『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第9話 屋台の準備

屋台の料理が決まった翌日、炊事場の裏手には普段より少しだけ多くの物が並んでいた。
古い木の机、鍋を運ぶための簡易台、そして洗い終えた椀の束。どれも新品とは言えないが、使うには十分だ。
タクミは机のぐらつきを確かめながら、足の高さを小さな木片で調整していた。ぐらり、と揺れていた机も、木片を差し込むとぴたりと安定する。

「そんな細かいとこまでやるの?」
 
後ろからミリアが声をかける。

「屋台は、見た目より安定してる方が大事だ。揺れるとこぼれる」

せっかくの料理を台無しにしてしまうこと、そしてそんなすぐに崩れる屋台ではお客様相手に商売は出来ないと考えている。

「確かに」
 
ミリアは納得したようにうなずき、机を軽く押してみる。

「これなら大丈夫そう」

「いや、本番で使えるかどうかが重要だ。あとで、鍋を置いて確認する」

タクミはそう言って、小さめの鍋を持ち上げ、机の上に置いた。重みがかかっても揺れはない。タクミは、問題ないことを確認し、軽く息を吐いた。

「火はどうするの?」

「簡易のかまどを持っていく。薪も少し多めに必要だな」

「じゃあ、私、あとで薪まとめておくよ」

「頼む」

ミリアはすぐに裏の薪置き場へ向かい、使いやすそうな長さの薪を選び始めた。以前より手際がいい。炊事場の仕事に慣れてきたのがよく分かる。
その様子を見ながら、タクミは頭の中で段取りを整理する。
机、鍋、薪、椀。あとは材料と水。最初は大きくやる必要はない。少量でも、きちんと回せれば十分だ。
そこへ、小さな足音が近づいてきた。

「それ、屋台?」

ルイだった。興味深そうに机を見上げている。

「ああ。明日、広場でやってみようかとな」

「手伝うこと、ある?」

ルイは、目を輝かせながらタクミを見る。

「椀を並べるくらいなら頼めるか」

ルイは小さくうなずき、洗い終えた椀を一つずつ机の上に並べ始めた。無言だが、きちんと等間隔に置いていく。
そこに、ミリアが薪を抱えて戻ってくる。

「薪、これくらいあれば足りる?」

「十分だ」

「なんか、本当に店っぽくなってきたね」
 
机、鍋、椀、薪を並べてみると、確かに小さな店の形になっていた。

タクミは腕を組み、全体を見渡す。

「最初はこれでいい。売れそうなら少しずつ増やしていけばいい」

「値段ってどうするの?」

ミリアの問いに、タクミは少しだけ考える。材料費、量、村の物価。高すぎてもいけないし、安すぎても続かない。

「一杯、銅貨3枚くらいでいいか」

タクミは、この村に来てから材料の買い出しを見ていたおかげで、この村の相場から銅貨3枚と決めた。

「それなら安い方だね」

長年住んでいるミリアからもお墨付きをもらった。

「ちゃんと理由がある。まずは、食べてもらって認知してもらうことが先だ」

ミリアは、本当に商売をするんだと、改めて実感し、嬉しそうに少しだけ笑った。

「でも、利益......出るかな?」

「材料費が出ればいい。最初はそれで十分だ。さっきも言ったが、認知してもらわないと次に繋がらないからな」

「なんか、タクミらしい。あと、意外にしっかり考えてるのと、両方だね」

タクミは、意外とはなんだと返そうとしたが、今は店の準備が先だと言葉を飲み込んだ。
そして、鍋の中身を確認し、必要な材料の量を頭の中で計算する。炊事場の分と屋台の分、両方を回せる量にしなければならない。
少し手間は増えるが、不可能ではない。
ルイが並べ終えた椀を見て、小さい声で言う。

「客、来るかな」

「どうだろうな。来なかったら、そのまま俺たちのまかないだ」

「それもいい」

短いやり取りと、おいしいものに目がないルイに、ミリアが思わず笑う。

「確かに、余ったら食べ放題だね」
 
ミリアは、ルイの言葉に便乗して言う。タクミは、二人の食い意地に小さく笑った。
それから、準備は思っていたより順調に進んでいる。問題は、明日実際に人が来るかどうかだ。
だが、やってみなければ分からない。
机の上に置かれた鍋をもう一度確認し、タクミは小さく息を吐いた。

「まあ、なるようになるか」

先程は、来なかったらまかないにすると言っていたが、一抹の不安を感じている。

夕方の風が、ゆっくりと炊事場の裏を通り抜けていく。
小さな屋台の最初の日は、もう目の前まで近づいていた。
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