『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第25話 料理脳筋なタクミ!?

組合の男が去ったあとも、広場にはしばらくざわめきが残っていた。

「街だってよ」

「組合の審査って、あの店の人たちだろ?」

「村の屋台が、街で勝負か......勝ってほしいが、厳しいだろうな」
 
タクミは、それらの話を聞き流しながら、静かに鍋を洗っていた。

「ねぇ、本当に街に行くの?」

ミリアは、まだ落ち着かない様子だ。

「行く!料理人としての意地があるからな」

タクミは、どうでもいい勝負ではなく、認めさせるという料理人としてのプライドをかけたものなので、今回は無視出来なかった。

「でも、屋台はどうするの?」

「村の人たちには悪いが、3日休む」

「3日!?そんな休んだら、みんな困っちゃうよ」

ミリアは、新しい料理を楽しみにしている人たちが可哀想だと言う。思わず声を上げる。
 
「みんなには悪いけど、今回ばかりは俺のわがままを突き通させてくれ。それと、あれを持っていく」

「わかったよ!お客さんには、私からも謝っとく。それより、あの味噌を全部!?」

「技術審査だからな。ただの料理だけじゃ意味がない。それに、あの男も味噌で認めさせろと言ってたしな」
 
ミリアは、タクミが言いたいことを理解して、それ以上何も言わなかった。

「重いよ......」

ルイが、ボソッと言った。タクミは、ルイの言葉に思わず笑った。

「確かに、色んな意味で重いな」

ルイは、物理的に重いと言ったのか、3ヶ月以上の時間が詰まっている味噌のことを言ったのかはわからないが、タクミは両方の意味として捉えた。

「にしても、あの人3日後って、急だよね」

「向こうにも何かあるんじゃないか?まぁ、ただ単純に試されてるだけかもな。俺が逃げるかどうか......」

「バッカじゃないの!タクミが、逃げるわけないのに」

ミリアは、街より優れた調味料が作れて、一度言ったことを曲げないタクミが逃げるわけないと断言する。

「向こうは俺を知らないからな」
 
あの男に味を褒められはしたが、街の組合にとっては、村の屋台など、ただの噂のひとつだ。

「街って遠い?」

ルイが、素直に気になって聞いてきた。

「前に商人に聞いたら、歩いて半日くらいとか言ってたな」

「半日......遠い」

ルイは、自分が歩くことを想像して疲れた顔になる。

「じゃあ、朝早く出るの?」
 
「そうだな。向こうに着く前に、色々考えたいこともあるし、街を少し見られたらと思ってる」

タクミは、屋台の準備とは違い、勝負の準備をしないといけないので、時間はあるだけ必要だと考えた。

「ねぇ?もし街で店を出したら、ここはどうするの?」

「あの男にも言ったが、まだそこまでは考えてない。技術審査すら通ってないしな」

組合の男には、出す気はないと断言していたが、ミリアに対しては、少し悩んでいるような返事をした。

「だよね。でもさ、何があっても負けないでね!私の中で、タクミの料理が一番だから」

タクミは、ミリアがあまりにも真剣な瞳で見るので、少し笑った。

「負ける気はないな!いち料理人として、今までの努力を否定されたくない」
 
「でも、タクミの味、街の人わかるかな?」

ルイは、2人とは全く別の視点から物事を捉えているようだ。

「分かるやつには分かるさ」

「分からない人は?」

「最高の料理を食わせるだけだ」

 ミリアは、タクミの脳筋的な考えに、思わず噴き出した。

「プッ、強引すぎ!」

「料理人の仕事は、それだ」
 
タクミは、いつもと違い、感情論で話をする。その真っ直ぐさに、ミリアだけではなく、ルイもクスクスと笑うのだった。
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