『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第24話 味は認められたが立場は変わらず!

広場の空気は、まだ張り詰めていた。
組合の男は空になった椀を静かに置く。

「これは、街の発酵豆膏はっこうとうこうだな?」

周囲の客は意味が分からずざわつくが、タクミは、ゆっくり首を振る。

「似ているが、全然違う」
 
男の目が、わずかに細くなる。

「どう違う?」

「未熟だ」

その言葉に、男の空気が変わった。否定ではない。怒りでもない。タクミを試すように見る。

「街の発酵豆膏は30日ほどで仕上げる。塩分を強くして腐敗を防ぐことで、保存に向いている。これも、同じじゃないのか?」

男は、発酵豆膏がどういうものかを丁寧に説明した。

「それでは浅いな。俺のは、90日以上待った」

広場が静まり返る。お客は、何を話しているかわからないが、料理人同士の静かなバトルが始まっていると感じた。

「90日だと!?ありえない!」

男も、長期間の発酵を試みたのだろうが、何かしらうまくいかなかったようだ。

「あぁ、村に来てすぐ仕込んだぞ」
 
ミリアが、二人のやりとりに息を呑む。ルイは、静かにタクミを見上げている。

「その様子じゃ、発酵がうまくいかなかったんだな。豆と塩だけじゃ足りないんだ。俺は、この土地の麦を使った」

「麦だと?」

俺は、麦を使うなど頭になかったので驚いた顔をする。

「街の豆膏は塩と豆だけだろ?だから、全てにおいて荒い。だから、麹に近い菌を起こして、間隔に近いが温度を見て、丁寧に混ぜて出来上がりを待ったんだ」
 
お客は、内容を理解出来ないでいるが、自分たちの口に入るまでに、途方もない仕込みをしていたのだとわかった。

「まさかとは思うが、自分で仕込んだのか?」

「あぁ、俺が一から作った」

「本当にか?街から仕入れたのではなく?」

男は、街にしか出回っていないものを村で作れるわけがないと思っていたので、何度も確認する。

「違う!俺の持っている技術だ」
 
タクミは、他のことで疑われるのはいいのだが、料理に関してはハッキリとさせたいのだ。
男は、空を見上げて息を吐いた。

「あの桶」

ルイが、小さな声で言う。
タクミは、炊事場の奥の布をかけた大きな桶に、一瞬だけ視線をやる。

「発酵は急いだら終わりだ。待った分だけ深みが増す」

タクミは、長年作り続けているからこそ、自信を持って言える。

「だから、甘みがあるのか」

男は、空になった椀の底を見ながら言う。

「だが、街の回転率を考えると、豆膏の方が商売になる。時間と量が割に合わないな。だが......味は、本物だ」

この世界では、味噌を量産するだけの技術がないので、街に普及出来ないのが残念だと考えた。

「そうだろうな!村の屋台だからこそやれてる。街で店を構えて広げる気もないしな」

「無理だな!近いうちに、更に広まって、屋台だと、さばききれなくなる。くそ、潰すには惜しい」

男は、この味がなくなるのは、あってはならないと考えた。

「だから、俺は街でやる気ない!」
 
男は、頑として村で屋台を続けると、ハッキリ言うタクミに大笑いをする。

「面白い!店を出したくても出せないやつは山程いるのにな!わかった。店は、あとだ!技術として審査する!街の豆膏が未熟だと言うなら、証明してみせろ」

タクミは、鍋から立ち上る最後の湯気を見つめた。村で仕込み、村で熟成し、村で育った味が回想のように頭を巡った。

「いいだろう!技術としてなら受ける」

タクミは、料理人として挑まれた勝負とあれば、受けて立つしかないと考えた。

「3日後、街へ来い!楽しみにしている」

男は、ふっと笑みをこぼして去って行った。

「今の認めてたよね!?」

ミリアは、街の飲食店組合の人に認められたと喜ぶ。

「評価はされたが、認められたわけじゃない!味を見ただけで、立場は同じだ」

「でも、あの人が待った味は分かった......急いで作った味じゃないって」

ルイが、いつにも増して、饒舌に話す。
タクミは、ルイが本質を理解していたので、少しだけ驚いた。

「そうだな。まぁ、なんにせよ。第一歩だ!村に被害が出ない足がかりは掴んだな」

タクミは、3日後のための構想を練り始めるのだった。
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