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迷い込んだ料理人
第11話 屋台、2日目の新たな進展と地固め
翌朝、昨日よりも屋台の準備をする動きに機敏さが増し、少し体も軽く感じた。。
なぜそういう心境になったかというと、タクミは昨日の終わり際、また来ると言っていってくれた村人たちや空っぽの鍋を思い出したからだ。
大成功と言うには早いが、確実な手応えはあった。
机を据え、鍋を置き、かまどに薪を組む。隣で、ミリアが手際よく椀を並べていく。
「昨日より準備早くない?」
「手順が分かったからだ」
タクミは、さっきの本心を隠しながら応える。
「本当に、それだけ?」
「慣れだな」
ミリアは、タクミの本心に気付いているのか、軽く笑った。
「今日はもっと来るかな」
「来るかどうかは分からない。昨日は珍しかっただけかもしれないしな」
タクミは、淡々と準備を進めながら答える。
「そういうとこ、夢がないよね」
ミリアは、タクミの夢がない答えに呆れる。
「夢で腹は膨れない」
そう返すと、ミリアは更に呆れた表情で肩をすくめた。
「でも、昨日みんな嬉しそうだったよ」
その言葉に、タクミは答えず鍋の蓋を開けた。仕込んだ煮込みから湯気が立ち上る。肉の旨味と野菜の甘さが混ざった匂いが、朝の空気へ静かに広がっていった。
しばらくすると、見覚えのある農夫が近づいてくる。
「お、もうやってるな」
「もう仕事か?早いな」
「仕事前の腹ごしらえだ。昨日うまかったからよ」
昨日で、かってを知っている農夫は、銅貨を差し出す。
「一杯頼む」
タクミは椀をよそいながら、ほんの少しだけ口元を緩めた。
屋台にとって、リピーターはこれ以上ない成果の1つだからだ。
「やっぱいいな。朝から温かいもん食えるのは助かる」
農夫は湯気を吹きながらすすり、満足そうにうなずく。
「出来たてで、熱いから気をつけろ」
「おう」
農夫が去っていくのと入れ違いに、今度は子どもを連れた母親がやってきた。昨日も来た親子だ。
「昨日の、まだある?」
男の子が、白い息を吐きながら目を輝かせて聞いてくる。
「あるよ~」
ミリアが明るく答える。
子どもは、リントから椀を受け取り、嬉しそうに両手で抱えながら食べ始めた。
「おいしい」
小さな声だったが、近くにいた人が振り向くには十分だった。
その後は、ぽつり、ぽつりと客が増えていった。
急に列ができるわけではない。だが、途切れもしない。
タクミは一定のリズムでよそい、渡し、銅貨を受け取る。ミリアは釣り銭を管理し、ルイは、お客が使った椀を下げていく。
3人とも昨日よりも動き滑らかだった。
「タクミ、具材少なくなってる」
「次の鍋に移すぞ!火、少し強めてくれ」
「分かった!」
ミリアが薪を足し、火が一段明るくなる。
鍋を混ぜながら、タクミは周囲を見た。
昨日より確実に人が多い。
同じ顔もいるが、新しい顔も多い。
屋台は珍しいものから、選択肢の1つへ変わり始めていた。
「なぁ」
声をかけてきたのは、見知らぬ男だ。
「これ、毎日やるのか?」
「今のところはそのつもりだ」
「そうか。助かるな。昼に温かいもん食える場所なかったから」
男はそう言い、銅貨を置いて去っていく。
その背中を見送りながら、ミリアがぽつりと言った。
「なんか、ちょっとすごくない?ヤバいって」
「まだ2日目だ。油断できないぞ。人は、すぐ飽きがくるからな」
今は、物珍しさと競合がいないので売れているが、人は移り変わりやすい生き物なので油断できないと考える。
「そうだけど......でもさ、同じ人も新しい人もどんどん買いに来てるよ」
「まぁ、だな。ちょっと、予想外ではある」
昨日は、様子見だった人たちが、今日は当たり前のように立ち寄っている。屋台という場所が、この広場に馴染み始めているが、噂の広がりが早いのは予想外だった。
「お、繁盛してるじゃないか」
昼近くになると、昨日の商人が姿を見せた。
「まぁな」
「言った通りだろ。この味、売れるって」
商人は笑いながら椀を受け取り、ひと口すすった。
「うん、やっぱりいい。村の味って感じがする」
商人は、何か納得しているような表情で椀を見る。
「褒めてるのか、それ」
タクミは、ツッコミを入れるような言い回しで言う。
「褒めてるさ。旅人はこういうの好きだぞ」
商人はそう言ってから、少し声を落とした。
「ところで、街に興味はないか?」
タクミの手が一瞬止まる。
「いきなりだな」
「いや、こういうのは早い方がいい。街なら、もっと売れる」
商人の目は本気だ。
ミリアが、ちらりとタクミを見る。
タクミは鍋を混ぜ直し、湯気の向こうで小さく息を吐いた。
「今はまだ、この村でいい」
「そうか。まぁ、気が変わったら、すぐ声をかけてくれ」
商人は、あっさり話を切り上げ空になった椀を返し去っていった。
「街、行くの?」
その背中を見送ったあと、ミリアが小さな声で聞く。
「まだだな」
「そっか」
ミリアは、どこか安心したような声で答えた。
鍋の中では煮込みが静かに揺れている。屋台は、昨日よりもお客が増えて回転率も上がり、大盛況だ。
タクミは、次の椀を手に取り、湯気の向こうで並ぶ客を見た。
そして、さっきの商人の話を思い出すが、まずは、ここだと改めて思うのだった。
なぜそういう心境になったかというと、タクミは昨日の終わり際、また来ると言っていってくれた村人たちや空っぽの鍋を思い出したからだ。
大成功と言うには早いが、確実な手応えはあった。
机を据え、鍋を置き、かまどに薪を組む。隣で、ミリアが手際よく椀を並べていく。
「昨日より準備早くない?」
「手順が分かったからだ」
タクミは、さっきの本心を隠しながら応える。
「本当に、それだけ?」
「慣れだな」
ミリアは、タクミの本心に気付いているのか、軽く笑った。
「今日はもっと来るかな」
「来るかどうかは分からない。昨日は珍しかっただけかもしれないしな」
タクミは、淡々と準備を進めながら答える。
「そういうとこ、夢がないよね」
ミリアは、タクミの夢がない答えに呆れる。
「夢で腹は膨れない」
そう返すと、ミリアは更に呆れた表情で肩をすくめた。
「でも、昨日みんな嬉しそうだったよ」
その言葉に、タクミは答えず鍋の蓋を開けた。仕込んだ煮込みから湯気が立ち上る。肉の旨味と野菜の甘さが混ざった匂いが、朝の空気へ静かに広がっていった。
しばらくすると、見覚えのある農夫が近づいてくる。
「お、もうやってるな」
「もう仕事か?早いな」
「仕事前の腹ごしらえだ。昨日うまかったからよ」
昨日で、かってを知っている農夫は、銅貨を差し出す。
「一杯頼む」
タクミは椀をよそいながら、ほんの少しだけ口元を緩めた。
屋台にとって、リピーターはこれ以上ない成果の1つだからだ。
「やっぱいいな。朝から温かいもん食えるのは助かる」
農夫は湯気を吹きながらすすり、満足そうにうなずく。
「出来たてで、熱いから気をつけろ」
「おう」
農夫が去っていくのと入れ違いに、今度は子どもを連れた母親がやってきた。昨日も来た親子だ。
「昨日の、まだある?」
男の子が、白い息を吐きながら目を輝かせて聞いてくる。
「あるよ~」
ミリアが明るく答える。
子どもは、リントから椀を受け取り、嬉しそうに両手で抱えながら食べ始めた。
「おいしい」
小さな声だったが、近くにいた人が振り向くには十分だった。
その後は、ぽつり、ぽつりと客が増えていった。
急に列ができるわけではない。だが、途切れもしない。
タクミは一定のリズムでよそい、渡し、銅貨を受け取る。ミリアは釣り銭を管理し、ルイは、お客が使った椀を下げていく。
3人とも昨日よりも動き滑らかだった。
「タクミ、具材少なくなってる」
「次の鍋に移すぞ!火、少し強めてくれ」
「分かった!」
ミリアが薪を足し、火が一段明るくなる。
鍋を混ぜながら、タクミは周囲を見た。
昨日より確実に人が多い。
同じ顔もいるが、新しい顔も多い。
屋台は珍しいものから、選択肢の1つへ変わり始めていた。
「なぁ」
声をかけてきたのは、見知らぬ男だ。
「これ、毎日やるのか?」
「今のところはそのつもりだ」
「そうか。助かるな。昼に温かいもん食える場所なかったから」
男はそう言い、銅貨を置いて去っていく。
その背中を見送りながら、ミリアがぽつりと言った。
「なんか、ちょっとすごくない?ヤバいって」
「まだ2日目だ。油断できないぞ。人は、すぐ飽きがくるからな」
今は、物珍しさと競合がいないので売れているが、人は移り変わりやすい生き物なので油断できないと考える。
「そうだけど......でもさ、同じ人も新しい人もどんどん買いに来てるよ」
「まぁ、だな。ちょっと、予想外ではある」
昨日は、様子見だった人たちが、今日は当たり前のように立ち寄っている。屋台という場所が、この広場に馴染み始めているが、噂の広がりが早いのは予想外だった。
「お、繁盛してるじゃないか」
昼近くになると、昨日の商人が姿を見せた。
「まぁな」
「言った通りだろ。この味、売れるって」
商人は笑いながら椀を受け取り、ひと口すすった。
「うん、やっぱりいい。村の味って感じがする」
商人は、何か納得しているような表情で椀を見る。
「褒めてるのか、それ」
タクミは、ツッコミを入れるような言い回しで言う。
「褒めてるさ。旅人はこういうの好きだぞ」
商人はそう言ってから、少し声を落とした。
「ところで、街に興味はないか?」
タクミの手が一瞬止まる。
「いきなりだな」
「いや、こういうのは早い方がいい。街なら、もっと売れる」
商人の目は本気だ。
ミリアが、ちらりとタクミを見る。
タクミは鍋を混ぜ直し、湯気の向こうで小さく息を吐いた。
「今はまだ、この村でいい」
「そうか。まぁ、気が変わったら、すぐ声をかけてくれ」
商人は、あっさり話を切り上げ空になった椀を返し去っていった。
「街、行くの?」
その背中を見送ったあと、ミリアが小さな声で聞く。
「まだだな」
「そっか」
ミリアは、どこか安心したような声で答えた。
鍋の中では煮込みが静かに揺れている。屋台は、昨日よりもお客が増えて回転率も上がり、大盛況だ。
タクミは、次の椀を手に取り、湯気の向こうで並ぶ客を見た。
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