『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第7話 屋台を出そう

夕方の炊事場は、いつものように湯気で満ちていた。
大鍋の前でスープをかき混ぜながら、タクミは並べられた椀の数を見た。村としては人の多い方だが、大きな町と比べれば決して多いわけではない。それでも、毎日同じ量を作り、同じ場所で配るだけでは、料理の広がりには限界がある。
配膳台の近くでは、仕事帰りの村人たちが順番を待っていた。以前より表情は柔らかい。温かい食事が当たり前になりつつあるのだと分かる。
ここだけで終わらせるのは、もったいないと心の底からタクミは考えた。
そんなことを考えていると、隣で野菜を切っていたミリアが顔を挙げた。

「どうしたの?」

「いや、少し思っただけだ」

タクミは火加減を確認しながら続ける。

「ここだけじゃなくて、外でも料理を出せたらいいなって」

「外?」

「広場とか、人が集まるところで売るんだ。屋台みたいに」

ミリアは包丁を止め、少しだけ目を丸くした。

「屋台で......料理を売る!?」

ミリアは、この村に生まれてこの方、そのような考えに行き着いたことがなかったので終始驚きの表情を見せた。

「街道を通る商人も来るだろ。そういう人に出せば、食材の流れも少しは変わるかもしれない」

「そんなうまくいくかな」

半信半疑の表情でミリアが言う。
半信半疑になっても仕方ないよなといった表情で、タクミは軽く肩をすくめた。

「大げさにやるつもりはない。机を一つ置いて、小さく始めるだけだ」

そこへ、炊事場をまとめている女性が近づいてきた。

「何の話?」

「屋台の話です。広場で少し料理を出してみようかと思って」

女性は少し考えるようにしてから、ゆっくりとうなずいた。

「面白いかもしれないわね。最近は商人も前より立ち寄るようになったし、温かい料理があれば助かる人も多いと思う」

「場所、借りられますか?」

「広場の端なら大丈夫よ。机を一つ置くくらいなら問題ないわ。あとで村長にも伝えておくわね」

少女のミリアより人生経験が長い女性は、すぐに面白そうだと思い、村長の下に向かった。

「助かります」

そのやり取りを聞いていたミリアは、どこか楽しそうに小さく微笑んだ。
村で新しいことが始まりそうだと、そう感じたからだ。

「じゃあ、私も手伝う」

「いいのか?」

村の炊事場の手伝いもあるのに大丈夫だろうかと心配する。

「炊事場の仕事が、終わったあとなら平気。それに......」

ミリアは、少し言葉を区切る。

「ちょっと面白そう」

その表情を見て、タクミも小さくうなずいた。
一人の思いつきだったはずの話が、少しだけ現実味を帯びた気がしたからだ。

「まずは、売る料理を決めないとな」

「何を出すの?」

「簡単で、すぐ出せて、食べやすいもの。並んでも待たせない料理だ」

そう言いながら、タクミはスープをひと口味見する。悪くない味だ。だが、屋台で出すには、もう少し分かりやすく、匂いで人を惹ける料理の方がいい。
かまどの火が、ぱちりと音を立てる。
炎を見つめながら、タクミは小さくつぶやいた。

「......まずは、試作だな」

村の広場に、小さな屋台が出る日が少しずつ近づいていた。
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