11 / 65
11.通報されるわよ
しおりを挟むふと、どこから手を付けたものかと考えながら、あたしは思わずつぶやいた。
「……それにしてもあたし、学生なのにこんなネタに関わるとは思わなかったよ」
「ん? んー……学生なのに、か」
そう呟いてジャニスはあたしをじっと見つめた。
「なあお前。いま自分が学生だって言ったな」
「そうね」
淡々と告げるジャニスに応える。
「あーしも花屋で働いてる。まあそれはいい。――お前さ、なんで自分が学生なんだと思ってる?」
「え? 学校で勉強してるから、かな」
「ああ。そんなら学校を出たら学生か?」
「違うんじゃないかな」
「そうだ。そんでな、ちぃーっとだけ考えてみ。学校にいること、花屋で働くこと、他の何でもいい、鍛冶屋でも、八百屋でも、ギルドでも、騎士団でも、王宮でもいい」
「えーと……?」
「そこでそうやって過ごす奴らはさ、それぞれの持ち場とか縄張りで毎日生きてるわけだ」
「うん」
「でもな、そういう持ち場とか縄張りって、王国や王都がいまの形で動いてるから決まってるわけだ。それが存在しない状態とか想像したことはあるか?」
「無い、かな」
「何もない状態でも、お前はお前だ。あーしも花屋が無くなったとしてもあーしのままだ」
「それは分かるわ」
「学生だからお前がいるわけじゃあねえわけ。あーしも同じだ。それをまず考えてみ」
「それは、その通りだね」
「そうなったお前でも、今回の依頼は受けるか?」
「……受けると思う」
「なぜだ?」
「大切な仲間とかマブダチに、トラブルが無いようにかな」
「それっておまえが学生だからとかは関係ねえな」
「関係無いよね。当たり前じゃん?」
迷わずにあたしがそう告げると、ジャニスは花がほころぶように笑った。
「大丈夫、お前はやれるよ。――がんばれよ」
そう言ってからジャニスはあたしに顔を近づけて、頬にキスをしてからベンチを立った。
「またな、お嬢!」
ジャニスはそう告げてその場から去って行った。
「何か試されたのかな」
あたしは思わず呟いていた。
午後の授業を受けて放課後になった。
あたしはキャリルとサラとジューンとで部活棟に向かった。
キャリルは今日は歴史研究会に出るようで、他の二人もそれぞれの部室に向かった。
予定通り、あたしは薬草薬品研究会、通称薬薬研の部室に移動した。
「こんにちわー」
「あ、こんにちわ! さっそく来てくれたんだね!」
そう言って笑うのは、カレン・キーティングという女子生徒だ。
見学に来た時も対応してくれたのだけど、あたしの二歳上の先輩になる。
「ええ。他の研究会にも兼部しましたけど、いちおう薬薬研をメインに考えてます」
「そうなんだ! 改めてよろしくね! 座って。ハーブティーを淹れるよ!」
「あたしも手伝いますよ。もう部員ですし」
学院での部活動と研究会の活動は境い目が曖昧なので、研究会でも部員とか部室という単語でみんな通じてしまう。
「そっか。じゃあ、どこに何があるか説明しながらお茶にしよう!」
「ありがとうございます」
あたしたちが手を動かしている間にも他の部員がやってくる。
ここは男女比については、どちらかといえば女子生徒の方が多い研究会かも知れない。
学院では初等部も高等部も同じ部活や研究会に入れるから、薬薬研も初等部と高等部の生徒が混ざっているようだ。
「それで、あたしなにかやらなくちゃいけないことありますかね?」
「義務とかは特にないかな。部員で分担することがあったらその時に部長がみんなに割り振る感じなの!」
「そうなんですね」
「だからウィンちゃんも好きなことをしてていいよ。本を読んでても、薬草をいじってもいいし……。あ、でもそうか。薬品を使うときは高等部の先輩に声をかけてね!」
「分かりました」
「あとそうだなあ……。ウィンちゃんは【鑑定】の魔法は使える?」
「母さんに一応習ってます」
「そうなんだ! 薬草とか薬品を使うのに便利だから、みんな最初に覚えるの!」
「なるほどー。……まあ、入学が決まってから無理やり詰め込まれたんで、そんなに使い込んでないですけどね」
「あはは、ちょうどいいと思うよ。うちで薬草を鑑定してれば直ぐに上達すると思う」
あたしが当時の母さんによるトレーニングを思い出して遠い目をしていると、カレンに笑われてしまった。
その後、薬薬研の施設の話になった。
いまいる部室はあたしたちが授業を受けている教室と同じくらいの広さだ。
部室の隣には薬薬研が管理する実験室があって、教室二つ分くらいの広さがある。
そこでは薬草の鉢植えとか水耕栽培をしたり、薬品を使った実験を行うそうだ。
「ほかには薬草園があるわ。学院の附属研究所の向こうに附属農場があって、そこは学院の専任の職員が管理してるのね。その一部が薬草園になってるの!」
「薬草園の手入れは部員がやるんですか?」
「職員さんがやってくれてるの! でも、手入れしたかったらいつでも参加できるのよ!」
「見に行ってみたいです」
「意外と広いのよ。でも先に、部室と実験室の説明を新入生全員にした方がいいかもね!」
「そうですね」
そのあとあたしは部室にあった薬草図鑑を眺めて過ごした。
薬草の知識はほとんど無かったので、意外と興味深く読めた。
でも、薬草の効き目とかを考え始めると、医学の知識とかもあったほうがいいのかも知れないと考え始める。
部室の本棚を見てみるが、どちらかといえば農学寄りの本が多く並んでいる。
「いちどリンジー姉に、医学の入門書とか聞いてみてもいいかも知れないかな」
従姉のリンジーは王都ブライアーズ学園の医学科に進んでいるし、薬品の勉強の仕方を知ってるかもと思ったのだ。
図鑑を読んでいたが、薬薬研にはその間にも見学や兼部で名前を書いていくだけの新入生が来ていた。
よく顔を出す新入部員が確定するには、もう少し時間がかかるのかも知れない。
その後、寮の門限まではだいぶ時間はあったけれど、適当なところでカレンに声をかけて部室を離れた。
そういえばまだキャリルは歴史研究会の部室だろうかと思い、そちらに移動する。
だが、歴史研の部室の近くまで来たところで、柱の陰に隠れて入口を観察する生徒がいるのに気が付いた。
本人は姿を隠しているつもりなのかもしれないが、不審者ムーブをしているカリオがいた。
一瞬だけ顔を出したり、顔の一部だけを柱の陰からのぞかせてみたりしているが、何か監視でもしているつもりなんだろうか。
あたし的には帰ってきた変態野郎である。
とりあえず近づいてみるか。
内在魔力の循環で気配を遮断しつつ、母さんから習った風属性の魔力操作で自身の臭いを周囲にごまかす。
その上で近づいて、どこで気付かれるだろう。
――結論をいえば、殴れる位置まで来ても気づかなかった。
こいつは色々含めて大丈夫なんだろうかと思いつつ、片手をカリオの肩に置いてみる。
「おーい変態。不審者ムーブでなにをやってるのよ、カリオ?」
直後にビクッと毛を逆立ててから、あたしの方に振り向き、何かの記憶を思い出したのかフルフルと首を振りながら涙目になりつつあった。
仕方が無いので、あたしは【風操作】で見えない防音壁を作って話しかけた。
「ほら、魔法で防音にしたよ。何してたのよあんたは。また通報されるわよ」
「いや、そうだな。……ウィンには言っておいた方がいいかも知れないな」
「どうしたの?」
「俺、ディンラント王国への留学が正式に決まったとき、国から依頼があったんだ。キャリルには闇ギルドの件で迷惑をかけてるから、それとなく護衛するようにってさ」
「えーと……『それとなく』って、なに? すごく、変態です。本当にありがとうございました」
「どういたしまして…………あれ? …………というかウィン、瞬間移動でもしてきたのか?」
「あたし? そんな魔法は使えないわよ。ふつうに気配を消して近づいただけだし」
「ホントか? ……実戦なら俺死んでる奴じゃんそれ」
「そうだねー」
あたしは努めて爽やかな笑顔を浮かべてみたが、カリオの顔色がさらに悪くなった。
月転流をあたしの判断で他人に教える許可は母さんからは貰ってないんだよな。
例外的にキャリルに気配察知と気配遮断を教えたことはあるけど、シャーリィ様に母さんが頼まれたんだよなあれ。
「しかたないなあ。……獣人族だったら風牙流を使える知り合いは居ないの? 風牙流は気配の遮断とか知ってると思うけど」
「そうなのか!? それはいいことを聞いたぞ! ありがとうウィン!」
「はいはい。気配の察知と遮断は稽古をつけてもらいなさい」
「ああ!」
「それでどうするの? 不審者ムーブをするくらいならとっとと中に入って入部したほうがいいと思うわよ?」
「でもそれをやると、際限なくキャリルとおなじ部活に参加することにならないか?」
「ああ、それならたぶん大丈夫よ。キャリルは歴史研究会がメインで、他は武術研究会はカリオも見学してたんじゃないの?」
「ああ、武術研は入部したぞ」
「うん。キャリルは広域魔法研究会と武術研にも兼部してるけど、これはあたしと誘い合っていくことになってるの」
「そういうことか」
「カリオが歴史研に入れば、あたしが薬草薬品研究会に出てるときにそっちの役目ができるんじゃないかな」
「助かったよ! それで行こう!」
「じゃあ行こうか。いまキャリルは歴史研に居るんでしょ? あたしも合流するよ。カリオはたまたまここで会ったことにする」
「分かったぞ!」
さっきまでのへこみ具合が嘘みたいに元気になったな、カリオ。
あたしはレノックス様のこととかは事前情報を出さないことにした。
カリオって本人が気を使うつもりで失敗するタイプじゃないかなと思った訳で。
0
あなたにおすすめの小説
東京ダンジョン物語
さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。
大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。
ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。
絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。
あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。
やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。
スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。
無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる