【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

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異世界の環境改革

調査隊と仲裁と

「では皆さん、トリスタンさんが開発した魔素計測器で、各自担当エリアの魔素を調査して、終わったら魔王城に戻ってきてくださいね!
問題が起きた場合は、ペアになっている魔族の方に通信魔法でエネルと連絡を取ってもらえれば、私にもすぐ伝わります! よろしくお願いしまーす!」

エミリの明るい声に、調査隊の面々がそれぞれ頷いた。




エミリたちは魔王城へ戻り、魔獣の分布図をもとにエリアを細かく区切り、調査の拠点を整えていった。そして、ついに各班の出発が始まる。


「えーと、エネル。私たちの担当は……」

地図を広げたエミリが目を走らせると、エネルが横から覗き込み、苦々しい顔で呟いた。

「……紅砂渓谷だ。ゼル族とアラン族の集落があって、魔獣の巣がある一帯を“聖地”として崇めている。
……かつてはひとつの部族だったが、内紛で分裂した。火種は今もくすぶってる」


その言葉に、エミリの脳裏に浮かんだのは──あの文書だった。


「……この間、魔王城に届いた嘆願書。『旧部族間の対立が再燃しています。公平な仲裁役を求む』って……この件でしたか」

「ああ。だから俺たちがそのエリアを担当することにした。どうせ仲裁に行くなら、ついでに魔素も調べてこいって話だ」

「……顔見知り、なんですよね?」

「アラン族の族長には昔、命を救われた。ゼル族の若い戦士にも借りがある。ま、両方に顔は利く」

エネルは肩をすくめ、どこか気だるげに言う。

「なら、仲裁役としては最適じゃないですか。
ちょうど魔王城としても、“中立の立場を持つ魔族の派遣”って形を見せたいところですし」

「お前……簡単に言うなよ。部族の問題ってのは、理屈だけじゃ動かん」

エネルがぼやくように言うと、エミリはにこりと笑って地図を胸元にしまった。

「わかってます。私の世界でもいろいろありますからねー」




******



二人の足取りは、確かに紅砂渓谷へと向かっていた。

風に乗って、遠く赤い砂がさらりと舞う。乾いた空気の中に、ぴんと張り詰めた気配が漂う。

「……なんか、異世界に来てからずっと歩いてる気がします。転移魔法とか、そういうのは眉唾だったんですね…」

エミリがぼやくと、隣を歩くエネルが淡々と返す。

「二人でなら転移魔法も使えないことはない。ただ、魔力の消費がバカにならん。疲れる」

「歩くほうが、明らかに疲れると思いますけど……」

エミリはじと目でエネルをにらむ。

「……」

「そもそも王城からそんなに遠くないだろ。文句言うな」

「私、今何も言ってないんですけどー」

「顔がうるさい」


エミリはむっと口を尖らせたが、足は止めない。そんな調子で軽口を交わしているうちに、二人は清らかな川にたどり着いた。

夕陽を受けてきらめく水面。川沿いの岩肌には風にさらされた紅い砂がうっすらと積もっている。


「この川を挟んで、右側がアラン族の領域、左がゼル族の領域だ。
互いに干渉はしないが、聖地──この渓谷の奥の魔獣の巣をめぐって、ずっと静かな緊張状態が続いてる」

「なるほど……今回、嘆願書が出てきたということは、しょっちゅう揉めているってことなんですか?」

「いや、普段はここまで表立った対立はない。元は同じ部族だったんだ。分裂したのは、何百年も前の話だが……今になって火種が再燃するってのは、何か原因があるはずだ」

エネルの言葉に、エミリは真剣な表情を浮かべた。

「調査と仲裁、同時に進めるしかなさそうですね」

「そうだな。慎重に行くぞ。特にゼル族は、外からの介入に過敏だ。お前、人間だしな」

「差別かもしれませんが、正論なので否定できないのがつらいです……」


二人は川を越え、風の向こうに広がる赤土の渓谷へと歩を進めていく。

まだ見ぬ因縁と、かすかな異変の気配が、彼らを待っていた。
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