『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第21話 静かな街道と新たな一手!?

朝の広場は、静かだった。
いつもなら、この時間には鍋の湯気が立ちのぼり、香りに引かれるように人が集まってくる時間なのだが、机は出ていない。火も入っていない。
ただ、広場の端に立つタクミとミリアの姿だけがあった。

「ほんとに、やらないの?」

ミリアが、寂しそうに言う。

「あぁ、村に迷惑がかかるからな」

タクミは、腕を組んだまま、広場を見ていた。

「お、今日は早……あれ?」

いつも一番乗りで来る農夫が、もう開店したのかとウキウキしながらやってきた。だが、すぐに屋台がないことに気づき、足を止めた。

「どうしたんだ?」
 
「悪い!理由は話せないが、しばらく休むことになった」

「そうか......朝の楽しみだったんだがな」
 
農夫は、落胆した顔で、寂しそうに去っていく。
その悲しそうな背中を見て、ミリアが唇を噛んだ。

「やっぱり、出した方がいいんじゃない? みんな待ってるよ」

「待ってるからって続けていいとは限らない。」

「でも!」

タクミは、広場の石畳に視線を落とす。

「村の飯が止まったら意味がない。みんなに迷惑をかけてまで出す気はない」
 
悔しいのはタクミも同じだが、それ以上の言葉は出てこなかった。

「おいおい、今日は休みか?」  

商人は、噂を知ってか知らずか、いつものようにやってきた。

「あぁ、しばらくな」

「少し聞いたが、やっぱり組合の話か?」
 
商人は、タクミの耳元で声を小さくして聞いてきた。

「大人の事情ってやつだな」

タクミは、はっきりとは答えず、商人なら察してくれるだろうという言い回しをした。

「そうか。本当に、勿体ないな。力になれず申し訳ない」

商人は、助けてやりたい気持ちはあるのだが、飲食店組合とは、少なからず関わりがあるので、表立ってタクミの味方が出来ない。

そして、商人が去ったあと、広場には屋台を探すように視線を向ける人が何人かいた。
しかし、何もないことに気づき、静かに散っていく。
それを見ているだけなのに、胸の奥が重くなった。

「なんか、寂しいね」
 
ミリアが、ぽつりと言う。

「そうだな」
 
タクミは、珍しく否定はしなかった。

「戻るぞ」

タクミは、屋台を探す人たちが往来しているのを幾度となく見ていると、この場にいるのが辛くなってしまう。

「うん」
 
タクミとミリアは、炊事場へ向かって歩き始める。
そして、炊事場に戻ると、静かな空気が流れていた。タクミは鍋を洗いながら、ぼんやり考える。止めることは、間違いじゃないと思っているのだが、手が落ち着かない。
料理を作らない朝が、こんなにも長く感じるとは思わなかったのだ。

「ねぇ。ほんとに、このまま終わるの?」

ミリアは、打開策がないのかと、タクミにすがるように尋ねる。

タクミは答えず、ゆっくりと視線を棚の奥に置かれた桶に向ける。それは、ミリアのいる前で以前仕込んでいた味噌が入った桶だ。
タクミは、ゆっくりと布をめくった。香りがふわりと広がる。タクミにとって、どこか懐かしい匂いがする。

「それってもしかして!?」

「あぁ、俺がミリアに見せながら仕込んだやつだ!こいつを使って、まだやれることはあるかもしれない」

屋台を続けるかどうかではなく、その先に視点を向けなければとタクミは考えた。
タクミは、味噌を少しだけ指に取り、舌に乗せた。塩気の奥に深い旨味が広がる。
これなら、あれが作れるかもしれないと感覚で悟る。

「ミリア!」

「え?急に、なに?」

「明日、少し手伝ってもらうかもしれない」

ミリアは、初めて確かな感情を表に出したタクミに驚く。

「え!?もしかして、屋台をやるの!?」

「まだ分からない。ただ、試したいことがある。俺たちは、真っ向から戦うしかないからな」

タクミは、内心まだ終われないと、密かな闘志を燃やすのだった。
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