『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第6話 炊事場の正式な手伝い

昼の炊事場は、朝よりも少し静かだった。
夕食の準備にはまだ早く、かまどの火も半分ほどしか使われていない。洗われた鍋が棚に並び、外では誰かが薪を割る音が規則的に響いていた。
タクミは空いているかまどの前にしゃがみ込み、昨日使った鍋の状態を確かめていた。すすの付き方、底の焦げ具合、持ち手の緩み。道具の癖を知ることも、料理の一部だ。

「ほんとに、ちゃんと見てるんだね」

後ろから声がして振り向くと、、ミリアが腕を組んだまま立っていた。

「道具の状態で、だいたい分かるからな」

タクミは、並べられた調理道具を見ながら答える。

「何が?」

「火の強さとか、混ぜ方とか」

ミリアは少し感心したような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻る。

「さっき、炊事場のおばさんが呼んでたよ」

「何かあったか?」

「ちょっと来て、だって」

タクミは立ち上がり、炊事場の奥へ向かった。
大鍋の横で、炊事場をまとめている女性が帳面を見ていた。タクミに気づくと、顔を上げて軽く笑う。

「昨日と今日のスープ、評判いいわ」

女性は、タクミを歓迎するような満面の笑みで出迎える。

「それはよかった」

「子供たちの食べる量も増えたって聞いたの。助かるわ」

女性は帳面を閉じ、少しだけ真面目な顔になる。

「ねえ、もしよければなんだけど」

「はい」

「しばらく、正式に炊事場を手伝ってくれない?」

タクミは一瞬だけ考え、それからうなずいた。

「構いません。ちょうど、やることも決まってませんし」

「本当?助かるわ」

女性の表情がぱっと明るくなる。

「毎日全部とは言わないけど、時間があるときに火加減とか、味の見方とか、少しずつ教えてくれると嬉しいの」

「わかりました」

そのやり取りを、少し離れた場所でミリアが聞いていた。

「もう、完全に炊事場の人だね」

「そうなるのかもな」

「じゃあ、私の先輩?」
 
ミリアはわざとらしく肩をすくめる。

「ここじゃ、そっちの方が先輩だろ」

「そういう問題じゃないでしょ」

小さく笑いながら、ミリアは野菜の籠を持ち上げた。

「じゃあ先輩、まずこれ運ぶの手伝って」

「はいはい」

タクミも籠を一つ持ち上げる。思ったより重いが、問題ない重さだ。

作業台に材料を並べながら、タクミは周囲の様子を眺めた。忙しそうに動く人、手を止めて話している人、子供を連れてきている母親。炊事場は、この村の中心の一つなのだと分かる。
鍋に水を張り、火を起こす。薪が燃え始め、ぱちりと小さな音が響いた。

「今日は何作る?」

ミリアが隣で尋ねる。

「昨日と同じでもいいけど、少しだけ変えてみるか」

タクミは、顎に手をやって考える。

「また味変えるの?」

ミリアは、タクミの手札の数に驚きながら答えた。

「大きくじゃない。ちょっとだけ」

ミリアは、どんな手札を見せてくれるのか、どんな物が出来上がるのかと思い、少し楽しそうに笑った。

「なんか、この炊事場、前より面白くなってきた」

「飯がうまくなれば、それだけで少しは変わるだろ」

タクミは火の様子を見ながら答える。
鍋の中の水が、ゆっくりと温まり始める。
タクミの炊事場での仕事は、こうして正式に始まった。
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