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迷い込んだ料理人
第4話 村の食事の問題点を知る
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夕方、炊事場の空気は朝とはまったく違っていた。
かまどの火が一斉に点り、大鍋から立ち上る湯気が屋根の下にゆらゆらと溜まっている。木の椀を並べる音、子供たちの笑い声、大人たちの話し声。村の多くの人間が、この時間にここへ集まるようだ。
タクミは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
「これが、いつもの夕飯」
隣に立ったミリアが言う。
「まとめて作るんだな」
「各家でやると薪も時間もかかるからね」
合理的ではある。だが同時に、調理方法が変わりにくい環境でもあった。
タクミは、大鍋の前に立ち、椀を一つ借りた。
「味見してもいいか?」
「どうぞ」
炊事場をまとめている女性がうなずく。
タクミはスープを少しすくい、口に運んだ。
味がないわけではない。だが、全体的にぼんやりしている。肉も野菜も入っているのに、それぞれの味がまとまりきっていない。塩気もかなり控えめだった。
「どう?」
ミリアは、不安そうな顔をしながらのぞき込む。
「塩、少ない?」
「高いから。あんまり使えないの」
「なるほどな」
もう一口飲みながら、タクミは鍋の中を見た。材料自体は悪くない。問題は、火加減と順番だろう。
少し離れた長椅子では、子供たちが碗を抱えて食事をしていた。食べてはいるが、手の動きが遅い。嫌いというより、積極的に食べたくなる味ではない、そんな様子だ。
タクミは、少し手を入れるだけで、だいぶ変わるのにと考えた。
タクミは椀を置き、ミリアに声をかけた。
「なあ、このあと少しだけ鍋、触っていいか?」
「味、変えるの?」
ミリアは、昼間のスープのように味がまとまった物へと変化してくれるのかと尋ねる。
「やってみたいだけだ」
ミリアは少し考え、炊事場の女性に声をかけた。
「この人、昼から手伝ってる人。ちょっと鍋見てもらってもいい?」
女性はタクミを見て、穏やかにうなずいた。
「構わないわ。良くなるなら助かるもの」
「ありがとうございます」
タクミは袖を軽くまくり、かまどの前に立った。
まず火加減を確認した。少し弱い。薪を一本足し、炎の高さを整える。それから干し肉を少し取り、細かく刻んで鍋に追加した。
「それ、もう入ってるけど」
ミリアは、更に干し肉を入れるのかと不思議そうな顔をして言った。
「量が少ないからな。少し足す」
鍋をゆっくりとかき混ぜる。しばらくすると、湯気に混ざる匂いがほんの少し変わり始めた。肉の香りが、さっきよりもはっきりしてくる。
タクミはそこで、野菜を入れる順番を少し変えた。
「順番も変えるの?」
「火が通る時間が違うからな。固いものから入れた方がいい」
タクミは、料理の基本を語りながら手慣れた手付きで料理を進めていく。
「そんな変わる?」
昼間の変化を知っているものの、ミリアはこんな単純なことで、そこまで変わるのかと半信半疑のようだ。
「結構変わる」
数分後、タクミは椀に少しだけよそい、ミリアに差し出した。
「味見」
「また私?」
「一番近くにいるから」
ミリアは、苦笑しながら椀を受け取り、ひと口飲んだ。すると、味の違いに驚き、少しだけ目を見開く。
「......あれ?」
「どう?」
「なんか、さっきよりちゃんと味がある」
まだ理屈はわからないが、明らかな違いを感じ、この感覚が間違いではないことを自分自身に証明するために、もう一口飲む。
「同じ材料だよね?」
「同じだな」
ミリアは鍋を見つめ、理屈はわからないが、その凄さに思わず小さく笑った。
「ちょっと、みんなにも飲んでもらおう」
その声で、近くにいた女性たちが集まってくる。椀が順番に回り、何人かが味を見る。
「ほんとだ......」
「飲みやすいね」
「子供も食べやすそう」
小さなざわめきが広がった。
やがて、子供たちの列にスープが配られ始める。さっきまでゆっくり食べていた子供が、今度は少し早いペースで椀を空けていった。
その様子を見て、ミリアが小さくつぶやく。
「ほんとに変わるんだ」
タクミは火を少しだけ調整しながら答えた。
「料理って、そういうもんだろ」
湯気が静かに立ち上る。
ほんの小さな違いだったが、この村の食事は、確かに少しずつ変わり始めていた。
かまどの火が一斉に点り、大鍋から立ち上る湯気が屋根の下にゆらゆらと溜まっている。木の椀を並べる音、子供たちの笑い声、大人たちの話し声。村の多くの人間が、この時間にここへ集まるようだ。
タクミは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
「これが、いつもの夕飯」
隣に立ったミリアが言う。
「まとめて作るんだな」
「各家でやると薪も時間もかかるからね」
合理的ではある。だが同時に、調理方法が変わりにくい環境でもあった。
タクミは、大鍋の前に立ち、椀を一つ借りた。
「味見してもいいか?」
「どうぞ」
炊事場をまとめている女性がうなずく。
タクミはスープを少しすくい、口に運んだ。
味がないわけではない。だが、全体的にぼんやりしている。肉も野菜も入っているのに、それぞれの味がまとまりきっていない。塩気もかなり控えめだった。
「どう?」
ミリアは、不安そうな顔をしながらのぞき込む。
「塩、少ない?」
「高いから。あんまり使えないの」
「なるほどな」
もう一口飲みながら、タクミは鍋の中を見た。材料自体は悪くない。問題は、火加減と順番だろう。
少し離れた長椅子では、子供たちが碗を抱えて食事をしていた。食べてはいるが、手の動きが遅い。嫌いというより、積極的に食べたくなる味ではない、そんな様子だ。
タクミは、少し手を入れるだけで、だいぶ変わるのにと考えた。
タクミは椀を置き、ミリアに声をかけた。
「なあ、このあと少しだけ鍋、触っていいか?」
「味、変えるの?」
ミリアは、昼間のスープのように味がまとまった物へと変化してくれるのかと尋ねる。
「やってみたいだけだ」
ミリアは少し考え、炊事場の女性に声をかけた。
「この人、昼から手伝ってる人。ちょっと鍋見てもらってもいい?」
女性はタクミを見て、穏やかにうなずいた。
「構わないわ。良くなるなら助かるもの」
「ありがとうございます」
タクミは袖を軽くまくり、かまどの前に立った。
まず火加減を確認した。少し弱い。薪を一本足し、炎の高さを整える。それから干し肉を少し取り、細かく刻んで鍋に追加した。
「それ、もう入ってるけど」
ミリアは、更に干し肉を入れるのかと不思議そうな顔をして言った。
「量が少ないからな。少し足す」
鍋をゆっくりとかき混ぜる。しばらくすると、湯気に混ざる匂いがほんの少し変わり始めた。肉の香りが、さっきよりもはっきりしてくる。
タクミはそこで、野菜を入れる順番を少し変えた。
「順番も変えるの?」
「火が通る時間が違うからな。固いものから入れた方がいい」
タクミは、料理の基本を語りながら手慣れた手付きで料理を進めていく。
「そんな変わる?」
昼間の変化を知っているものの、ミリアはこんな単純なことで、そこまで変わるのかと半信半疑のようだ。
「結構変わる」
数分後、タクミは椀に少しだけよそい、ミリアに差し出した。
「味見」
「また私?」
「一番近くにいるから」
ミリアは、苦笑しながら椀を受け取り、ひと口飲んだ。すると、味の違いに驚き、少しだけ目を見開く。
「......あれ?」
「どう?」
「なんか、さっきよりちゃんと味がある」
まだ理屈はわからないが、明らかな違いを感じ、この感覚が間違いではないことを自分自身に証明するために、もう一口飲む。
「同じ材料だよね?」
「同じだな」
ミリアは鍋を見つめ、理屈はわからないが、その凄さに思わず小さく笑った。
「ちょっと、みんなにも飲んでもらおう」
その声で、近くにいた女性たちが集まってくる。椀が順番に回り、何人かが味を見る。
「ほんとだ......」
「飲みやすいね」
「子供も食べやすそう」
小さなざわめきが広がった。
やがて、子供たちの列にスープが配られ始める。さっきまでゆっくり食べていた子供が、今度は少し早いペースで椀を空けていった。
その様子を見て、ミリアが小さくつぶやく。
「ほんとに変わるんだ」
タクミは火を少しだけ調整しながら答えた。
「料理って、そういうもんだろ」
湯気が静かに立ち上る。
ほんの小さな違いだったが、この村の食事は、確かに少しずつ変わり始めていた。
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