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37.カワイイの可能性
しおりを挟むその日の放課後は、キャリルも誘ってサラとジューンにくっついて魔道具研究会を訪ねてみた。
魔道具研の部室には、あたしたちよりも先にプリシラが来ていた。
「お、プリシラちゃん。例の奴やっとるん? 順調そう?」
「皆さん、いらしたのですね。先週作り始めたものは、基本的な部分は出来たと思います」
「凄いじゃないですかプリシラ! もう形にしたんですか?」
プリシラの言葉にジューンが少々興奮した表情を浮かべる。
「少し、動かしてみようと思います。動作テストを実施しますが、ご覧になりますか?」
あたしたちは揃って頷くと、プリシラは優しい微笑みを浮かべた。
「この魔道具が本体になっていて、中には砕いた魔石を含む塗料で回路が作られています」
そう告げてプリシラは手の中の木箱を示すが、大きさは筆箱くらいだ。
プリシラはその本体を大きな机の上に置く。
「次に、何でもいいのですが文具などの小さなものを、幾つか用意します」
【収納】の魔法を使い、プリシラは鉛筆を一ダースほど取り出して木箱の近くにまとめて置く。
「次に、いま置いた鉛筆を意識で捉えながら、本体に魔力を込めます。鉛筆が動き始めたら準備完了です」
説明の通りにプリシラが本体に魔力を込めると鉛筆は一本ずつ立ち上がり、順番に円を描いて本体の周囲を飛び跳ね始めた。
「おお、鉛筆が踊ってるやん!」
「未だここから変化します」
やがて本体の周囲を回っていた鉛筆のうちの一本がトントンとジャンプしながら円から離れると、今度はそれを追って数本の鉛筆がその周囲で飛び跳ね始めた。
「特定の動きを誘導する魔法を、一時的に任意の物体に付与する魔法を本体に組んでいます。従って、本体の魔力が尽きるまで、この鉛筆たちの円形のダンスが増えていきます」
あたしたちが驚きながら見守っていると、プリシラの説明の通り二つ目の円からさらに三つ目の円ができ、鉛筆が飛び跳ね始めた。
「現状では上限を二回までの付与に制限しています。本体の魔力が尽きるまで、鉛筆が踊ります」
そうしている間に、部室に居た他の部員が集まって鉛筆のダンスを見守り始めた。
「そろそろ魔力が尽きると思います」
プリシラがそう告げた次の瞬間、ドミノ倒しのように順を追って踊っていた鉛筆たちが机の上に倒れていった。
「以上です。お目汚ししました」
そう告げてプリシラはニッコリと笑った。
魔道具研の部員も含め、あたしたちはみんなで彼女に拍手した。
「プリシラは独特のセンスがありますよね」
ジューンが感心した表情でプリシラに告げる。
「そうでしょうか? 私は自身が成し遂げたいことを最短で実現したいだけです」
「ふーん? プリシラちゃんがやりたいことってなんなん?」
「特定範囲内の人形を、自律的にダンスさせる魔道具を実現したいだけです」
その時、プリシラの目がキラーンと光った気がした。
「なぜなら、カワイイものは集まるほど可愛くなると私は判断するからです」
そう告げたプリシラの目が、再度シャキーンと光った気がした。
「ふーん……。素人考えだけどちょっといいかな、プリシラ」
「何でしょう。ウィンさん」
「魔道具の誤作動や悪用防止のために、安全装置というか強制的に止める仕組みも考えておいた方がいいと思うわ」
「悪用防止……考えています……」
「今日は鉛筆だったけれど、これをナイフとか凶器で動かそうとする奴もいるかも知れないって思ったのよ」
場合によっては普通に罠に流用できそうだよね。
「……妥当な指摘だと理解します。そうですね、つまらない方々が悪用することでカワイイの可能性……訂正します。魔道具の可能性が閉ざされるのは避けるべきでしょう」
「べつに言い直さなくてもええやん。カワイイの可能性っていい感じやと思うけど」
そう言ってサラが笑った。
「そうですよね。魔道具研はここ何年かは、思考するだけで動かせる甲冑を開発するのを主にやってるみたいですよね。カワイイからはちょっと遠いかも知れません」
「思考で動かせる甲冑ですの?」
「そうらしいで。自分で着て、考える速度で反応できるようになるのを目指す人らが居るやろ」
「「ふむふむ?」」
あたしとキャリルは興味深げに聞き入る。
「それとは別に、離れたところから危険な作業をできるようにしたい人らが居るんや」
「わたくしとしてはどちらも興味深いですわね。ですがプリシラの『カワイイ』をテーマに掲げた魔道具も非常に興味深いですわ!」
「キャリルさん、賛意に感謝します」
そう言って再度、プリシラは目をキラーンと輝かせた。
あたしは彼女たちが、魔道具の妙な魔改造を始めないことを秘かに祈った。
夜になって自室で部屋着に着替え、宿題を片付けた。
机の上の借りてきたダンジョンの攻略本が目に入る。
読んでしまったのでそのうち返しに行かなければなと思いつつ、手に取ってページをめくる。
適当なところで本を読む手を止め、机の端に置いておいたオブジェに目が留まる。
先日の『美少年を愛でる会』取り締まりのときに、現場で拾ったまま忘れていたものだ。
「あの時の参加者のものか、そうじゃない落とし物かは分からなかったのよね」
手に取って眺めてみるが、何となく地球での記憶で似たものを見た記憶がある気がする。
そういえばケルトの意匠だったか、一筆書きの三つ葉マークでトリケトラとかいうものがあったはずだ。
日本での人生で何となくケルトの意匠が好きだったからか、スッと思い出せた。
「ただ、トリケトラにしては円を組合わせず三つ葉部分だけだね……。世界を超えて普遍的なものがあるデザインなのかな」
手に伝わる感じは、金属でできているようだ。
何気なくあたしは、その落とし物に【鑑定】の魔法を使った。
鑑定結果は以下のようなものだった。
・魔神の印章:魔神を祀る者の印。魔神と精霊と世界の均衡を象徴する。
「ぶっっ……。何よこれ!」
ああ、やってしまった。
もっと早くに調べておけばよかった。
あたしの鑑定の魔法の習熟度でこの内容が出たということは、これが最低限誰でも分かる情報だ。
だから少なくともこれは『魔神の印章』として作られたもので、持ち主はそれを知っていた可能性が強いだろう。
念のため、ダンジョンで精霊魔法の使い手を探した時のように、このオブジェ自体の気配を探るように意識を集中する。
だが、特に妙な気配は無いようだ。
ただのアクセサリー以上の意味は無いかも知れない。
「どうするかなぁ……」
魔神信仰は古エルフ族の祖霊信仰だってソフィエンタが言っていたな。
古エルフ族とかエルフ族はプロシリア共和国の民だ。
このオブジェでも精霊って情報が見られるし、精霊魔法の関係で学院の中に非公認サークルがあることは聞いている。
あたしよりも鑑定の魔法に習熟した人なら、もっと情報が取れるのは間違いない。
「とりあえずデイブに相談するか」
自分でももっと細かく鑑定の魔法で情報が取れたら、効率的に調べ物が進むんだろうなと思いつつ、【風のやまびこ】を使った。
「デイブさーん、いまちょっといいですかー?」
「どうしたお嬢、いきなりさん付けで」
幸いデイブにはすぐ繋がった。
「ええと、先週なんだけど学内で妙なものを拾っちゃってさ。今日になって自分で鑑定の魔法を使ったら、穏やかじゃない感じのものなの」
「そうか。お嬢の【鑑定】は一般的な情報しか分からねえんだよな?」
「ええ。それでもヤバそうなの。これからそっちに持ってっていい?」
「持ってくるのが寮を抜け出す口実ってわけでもねえんだな?」
「残念ながら違うわね」
「分かった。いつも通り裏口から来てくれ」
通信を終わらせて部屋のカギがかかっているのを確認し、あたしは黒い戦闘服に着替えた。
気配を消して窓から出るが、寮から少し離れたところで妙な気配があることに気付く。
気配の消し方がロッド達に似ている気がしたので、たぶん王家の暗部の人たちなのだろうと判断した。
そのうちの一つに適当に背後から近づいて、あたしは声を掛けた。
「すいませーん、ロッドさんの同僚の方ですか?」
驚いた表情を浮かべて姿を現したその人物は、地味な色のジャケットを着た青年だった。
年齢は二十歳前くらいだろうか。
黙っていれば学院関係者に見えるかも知れない。
彼は半身に構えてあたしを観察するが、直ぐに警戒する雰囲気を緩めた。
「『八重睡蓮』殿か。こんばんは」
「お仕事ですか? お疲れさまです。ところであたし、仕事で月転流の上役に会いに学院を出入りします。大丈夫ですか?」
「承知した。仲間に伝えておく」
「ありがとうございます」
「ところで、その……」
「何でしょうか?」
「もし良かったら、握手してもらっていいだろうか」
「握手? 別に構いませんけど」
そう応えてあたしは青年と握手した。
「それじゃあ、お仕事頑張ってくださいね」
「ああ、もちろんだ!」
そう告げると青年はやる気を表情に浮かべて気配を消した。
あたしも気配を消して、夜の学院を走った。
走りながら、そういえば裏社会の住人や暗部にファンクラブがあると言われたことを思いだした。
「さっきのはそういうことか? ……デイブに相談するかなぁ」
思わずため息をつきながら、あたしは移動速度を速めた。
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