『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第17話 これまでの回想とこれから

屋台を休んで仕込みをした翌日、広場にはいつもの朝が戻っていた。
机を並べ、鍋を火にかける。湯気が立ち始めると、それを合図にするように人が集まり出す。並ぶ顔ぶれも、もう見慣れた者が多い。

「おはようさん」

いつもの農夫が一番乗りで銅貨を置いた。

「今日も早いな」

「昨日が休みだったからな。食いたい欲が、いつも以上だったから、夜明け前から並んでしまった。お~、この匂い。たまらん」

椀を受け取ると湯気に顔を近付けて香りを嗅ぐ。

「あの人、完全に習慣になってるよね」

「そうらしいな。正直ありがたい」

タクミは、常連以上にありがたい存在はいないので、鍋をかき混ぜながら嬉しそうに答える。

「なんかさ、不思議だよね」

ミリアは、どんどん変化していく様子に嬉しそうな顔をする。

「何がだ?」

「最初は、ただ炊事場手伝ってる人って感じだったのに......いつの間にか、みんなを毎日笑顔にする人になってるんだもん」

タクミは、この村に来た時のことを思い出して、色々あったなと回想する。

「確かに、思い返せば色々あったな」

「覚えてる?初めてスープ作ったときのこと」

炊事場に案内をされて、初めて知識を披露した時のことを思い出す。

「覚えてるよ。適当に食材をぶち込んでたもんな」

「正直、食材を入れる順番がって言われた時は、ちょっと怪しかったもん」

「フッ、それはひどいな。ちゃんとした工程なんだけどな」

ミリアの怪しかったという言葉に、イラつきも悲しさもない。知らなければ当然の反応だからだ。

「でも今はさ、素直に凄いってなるし、みんなもタクミの煮込みを待ってるから、尊敬してる」

タクミは、嬉しさを表には出していないが、この世界で認められ始めたことに少し笑みが溢れる。

「そりゃ、村に来てから、もう何ヶ月か経つしな」

「え!?そんなに?」

ミリアは、忙しい日々を過ごしてきたので、そんなにも時間が経っているのだと驚いた顔をする。

「あっという間にだな。季節も少し変わっただろ」

言われてみればと、ミリアは空を見上げた。確かに、肌にビリビリ突き刺すような風は以前より柔らかくなっていた。

「そっか......もう、そんなに経つんだね」

タクミは、鍋を混ぜながら、前世の調理具とは火加減も違えば、塩の強さも違う。使える食材も知らない。味を決めるまでに何度も失敗したことを思い返していた。

「そういえば!最初のスープ、ちょっとしょっぱかったよね」

ミリアは、屋台用に試験的に作ったスープのことを言う。

「あぁ、あれか......覚えてるのか?」

「覚えてるよ。試し飲みした時、顔に出てたもん」

「出してない」

タクミは、少しあちらの方向を見ながら言う。

「出てたって」

列に並ぶお客さんも落ち着いていたので、軽口を交わしながら、お客さんをさばいていく。

「最初の頃より、ずっと丸くなった味じゃな。ここに、数ヶ月通っておるワシが言うんじゃ、間違いないわい」

杖をついた常連のお客さんが、ニコニコしながら、さっきの2人の会話に入ってくる。

「味がか?」

「ほっほっほ、人がじゃよ。では、ゆっくりと食べようかのぅ」

老人は、言うだけ言って笑いながら広場のベンチに腰掛け煮込みを食べ始めた。

「ん~?今のどういう意味かな?」

「さぁな。俺もさっぱりわからん」

タクミは、老人が言いたいことを理解していたが、答えず次の椀をお客さんに差し出した。
昼が近づくころ、鍋の中身は半分を切っていた。売れ方は安定している。慌ただしくないのに、確実に減っていく。

「なんか安心するね」

「何がだ?」

「ちゃんと続いてる感じ」

その言葉に、タクミは少しだけ考えた。
前の人生では、続けることがどれだけ難しかったかを知っていて、続けたくても、終わることは少なくないからだ。

「ありがたい限りだな。お客さんが望むものを提供できるように俺たちも頑張らないとな」

料理人としても、前世の経験からしても適当な仕事は絶対にしないと、再度心から誓うのだった。
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