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第二章
通貨と貨幣
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行商人のベンとは無事に合流出来た。
そして話の流れでそのまま彼も一緒に浴場へ行くことに。
荷車や積み荷が心配だったのでどう管理しているのか聞いてみた。
するとベンは商人ギルドについて教えてくれた。
「行商人の馬車って積み荷があるので、その辺に放置出来ないじゃないですか。それだと困るので、商人ギルドが出資して馬車の係留場所を作ってくれているんです」
町で店を構えている商店の仕入れ先はベンのような行商人だ。
行商人が安全に過ごせなければ、馬車も来なくなり品物が入って来なくなる。
仕入れを滞りなく行うための施設というわけだ。
「もちろん多少のお金は支払いますが、馬の世話までしてくれるんですよ。お陰で一人で行商をしていても、こうして外出も出来るのでとても助かってます」
「我々の荷物まで一緒に預かっていただいてすみません」
「いやー、あの量ですからね。持って歩くわけには行きませんし」
数百本のゴブリンの牙を持ち歩いていたら、町の衛兵から不審がられそうだ。
かと言って全部換金してしまうと、今度はそのお金を持ち歩く事になる。
お金の心配が無いうちは、暫く預かってもらう方が良いだろう。
他にも商売の話をいくつか聞いていると、いつの間にか浴場に到着していた。
「全然変わってないですね。懐かしいなぁ。」
ベァナが入浴料の小銅貨2枚を渡してくれた。
ここに来る途中、ベァナにお金の価値について聞いてみたところ、この世界の住人にとっては銅貨1枚が百円程度の感覚らしいという事がわかった。
小銅貨五枚で銅貨一枚なので……入浴料四十円。
あり得ないくらい安い。
水道光熱費とかどうなってるんだろう。
「私、結構長風呂ですので、ゆっくりでいいですからね!」
彼女はそう言い残して女湯へ消えていった。
もちろん男女別の湯舟だ。
「それじゃ我々も行きますか、ヒースさん」
入り口で入浴料を払い、中に入って行った。
湯舟に入る前に洗い場で体を洗うのがルールだと聞いて安心した。
日本の習慣と同じだったからだ。
ヨーロッパとかだとバスタブが体を洗う場所だったりする。
もしかすると公衆浴場が出来るような世界だったからこそ、洗い場というものが生まれたのかもしれない。
しかし残念な事に……この世界にはまだ石鹸がなかった。
アラーニ村の温泉は独特の粘りがあったため、多分アルカリ泉だったのだろう。
確かにアルカリ泉ならば油脂や角質を落す効能がある。
しかしこの公衆浴場は温泉では無い。
「これは何かのマメですね」
「もっと南のほうだと米糠とかで洗う所もあるそうですが」
「気分的にはこっちのほうがいいですね」
マメ科植物の中には実にサポニンが含まれているものもある。
天然の界面活性剤だ。
石鹸が普及する前は、日本でも使われていたらしい。
そしてもちろんボディタオルなんて存在しない。
ヘチマから作ったヘチマタワシがタオル替わりだ。
植物だけで体を洗うための道具が揃ってしまう。
人類の知恵は本当に偉大だ。
俺は体を洗いながら、風呂全体を見回してみた。
「さすがに結構人が多いですねぇ」
「家にお風呂がある家は殆どありませんし、この浴場自体安いですからねぇ」
ふと気になって風呂の人たちを見回す。
首に紋様が入っている人は一人も居なかった。
「それでもやはり奴隷には無理なんですね」
「別に禁止されてはいないんですけどね。奴隷は自分の資産を持てませんし立場も弱いので、無用なトラブルが起こるのを管理者が避けているのかも知れませんね」
「無用なトラブルと言うと?」
「自分が管理している奴隷でも無いのに、見下す人間がいるという事です。管理者自体も立場の弱い人間が多いので、なおさら他の人間との接触は控えるでしょう」
ベンの言葉を聞いて、昼間に出会った管理者の若者を思い出す。
確かにあれは、明らかに立場の強い人間の表情ではなかった。
一通り体を洗い終え、俺もベンも湯船に浸かる。
「ところで……ベァナさんの機嫌が元に戻ったようで良かったです。何があったんですか?」
そう言えばベンはあの場から逃げたんだった!
まぁ……色々世話になっているのでここは不問にしておこう。
「実はあの後、主人のアーネストさんとお話しましてね。別の商品をいただいたら、ベァナがそれを気に入りまして」
「アーネストさん本人にお会い出来たのですか!」
「ええ。気さくな人でしたね」
「いやぁ運が良かったですね。どんな話をされたんですか」
「まぁチーズの話から、その管理が大変だと言う話になりまして……その件で明日もアーネストさんと会う約束をしているのです」
「アーネストさんから会う約束を!?」
ベンは驚きの声を上げた。
彼にしては珍しい……どういう事だろう?
「もしかして……お偉い方なんでしょうか?」
「まさか本人に会うとは思っていなかったのでお話はしていませんでしたが、北門の手前に広大な耕作地がありましたよね?」
良く覚えている。
奴隷という立場ながら、生き生きと仕事をしていた人々。
「ダンケルドに着く前の、あの耕作地ですね。覚えてます」
「アーネストさんはあの土地の地主なんです」
「なるほど……そういう事でしたか」
彼の店は食料品店だったが、穀物を挽いて作った様々な粉やパン、野菜類、他にも肉や乳製品など、あらゆる食品が並べられていた。
つまりあのお店は、産地直売の店なのだ。
「かなり手広く商売をやられていてお忙しい方なので、あまりアポが取れないと聞いていますが……もし……」
ベンは少し言い出しづらそうに、しかしはっきりとこう切り出した。
「もし頼めそうな時で構いませんので……紹介していただけませんか!」
ベンも商人だ。人が良さそうに見えても、その辺に抜かりはない。
「まぁまだ世間話をしたくらいの仲ですし、様子を見てからですかね」
「ええ。それで構いません。なかなかお話も出来ないもので……」
人の伝手を頼るのは効果的な手法だ。
よくコネを使う事について否定的な考えを持つ人がいるが、どこの馬の骨とも知れない人間と取引するくらいなら、信用出来る友人の知り合いを紹介してもらったほうが危険回避手段としては有効である。
類は友を呼ぶ、だ。
「すぐには執り成し出来ないと思うのですが、ダンケルドにはいつまで滞在する予定ですかね?」
「もうそれは……アーネストさんと商談出来るまで滞在予定です!」
「ははは。わかりました。無理そうでしたらすぐにお伝えしますね」
まだ日取りまでは確定していないが、ティネがトレバーの町に行ったというならば、俺たちもそちらに向かわなければならなくなるだろう。
しかしトレバーは間違いなく、行商が出来るような状態にはない。
つまりベンと俺たちは、違う目的地を目指すことになる。
今後の移動手段についても考えておかなければならないだろう。
俺たちが風呂から出た少しあとに後、満足顔のベァナも風呂から上がって来た。
ベンには俺たちの滞在先を伝え、それぞれの拠点に戻って行った。
宿に戻り酒場での食事を終えた俺たちは、自室に戻っていた。
「最初に聞いていた通り、食事もおいしかったですね!」
ダンケルドに到着した頃の彼女からは想像出来ないほど、今は上機嫌だ。
「メアラのおすすめ宿にして大正解だったね。」
宿の食事で思い出したが、夕食と朝食込みで安くなると言っていた。
銅貨については風呂に行く前に少し聞いていたが、他の硬貨などの価値や交換レートがわからない。
「なぁベァナ。この世界のお金について教えてくれないか。」
「はい、いいですよ。それじゃあ実際のお金で説明しましょうか」
彼女はそう言うと自分の巾着袋を持ってきて、中の硬貨を並べ始めた。
俺たちは向かい合わせに座り、二人して並んだ硬貨を覗き込んでいた。
「額の一番小さい順に説明しますね。このとても小さな硬貨が真鍮貨です。一応1プレスっていう単位が付いていますが、みんなそのまま真鍮貨って呼んでます。これ一枚で買えるものはあまり無いですが」
初めて見る硬貨だった。
真鍮というだけあって金色にも見えなくはない。
しかし本物の金は色がもっと濃く、そして重い。
真鍮はジェイコブが鋳物にも使っていたので、比較的手に入りやすい金属だろう。
その後も銅貨、銀貨についての説明を受け、同じ種類の通貨内では五枚で上位通貨に交換出来るという事を知った。
銅貨で言えば、小銅貨五枚で銅貨一枚、銅貨五枚で大銅貨一枚という形だ。
ただし硬貨の素材が変わる時だけ四倍の価値での交換になる。
大銅貨四枚が小銀貨一枚と同じ価値らしい。
額面が100になると次の通貨に切り替わるという事だろう。
まだ紙幣が無い世界なので、硬貨の種類が多い。
真鍮、銅、銀だけで7種類もある。
ただどれも色と大きさが異なり、硬貨に使われている金属の希少性も地球と同じなので、見間違う事は無さそうだ。
おおざっぱな価値としては中サイズの銅貨が100円、同じく中サイズの銀貨が2000円程度の価値らしい。
「私がお爺様からいただいた巾着の中身はほぼ銅貨と銀貨だったのですが……実は一枚だけすごいお金が入ってのです」
彼女はそう言って、見覚えのある、小さな一枚の硬貨を目の前に差し出した。
この輝きは……
「金貨か?」
「はい。小金貨です。大銀貨四枚分の価値があります。」
二人してその硬貨を覗き込んでいたが、彼女はおもむろにその顔を上げた。
ちょっと顔が近い。
「実は私、生まれて初めて金貨を見たのです!」
大銀貨が一万円分だから、目の前の金貨は四万円の価値がある。
アラーニのように住民同士で物物交換して暮らしているような村では、確かに使う場面は思いつかない。
「そんな硬貨を持たせてくれたんだね。村長奮発したんだなぁ」
「そうですね。だからお母さまとお爺様の期待には絶対に応えないと!」
とりあえずお金についての知識は得る事が出来た。
俺が感謝をすると、彼女は鼻歌のようなものを歌いながら、出した硬貨を楽しそうにしまっていた。
一緒にいる人が楽しそうだと、こちらまで楽しくなるから不思議だ。
その後寝るまでの間、今日起きた様々な出来事について話をしていたが……
さすがに疲れたのだろう。
彼女はベッドに入ると、すぐに眠りに落ちたようだった。
◆ ◇ ◇
ベァナが眠った後。
俺は自分の背嚢から巾着袋を取り出し、中身を確認した。
この世界に来た翌日に確認した、数枚の硬貨。
やはりあった。
孫の旅費として村長が捻出した小金貨と同じものが。
ただし小金貨は一枚だけで、他は全て違う硬貨だ。
更に厳密に言うと……
色だけが全て同じだった。
これらの金貨が手元にある経緯。
それを考えないようにすればする程、かえって目が冴えてしまうのだった。
そして話の流れでそのまま彼も一緒に浴場へ行くことに。
荷車や積み荷が心配だったのでどう管理しているのか聞いてみた。
するとベンは商人ギルドについて教えてくれた。
「行商人の馬車って積み荷があるので、その辺に放置出来ないじゃないですか。それだと困るので、商人ギルドが出資して馬車の係留場所を作ってくれているんです」
町で店を構えている商店の仕入れ先はベンのような行商人だ。
行商人が安全に過ごせなければ、馬車も来なくなり品物が入って来なくなる。
仕入れを滞りなく行うための施設というわけだ。
「もちろん多少のお金は支払いますが、馬の世話までしてくれるんですよ。お陰で一人で行商をしていても、こうして外出も出来るのでとても助かってます」
「我々の荷物まで一緒に預かっていただいてすみません」
「いやー、あの量ですからね。持って歩くわけには行きませんし」
数百本のゴブリンの牙を持ち歩いていたら、町の衛兵から不審がられそうだ。
かと言って全部換金してしまうと、今度はそのお金を持ち歩く事になる。
お金の心配が無いうちは、暫く預かってもらう方が良いだろう。
他にも商売の話をいくつか聞いていると、いつの間にか浴場に到着していた。
「全然変わってないですね。懐かしいなぁ。」
ベァナが入浴料の小銅貨2枚を渡してくれた。
ここに来る途中、ベァナにお金の価値について聞いてみたところ、この世界の住人にとっては銅貨1枚が百円程度の感覚らしいという事がわかった。
小銅貨五枚で銅貨一枚なので……入浴料四十円。
あり得ないくらい安い。
水道光熱費とかどうなってるんだろう。
「私、結構長風呂ですので、ゆっくりでいいですからね!」
彼女はそう言い残して女湯へ消えていった。
もちろん男女別の湯舟だ。
「それじゃ我々も行きますか、ヒースさん」
入り口で入浴料を払い、中に入って行った。
湯舟に入る前に洗い場で体を洗うのがルールだと聞いて安心した。
日本の習慣と同じだったからだ。
ヨーロッパとかだとバスタブが体を洗う場所だったりする。
もしかすると公衆浴場が出来るような世界だったからこそ、洗い場というものが生まれたのかもしれない。
しかし残念な事に……この世界にはまだ石鹸がなかった。
アラーニ村の温泉は独特の粘りがあったため、多分アルカリ泉だったのだろう。
確かにアルカリ泉ならば油脂や角質を落す効能がある。
しかしこの公衆浴場は温泉では無い。
「これは何かのマメですね」
「もっと南のほうだと米糠とかで洗う所もあるそうですが」
「気分的にはこっちのほうがいいですね」
マメ科植物の中には実にサポニンが含まれているものもある。
天然の界面活性剤だ。
石鹸が普及する前は、日本でも使われていたらしい。
そしてもちろんボディタオルなんて存在しない。
ヘチマから作ったヘチマタワシがタオル替わりだ。
植物だけで体を洗うための道具が揃ってしまう。
人類の知恵は本当に偉大だ。
俺は体を洗いながら、風呂全体を見回してみた。
「さすがに結構人が多いですねぇ」
「家にお風呂がある家は殆どありませんし、この浴場自体安いですからねぇ」
ふと気になって風呂の人たちを見回す。
首に紋様が入っている人は一人も居なかった。
「それでもやはり奴隷には無理なんですね」
「別に禁止されてはいないんですけどね。奴隷は自分の資産を持てませんし立場も弱いので、無用なトラブルが起こるのを管理者が避けているのかも知れませんね」
「無用なトラブルと言うと?」
「自分が管理している奴隷でも無いのに、見下す人間がいるという事です。管理者自体も立場の弱い人間が多いので、なおさら他の人間との接触は控えるでしょう」
ベンの言葉を聞いて、昼間に出会った管理者の若者を思い出す。
確かにあれは、明らかに立場の強い人間の表情ではなかった。
一通り体を洗い終え、俺もベンも湯船に浸かる。
「ところで……ベァナさんの機嫌が元に戻ったようで良かったです。何があったんですか?」
そう言えばベンはあの場から逃げたんだった!
まぁ……色々世話になっているのでここは不問にしておこう。
「実はあの後、主人のアーネストさんとお話しましてね。別の商品をいただいたら、ベァナがそれを気に入りまして」
「アーネストさん本人にお会い出来たのですか!」
「ええ。気さくな人でしたね」
「いやぁ運が良かったですね。どんな話をされたんですか」
「まぁチーズの話から、その管理が大変だと言う話になりまして……その件で明日もアーネストさんと会う約束をしているのです」
「アーネストさんから会う約束を!?」
ベンは驚きの声を上げた。
彼にしては珍しい……どういう事だろう?
「もしかして……お偉い方なんでしょうか?」
「まさか本人に会うとは思っていなかったのでお話はしていませんでしたが、北門の手前に広大な耕作地がありましたよね?」
良く覚えている。
奴隷という立場ながら、生き生きと仕事をしていた人々。
「ダンケルドに着く前の、あの耕作地ですね。覚えてます」
「アーネストさんはあの土地の地主なんです」
「なるほど……そういう事でしたか」
彼の店は食料品店だったが、穀物を挽いて作った様々な粉やパン、野菜類、他にも肉や乳製品など、あらゆる食品が並べられていた。
つまりあのお店は、産地直売の店なのだ。
「かなり手広く商売をやられていてお忙しい方なので、あまりアポが取れないと聞いていますが……もし……」
ベンは少し言い出しづらそうに、しかしはっきりとこう切り出した。
「もし頼めそうな時で構いませんので……紹介していただけませんか!」
ベンも商人だ。人が良さそうに見えても、その辺に抜かりはない。
「まぁまだ世間話をしたくらいの仲ですし、様子を見てからですかね」
「ええ。それで構いません。なかなかお話も出来ないもので……」
人の伝手を頼るのは効果的な手法だ。
よくコネを使う事について否定的な考えを持つ人がいるが、どこの馬の骨とも知れない人間と取引するくらいなら、信用出来る友人の知り合いを紹介してもらったほうが危険回避手段としては有効である。
類は友を呼ぶ、だ。
「すぐには執り成し出来ないと思うのですが、ダンケルドにはいつまで滞在する予定ですかね?」
「もうそれは……アーネストさんと商談出来るまで滞在予定です!」
「ははは。わかりました。無理そうでしたらすぐにお伝えしますね」
まだ日取りまでは確定していないが、ティネがトレバーの町に行ったというならば、俺たちもそちらに向かわなければならなくなるだろう。
しかしトレバーは間違いなく、行商が出来るような状態にはない。
つまりベンと俺たちは、違う目的地を目指すことになる。
今後の移動手段についても考えておかなければならないだろう。
俺たちが風呂から出た少しあとに後、満足顔のベァナも風呂から上がって来た。
ベンには俺たちの滞在先を伝え、それぞれの拠点に戻って行った。
宿に戻り酒場での食事を終えた俺たちは、自室に戻っていた。
「最初に聞いていた通り、食事もおいしかったですね!」
ダンケルドに到着した頃の彼女からは想像出来ないほど、今は上機嫌だ。
「メアラのおすすめ宿にして大正解だったね。」
宿の食事で思い出したが、夕食と朝食込みで安くなると言っていた。
銅貨については風呂に行く前に少し聞いていたが、他の硬貨などの価値や交換レートがわからない。
「なぁベァナ。この世界のお金について教えてくれないか。」
「はい、いいですよ。それじゃあ実際のお金で説明しましょうか」
彼女はそう言うと自分の巾着袋を持ってきて、中の硬貨を並べ始めた。
俺たちは向かい合わせに座り、二人して並んだ硬貨を覗き込んでいた。
「額の一番小さい順に説明しますね。このとても小さな硬貨が真鍮貨です。一応1プレスっていう単位が付いていますが、みんなそのまま真鍮貨って呼んでます。これ一枚で買えるものはあまり無いですが」
初めて見る硬貨だった。
真鍮というだけあって金色にも見えなくはない。
しかし本物の金は色がもっと濃く、そして重い。
真鍮はジェイコブが鋳物にも使っていたので、比較的手に入りやすい金属だろう。
その後も銅貨、銀貨についての説明を受け、同じ種類の通貨内では五枚で上位通貨に交換出来るという事を知った。
銅貨で言えば、小銅貨五枚で銅貨一枚、銅貨五枚で大銅貨一枚という形だ。
ただし硬貨の素材が変わる時だけ四倍の価値での交換になる。
大銅貨四枚が小銀貨一枚と同じ価値らしい。
額面が100になると次の通貨に切り替わるという事だろう。
まだ紙幣が無い世界なので、硬貨の種類が多い。
真鍮、銅、銀だけで7種類もある。
ただどれも色と大きさが異なり、硬貨に使われている金属の希少性も地球と同じなので、見間違う事は無さそうだ。
おおざっぱな価値としては中サイズの銅貨が100円、同じく中サイズの銀貨が2000円程度の価値らしい。
「私がお爺様からいただいた巾着の中身はほぼ銅貨と銀貨だったのですが……実は一枚だけすごいお金が入ってのです」
彼女はそう言って、見覚えのある、小さな一枚の硬貨を目の前に差し出した。
この輝きは……
「金貨か?」
「はい。小金貨です。大銀貨四枚分の価値があります。」
二人してその硬貨を覗き込んでいたが、彼女はおもむろにその顔を上げた。
ちょっと顔が近い。
「実は私、生まれて初めて金貨を見たのです!」
大銀貨が一万円分だから、目の前の金貨は四万円の価値がある。
アラーニのように住民同士で物物交換して暮らしているような村では、確かに使う場面は思いつかない。
「そんな硬貨を持たせてくれたんだね。村長奮発したんだなぁ」
「そうですね。だからお母さまとお爺様の期待には絶対に応えないと!」
とりあえずお金についての知識は得る事が出来た。
俺が感謝をすると、彼女は鼻歌のようなものを歌いながら、出した硬貨を楽しそうにしまっていた。
一緒にいる人が楽しそうだと、こちらまで楽しくなるから不思議だ。
その後寝るまでの間、今日起きた様々な出来事について話をしていたが……
さすがに疲れたのだろう。
彼女はベッドに入ると、すぐに眠りに落ちたようだった。
◆ ◇ ◇
ベァナが眠った後。
俺は自分の背嚢から巾着袋を取り出し、中身を確認した。
この世界に来た翌日に確認した、数枚の硬貨。
やはりあった。
孫の旅費として村長が捻出した小金貨と同じものが。
ただし小金貨は一枚だけで、他は全て違う硬貨だ。
更に厳密に言うと……
色だけが全て同じだった。
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それを考えないようにすればする程、かえって目が冴えてしまうのだった。
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