27 / 65
27.王都商業区立体機動鬼ごっこ
しおりを挟む軽めの昼食を終えて喫茶店を出てから、あたしはソーン商会に向かう。
今日はデイブとブリタニーが二人とも店に居た。
「いらっしゃい。――ってお嬢じゃねぇか。どうした? 探し物か?」
店に入るとデイブが声を掛けてくれた。
「こんにちは。来週末に同級生と王都南ダンジョンに行くつもりだから、ギルドで情報を貰えないかと思って受付に行って来たのよ」
「それなら冊子を売ってたろ」
「買ったわよ」
「ああ。意外とバカに出来ないから読み込んどけよ」
「分かった。他に気を付けておくことはあるかな?」
念のためあたしが問うと、横からブリタニーが話に加わる。
「武器を持って、馬車代を持って、弁当と念のための保存食を数日分持って、……あとは獲物を仕舞いきれない時用にズタ袋でも持ってけば大丈夫だろうさ」
「それが最低限必要なものだったりするの?」
「ああ、ホントに最低限なのはな。……来週末ってことはまだ日があるんだろ? 気になるなら、学院なら図書館あたりに攻略本があると思うよ」
「分かったわ、探してみる」
「ダンジョン自体は歴史学者の領分だから、遺跡の専門家に話を聞いてもいいかも知れないよ」
「ダンジョンて遺跡なんだね」
「そうだよ。まぁ、その辺もふくめて、出発までに情報を集めればいいさ」
ブリタニーの話に頷く。
そういうことなら、まずは図書館に行けばいいか。
「ところでお嬢、最近同格の相手と月転流を練習できてるか?」
「んー? 練習できてないわ」
「そうか。いま店も客が居ないし、少し相手してやるよ」
せっかくなので、練習相手をしてもらうことにした。
木製の短剣と手斧を渡されてデイブに付いて階段を上る。
最上階も過ぎてたどり着いたそこは建物の屋上だった。
商業地区の四階建てくらいの石造りの街並みが眼前に広がっている。
「狭いとは言わないけど、ここで練習するの?」
「ああ、ここも使って練習する」
そう言ってデイブはニヤニヤと笑う。
「どういうこと?」
「コインで攻守を決めて、守り手は視界に広がるどこに逃げてもいいから逃げる。攻め手は三つ数えてからそれを追いかけて攻撃。有効打で一本攻撃が入ったら攻守交替」
「……どこに逃げてもって?」
漠然と嫌な予感を感じつつ訊いてみる。
「街とか建物を壊さなければ、王都内ならどこでもどこまででも逃げていい。屋上の上とか建物のカベを使って鬼ごっこだ」
「マジかー……」
王都商業区立体機動鬼ごっこかぁ。
「当然だが気配は消せよ」
「分かってるわよ」
そりゃまあ、誰かに気づかれてうわさになって、これ以上妙な二つ名を貰いたくはないけど。
「ギブアップするときは叫んだ相手のところに集合して、コイントスからやり直し。どうだ?」
一応、障害物の中の鬼ごっこは、ミスティモントの森の中で母さんと経験済みだ。
月転流の訓練メニューにそういうものがあるんだろうか。
せっかくデイブが鍛錬に誘ってくれたのだし、と考える。
単純にデイブの暇つぶしの可能性も否定できないけど、ありがたく練習相手になってもらおう。
「上等じゃない」
「その意気だ。とりあえず攻守を三回交代するまでやるからな」
コイントスをして、初回はあたしが守り手になり、デイブから逃げる方になった。
「じゃあ、いつでも始めていいぜ」
そう言ったデイブの両手には、やや大き目のすりこぎ棒が一本ずつ握られていた。
まあ、練習だしね。
「分かったわ」
あたしは身体の内在魔力を循環させて身体強化と反射速度強化、思考加速などを行う。
同時に方向感覚や気配遮断、立体空間把握などの“隠形”としてスキル化した能力を発動させる。
そこまでやってからデイブの気配の感じを確認して、あたしはソーン商会の屋上から全力で逃げた。
すぐにあたしを追ってくる気配を感じる。
気配を感じるのだが、またこれが読みづらい。
森の動物でいえば遠距離に居る小動物かってくらいの気配の消し方だ。
そのあいだにもあたしは商業区の建物群の屋上を走る。
枝や木が折れることを心配しなきゃならない森の中よりはマシだけど、路上と違ってさすがに屋上の連なりは足場が限られている。
そこを割と直線的に移動するが、魔力を纏ったすりこぎ棒が回転しながらときどき飛んでくる。
威力を弱めた奥義・月転陣だけど、これは母さんにもやられたんだよな。
着地の瞬間などを読んで飛んでくるのを、手の中の練習用の武器や魔力の刃で往なしながら逃げる。
途中二度ほど追いつかれるが、気配を追えているのでデイブのすりこぎ棒での連撃を手の中の武器や魔力の刃で対処しつつ迎撃する。
それにしても母さんと比べたらねちっこいというか、嫌な感じのフェイントを入れてくるなデイブは。
あと、心持ち刺突技が多い気がする。
迎撃しつつ距離を取って逃げるが、一足では跳べないほど離れている大通りに出たので、窓のベランダなどを足場にして路上に降り、再び大通りの向こう側の屋上に上る。
だがここで、デイブの気配が消えていることに気づく。
やられた。
似たようなことは母さんもやっていた。
あの時母さんは森の小動物の気配に自分の気配を重ねたあと、念入りに自分の気配を消して場に融け込んだのだったか。
これはいつ襲われてもおかしくないな、と思ったら背後から水魔力を纏ったすりこぎ棒で右の肩関節付近をつつかれていた。
「はい一本な」
「くっそー……」
「攻守交代だからな、追ってきなお嬢」
そう告げて、これまで見せたことの無いドヤ顔で微笑んでからデイブが視界から消えた。
なんだろう、凄くムカついた。
「待てーーー!!」
そのあと追いかけたのだけど、デイブは逃げる逃げる――。
鬼ごっこなのだから逃げるのは当たり前なのだけど、縦の動きで逃げるのだ。
ひさしやベランダを足場にするのは当たり前で、壁を走ったりもしていたな。
何度か先ほどやられた気配のすり替えをやろうとしていた。
だけど、さすがにあたしも母さんとのトレーニングを思い出してきてデイブを追跡した。
多少時間はかかったけど、そのあと二回攻守交替して、デイブとのトレーニングを終えた。
「刺突技というか、死帛澪月を多用するのは何か意図があるの?」
トレーニングが終わった後にソーン商会の屋上に戻ってから、気になったことを訊いてみた。
「ん? 王都の仕事は幸か不幸か対人戦闘が多くてな。多対一の状況だと死なない程度のケガ人を量産したほうが敵の手を止めやすいんだわ」
「敵の手を止める、か」
「ああ。ケガ人を作ればそこに敵の手が取られるからな。……まあ、暗殺のプロなんかは味方の損耗は気にせず突っかかってくるから、やり方は変えるがな」
暗殺集団とか限りなく相手にしたくない。
というかデイブよ、仕事は選んだ方がいいんじゃないのか。
「同じ突き技でも奥義の澪月八閃を使わないのも、対人戦が多いからなの?」
「そうだ。月転流の全力戦闘は魔力がすっ飛ぶからな。おれは魔力が多くないから色々考えるんだ」
死帛澪月は左右各腕で四刺一突を繰り出す刺突技で、一属性以上の魔力を纏わせる。
奥義の澪月八閃は左右各腕で四刺一突を繰り出し、このとき二属性以上の魔力を纏わせる。
あたしは慣れるまで、手斧を使った刺突技は出し辛かった記憶がある。
母さんによれば月転流が両手の武器を変えているのは理由があるそうだ。
伝統だからとか、敵の対処を難しくするとか、自分の攻撃の選択肢を増やすとか、様々な局面に対応するとか、色んな意図があるらしい。
でも、手斧で刺突技をしなくてもいいと思うんだが――もう慣れちゃったけど。
「ジナの姐御というか、宗家の方が武術流派として正しいと思うぜ。王都の月転流はちょっと隠形に特化してるかもしれん」
「武術に地域性による分化とかあるのかな?」
「あるだろうな。代替わりの変化もあるかも知れねえ。宗家というか、月転流の初代はもっと壊し技を意識してたみたいだ」
「どこで使うのよそれ……」
「そう思ったんだろうな。使いどころを見つけられなくて失伝した技があったはずだ」
確かにそれは母さんから話だけは聞いている。
「絶技・月爻の裏ね」
「そうだな。初代しか使えなかったし使わなかったと言われてる奴だな」
「まあ、そんな技が必要な場面に立会いたくないかな」
「おれも同感だ」
そう言ってデイブは笑った。
寮に戻って夕食の時間になったので、アルラ姉さんと食堂に向かう。
キャリルとロレッタも寮に戻ってきていたので一緒に夕食をとる。
ギルドで買ったダンジョンの冊子はキャリルの分もあるので、すでに渡してある。
「ダンジョンは遺跡という扱いですのね」
「あら、キャリルは知っているかと思ったわ。歴史研究会に入ったばかりだし、そこまでは知らないのね」
キャリルの呟きにロレッタが反応する。
「ダンジョンは先史文明の遺物という説が有力よね。地面の中を降りていくのに地中に草原や森があったりするから、特殊な魔道具という扱いをする人たちもいるわ」
「一階層に王都が入る程の大きさがあるのに魔道具なんだね」
アルラ姉さんの補足に思わず言葉が漏れる。
「ちょっといまの魔道具の技術水準から考えると、とてつもない規模よね。でも、そういう分析がされているわ。それだけ発達した技術の先史文明が、ほぼ記録を残さずに歴史から消えたというのも大きな謎なのだけど」
姉さんが食事をとる手を止めて告げた。
「あり得そうなのは、事故とかの突発的なトラブルだよね。文明が発達していたのなら、その記録を残した人たちもいただろうからさ」
「私もそれは同意見かしらね。……案外世界にはまだ人類が見つけていないダンジョンがあって、そこに記録が集約されている可能性もあるかも知れないけれど」
ロレッタがそう言ってあたしに微笑む。
「なかなかロマンがある話ですわ。ですがまずは、わたくしたちは王都南ダンジョンで修行しなければなりませんわね」
「そうね。今週末に向けて情報を集めておこう」
そう言ってあたしとキャリルは頷き合った。
0
あなたにおすすめの小説
東京ダンジョン物語
さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。
大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。
ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。
絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。
あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。
やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。
スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。
無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる