魔法の盟約~深愛なるつがいに愛されて~

南方まいこ

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私の番

#40

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 ぼんやりとセレスは窓から外を眺める。厳密には離宮の建物だが、妙だと思ったのは、夜になっても明かりが灯らなくなったことだ。
 それと、あの日、『ここから出してやる』と陛下が言った日から、既に数日が経っていた。
 ダーヴィンが一度言ったことを取りやめるような人では無いことくらい、セレスが一番良く知っている。だから、リュシアの身に何かあったのだろうか、と不安に駆られた。
 ただ、ここから出て、また従者として仕えることが、どれだけ苦痛か分かっているだけに、出してもらえない方がありがたいと思っていた。
 その日の昼過ぎ――、自分の父親が身支度の衣類などを持って来てくれた。

「セレス、申し訳ない……、君をこの国から除籍する」
「そうですか……」
「最初の申し出通り、サザンディオ国へ向かうことを命じる。これは陛下からの命令だ。そして二度と、このベルヴィルの地を踏むことは許可出来ない」
「分かりました」

 リュシアの記憶が戻り、彼が自分を拒んだのだろう。
 一度ならず二度も捨てられるとは……、と思ったが、記憶のあるリュシアの元で何に食わぬ顔をして仕えることなど、自分も出来るわけもなく、逆にありがたいことだと受け止めた。

「あー……、それから、向こうには既に住む場所も用意してある。だから、特に困ることもないだろう」
「お気遣い頂きありがとうございます」
「はあ……、こんな時くらい息子らしく返事をしなさい」

 困ったような顔をする父を見て、セレスは笑みを浮かべ、息子らしく礼を述べた。

「……父上、感謝します」
「あとは……、まあ、詳しいことは向こうに行けば分かるだろう」

 自分に背を向けた父が、一度立ち止まり、「元気でな」と小さな声で言った。
 その言葉に「はい」とセレスは返事をし、父親の足音が遠ざかるのを静かに見守った。
 渡された真新しい衣類に袖を通していると、パタパタと走って来る足音が聞える。足音の主が鉄格子の前に現れるのを待っていると、満面の笑みを浮かべたエヴァンが鍵を開けた。

「遅くなって、すみません」
「いや、今まで、ありがとう」
「とんでもないです。私の方こそお役に立てることも無くて、すみませんでした」

 頭を横へ振るとセレスは笑みを浮かべた。東の魔法書庫を通り過ぎ、王宮の正門へ向かうと、馬車が用意されていた。

「本当はウリックがセレス様を送って行くと仰ってましたが、急にやっぱりやめると不貞腐れまして……」
「ウリックらしいですね」
「本当に、アイツ……、そろそろ弟離れした方がいいと思うんですよね」

 何の話なのかと、セレスがエヴァンを見ていると、はっとした顔を見せ、彼は慌てて話題を変えた。
 
「一度、家に戻られますか?」
「何故?」
「必要な物があれば持って行っていいと聞いております」

 既に部屋の荷物は処分しているし、今さら家に戻った所で何もないが、屋敷の人間に挨拶してからでも遅くはないか、と屋敷に顔を出すことにした。
 自分の家へと戻り皆に最後の挨拶を終え、王宮の建物を見上げる。
 書記官になり、ダーヴィンの元で働いてた期間、大量の同盟の申告に目を通し、その度に陛下なりの考えを学び、王国にとって何が一番必要なのかを学んだ。
 決して、非道で理不尽なことを言うような人では無かったし、今でも国王として尊敬している。
 他国に移っても、同じ魔法王国の大陸内だ、いずれ役に立てる日も来るだろう。
 セレスは王宮へ深々と頭を下げると馬車へ乗り込んだ――。

 サザンディオ国までの道のりは、ふた山と三つの深い森を越えて行く。魔動力で動く車もあるが、それには風魔法の使い手が乗り込まないといけない、恐らくウリックが、自分を送る予定だったのを渋ったのだろう。
 まったく、いつまでたっても困った生徒だと、セレスは軽く息を吐いた。

「セレス様、そろそろ到着します」
 
 馭者ぎょしゃから報告を受け、窓の外を見た。
 この国は魔力が枯渇してしまった者が住む国だが、まったく魔力が無いわけでもなく、一部の人間は回復に時間が掛かるだけで、普通に魔法を使う人間もいた。
 ベルヴィル王国よりは静かな街並みだが、港に近いこともあり淡い色合いの落ち着いた建物と、中心に高く聳える魔法管理塔は、それなりに立派な建物だった。
 国の管理塔へと到着し、挨拶をするために塔の中へ向かうと、水魔法の使い手が出迎えてくれた。

「はじめましてセレス様、私はヨハンと申します」
 
 初老の老人が丁寧に出迎えてくれた。

「まだ何も説明を受けてないと思われますので、簡単に私からご説明をさせて頂きます」

 ヨハンと名乗った老人は、こほん、と咳払いをすると、今後セレスが魔法塔の管理者だと教えてくれる。

「私が……、ですか?」
「左様です」
「今までは、どなたが管理されていたのでしょうか」
「私です」

 ニカっと笑みを見せる老人は、数年前から、早く次の魔塔の管理者を連れて来いと、ベルヴィル王国へ申請していたと言う。
 ヨハンは今までの堅苦しい姿勢を崩すと、口端を歪めた。

「まったく、年寄りにいつまで労働させるつもりだったのやら」

 大きな溜息を吐く彼を見ながら、「お気の毒でしたね、今後は労働に年齢制限を設けるといいかも知れません」とセレスは笑みを零した。

「ん、お前さんは話しが分かる相手のようだ、さすが、エグモントの息子だ」
「父をご存じなのですか?」
「まあな、あれが儂の生徒だった頃は、本当に生意気で――」

 何処かで同じような体験をしているセレスとしては、妙な親近感を抱いたが、それが自分の父親だと思うと複雑だった。
 一通り塔の説明を聞き終えると、ヨハンはセレスが住むことになる家の話をした。

「ベルヴィル王国から、従者が大勢来てな、たった三日で豪華な家を建てて行った」

 そう言って、塔から近しい場所へ目をやった。
 ヨハンの視線の先にある屋敷を見れば、ひとりで住むには少々広すぎると思われる建造物が建っており、門前には護衛が数人立っていた。

「除籍した人間には、分を超えた待遇ですね」
「まあ、王からの気遣いなのだろう。新婚だと聞いているし、わざわざ、こんなさびれた国の管理などさせるのは、申し訳ないと思っておられるのだろう」
「新婚……?」
「違うのか?」
 
 一体、何の話をしているのかと小首を傾げていると、魔塔に関しての詳しい説明は明日すると言われ、塔を出るとヨハンは屋敷の方へ歩き出した。
 よく分からないまま、セレスがこれから住むことになる家へ向かうと、中から知った声が聞こえてくる。

「まったく、これで何度目だと思っているのでしょうか」
「……カルメン?」
「あ、セレス様!」

 ただでさえ、良く分からない状況だと言うのに、カルメンが屋敷から出て来て気が動転する。

「カルメン……、私は状況がまったく……わから……」

 本当に分からない状況だった。 最初は他人の空似かと思った。

「セレス?」

 自分の記憶の中では、長い絹毛だった。その髪が短く肩で切り揃えられており、サラリと揺れて一瞬顔が隠れた。
 その髪を片手でかき上げると、小さく美しい顔がこちらを見て優美に微笑み、不思議そうな顔をした。

「セレス? どうしたの? 随分、遅かったね」
「……っごほ……っ」 

 息をするのを忘れて、咳き込みながら、そのまま腰を地面に落とした。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫……では……」

 大丈夫なわけがなかった。自分の目の前にいるのが本当にリュシアなのかと凝視していると、彼は「もしかして、何も聞いてないの?」と目を丸くさせた。
  
 ――綺麗だ……。

 その時、リュシアの瞳に宿った六芒星を、セレスは一生忘れることは出来ないだろうと思った――。
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