えてしまいそうな寒気が。気泡を目の前に広げ、薄暗い水面越しに空を見える。腸はずっしりと重たくなって戻れなくなる。小鳥は凍え鳴くのをやめる。ぐちゃぐちゃになって流れる。凍えて寒く流れる。ぐちゃぐちゃな意味。ぐちゃぐちゃな体。戻れなくなる。ぐちゃぐちゃになって。体が動かなくなる。寒い。寒い。一人になる。寂しさでぐちゃぐちゃになる。

 止まって!

 胃は中身を吐き出そうと咳をしている。首を潰された感覚。胃を鷲掴みにされた感覚。浅く速い息。

 川の音。ロケットが飛び込む音。憂鬱そうな夕日。靴に染み込む川の水。

 胸を開き大きく息を吸う。川の匂いをいっぱいに吸い込み、ゆっくり吐き出す。

 足首まで水が上がっている。水が擽り撫でられているようにも感じる。

 今日は帰ろう。落ち着かない場所だけど帰る場所はある。

 それでは。
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