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迷い込んだ料理人
第19話 街での良からぬ噂
朝の広場には、いつもの列ができていた。
屋台を始めた頃には考えられなかった光景だ。農夫、旅人、村人。顔ぶれも少しずつ増えている。
タクミは鍋を混ぜながら、人の流れを眺めていた。
「最近、ほんと人多いね」
椀を並べながらミリアが言う。
「だな。量を増やしたいけど、味を落としたくないから悩みどころである」
夕方までもつようにしたいが、簡単には出来ないので、どうしようかと思う。
湯気の匂いが広がり、最初の客が銅貨を置いた。いつもの朝の流れだ。
しかし、その日は少しだけ空気が違った。
列の後ろで、何か話している声が聞こえる。
「ほんとに大丈夫なのか?」
「さぁな。街道で変な話聞いたけど、信憑性があるかはわからん」
タクミは、耳を傾けるが、肝心な部分が聞こえないので、どんな噂なのだろうかと思う。
「なぁ、これって妙な薬とか入ってないよな?」
列が進み客の一人が、椀を受け取りながら聞いてくる。
「は?」
ミリアは、いつもとは違う低い声を思わず出してしまう。
男は、流石に気まずかったのか、頭をかいた。
「いや、悪い。街のほうで聞いたんだよ。村で変な味の料理出してるやつがいるって。癖になるのは怪しい薬のせいだとかなんとか」
その場の空気が、一瞬だけ固まる。
タクミは椀を差し出しながら言った。
「食うかどうかは、自分で決めろ」
タクミは、否定はしない。男は少し迷ったあと、椀を受け取った。
「まぁ、俺はうまいと思ってるけどな」
男は、居づらくなったのか、そそくさと立ち去っていく。
ミリアが、すぐに眉をひそめた。
「なにそれ。ひどくない?」
「噂なんてそんなもんだ」
タクミは、前世でも恨みをかった時には、良からぬ噂が独り歩きしていたので、あまり気にしていない様子だ。
だが、この世界に来て初めての悪い噂に、鍋を混ぜる手はわずかに重くなる。
そして、いつもより客の反応が微妙に違う。最初から疑うような目。匂いを確かめるような仕草をする。気のせいではなく、何かが変わり始めていた。
昼近く、常連の商人がやってきた。
「聞いたか?」
椀を受け取る前に、低い声で言う。
「何をだ?」
「街の食堂連中がざわついてる。村の屋台が客を奪ってるってな」
タクミは、手を止めなかった。予想していた通りだったからだ。
「街の店の話だろ?関係ない」
「あるさ」
商人は、わかっていないなと肩をすくめる。
「街道を通る旅人が、お前の屋台の話をする。そりゃ、気にする奴も出るだろ?」
「出る杭は早めに打っとけか......」
「多分な。直接来るより、噂流したほうが楽だからな」
レントは、どこにでもしょうもないことをするやつはいるんだなと頭をかいた。
「ずるくない!? ちゃんと食べてもないのに!」
ミリアは、初めて貶されたので居ても立っても居られない。
「世の中、そういうもんだ」
商人は、自分も経験したのだろう、苦笑した。
タクミは、黙って椀を差し出す。
「そうだな。事を荒立てるより、味で判断してもらうしかない。いらんことを言うと相手の思う壺だからな」
「ま、そうなるわな。俺は、信じてるからな」
商人は、軽い激励を言ってから、列へ戻っていった。
そして、悪い噂はあれど、今日も昼前には、鍋は空になった。
けれど、いつものような達成感は少ない。
「ねえ、これからどうするの?」
「どうもしない。このままやるさ」
「でも、変な噂広がったら......」
ミリアは、心配そうに尋ねるが、タクミは、いつも通りといった感じだ。
「俺たちは、うまいものを提供するだけだ。最悪、街の人が来なくても、この村の人が食べてくれたらいい」
前の世界での噂を思い出していた。味を変えれば文句を言う客。安いと言えば疑う客。でも、最後に残るのは信じてくれる常連だ。そこを大事にすれば大丈夫だと考えていた。
「悔しいね」
「まぁな」
考え方や口では、わかっていながらも、足を引っ張られるのは、少なからず悔しさが残るのだった。
屋台を始めた頃には考えられなかった光景だ。農夫、旅人、村人。顔ぶれも少しずつ増えている。
タクミは鍋を混ぜながら、人の流れを眺めていた。
「最近、ほんと人多いね」
椀を並べながらミリアが言う。
「だな。量を増やしたいけど、味を落としたくないから悩みどころである」
夕方までもつようにしたいが、簡単には出来ないので、どうしようかと思う。
湯気の匂いが広がり、最初の客が銅貨を置いた。いつもの朝の流れだ。
しかし、その日は少しだけ空気が違った。
列の後ろで、何か話している声が聞こえる。
「ほんとに大丈夫なのか?」
「さぁな。街道で変な話聞いたけど、信憑性があるかはわからん」
タクミは、耳を傾けるが、肝心な部分が聞こえないので、どんな噂なのだろうかと思う。
「なぁ、これって妙な薬とか入ってないよな?」
列が進み客の一人が、椀を受け取りながら聞いてくる。
「は?」
ミリアは、いつもとは違う低い声を思わず出してしまう。
男は、流石に気まずかったのか、頭をかいた。
「いや、悪い。街のほうで聞いたんだよ。村で変な味の料理出してるやつがいるって。癖になるのは怪しい薬のせいだとかなんとか」
その場の空気が、一瞬だけ固まる。
タクミは椀を差し出しながら言った。
「食うかどうかは、自分で決めろ」
タクミは、否定はしない。男は少し迷ったあと、椀を受け取った。
「まぁ、俺はうまいと思ってるけどな」
男は、居づらくなったのか、そそくさと立ち去っていく。
ミリアが、すぐに眉をひそめた。
「なにそれ。ひどくない?」
「噂なんてそんなもんだ」
タクミは、前世でも恨みをかった時には、良からぬ噂が独り歩きしていたので、あまり気にしていない様子だ。
だが、この世界に来て初めての悪い噂に、鍋を混ぜる手はわずかに重くなる。
そして、いつもより客の反応が微妙に違う。最初から疑うような目。匂いを確かめるような仕草をする。気のせいではなく、何かが変わり始めていた。
昼近く、常連の商人がやってきた。
「聞いたか?」
椀を受け取る前に、低い声で言う。
「何をだ?」
「街の食堂連中がざわついてる。村の屋台が客を奪ってるってな」
タクミは、手を止めなかった。予想していた通りだったからだ。
「街の店の話だろ?関係ない」
「あるさ」
商人は、わかっていないなと肩をすくめる。
「街道を通る旅人が、お前の屋台の話をする。そりゃ、気にする奴も出るだろ?」
「出る杭は早めに打っとけか......」
「多分な。直接来るより、噂流したほうが楽だからな」
レントは、どこにでもしょうもないことをするやつはいるんだなと頭をかいた。
「ずるくない!? ちゃんと食べてもないのに!」
ミリアは、初めて貶されたので居ても立っても居られない。
「世の中、そういうもんだ」
商人は、自分も経験したのだろう、苦笑した。
タクミは、黙って椀を差し出す。
「そうだな。事を荒立てるより、味で判断してもらうしかない。いらんことを言うと相手の思う壺だからな」
「ま、そうなるわな。俺は、信じてるからな」
商人は、軽い激励を言ってから、列へ戻っていった。
そして、悪い噂はあれど、今日も昼前には、鍋は空になった。
けれど、いつものような達成感は少ない。
「ねえ、これからどうするの?」
「どうもしない。このままやるさ」
「でも、変な噂広がったら......」
ミリアは、心配そうに尋ねるが、タクミは、いつも通りといった感じだ。
「俺たちは、うまいものを提供するだけだ。最悪、街の人が来なくても、この村の人が食べてくれたらいい」
前の世界での噂を思い出していた。味を変えれば文句を言う客。安いと言えば疑う客。でも、最後に残るのは信じてくれる常連だ。そこを大事にすれば大丈夫だと考えていた。
「悔しいね」
「まぁな」
考え方や口では、わかっていながらも、足を引っ張られるのは、少なからず悔しさが残るのだった。
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