『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第26話 村で出来た絆と出発

明朝の出発は、まだ空が薄暗いうちだった。
村の広場は静まり返っている。いつも屋台を出している場所も、今日は机も鍋もないが、代わりに、地面の上へ大きな桶が置かれていた。ミリアが見守る中作った味噌だ。

「よっこいしょ!重いな」

タクミは、桶の縁を持ち上げながら言った。

「だから、昨日言ったじゃん」

ミリアは、呆れた顔をする。

「3ヶ月分だもん」

ルイだけが、3ヶ月分の気持ちの重さだと、ロマンチックなことをボソッと言う。

「ちょっと傾いてる」

ルイが、片方の縁を持ち上げると、タクミとの力の差で傾く。

「悪い。これで大丈夫だな」

結局3人で持つことになり、歩き出すと3人で、なんとか運べる重さだとわかった。

「本当に行くのね」

炊事場の女性は、朝の仕込みを一旦やめて近寄ってきた。

「あぁ、迷惑になるかも知れないが、自分に嘘はつけなくてな。非難してくれて構わない」

「何を言ってるの!街の飲食店が横暴なの。それに、あれから考えたのだけど、村長が約束を守るべきよ!私こそごめんなさい。村のことは心配しないで。屋台はまた戻ってきたらやればいいわ」

女性は、村を救いたい一心だったが、衝動に身を任せてタクミたちに酷いことを言ったと後悔していた。

「助かる」
タクミは、それ以上追及もせず、お礼だけを言った。

「でもね。これだけは言わせて、街の人を甘く見ない方がいいわよ」

「そのつもりだ」

村に圧力を平気でかけてくるくらいなので、そういう輩もいることは理解していた。そして、入口まで来ると、すでに何人かが待っていた。
いつもの農夫と昨日並んでいた旅人と常連の商人だ。

「お、やっと来たな!出発か?」

農夫は、タクミのことだから人知れずさらっと出発すると考えていた。

「全員朝早いのに、わざわざ来たのか」

「そりゃ、毎日通ってた屋台の店主が、街にご招待されるとあっちゃ~見送るのが筋だろ?おっと、これが例の桶か」

商人は、面白いものを見たような顔をして、桶を覗き込む。

「あぁ、こいつが認められに行くようなもんだしな」

「フッ、面白い!まさか、あれの上位互換を作ってたなんてな。それも、銅貨数枚だろ?面白い以外に何があるんだよ」

商人は、街でも高級な発酵豆膏の上位互換を気安く村で提供しなくとも、商人伝いや街で売れば大儲け出来ただろうに、それをしないことに面白いと感じていた。

「俺は、儲けよりも発酵料理をうまいと食ってくれるやつがいればいいからな」

「ブハッ、ほんとに欲のないことで!それより、村の屋台が、街の組合と勝負だ!こんな特ダネワクワクしない方がどうかしてる」

タクミは、本当に商人は噂好きだなと肩をすくめる。

「勝負か......言いようによったらな。まぁ、俺はこいつが通用するかしないかを試しに行くだけだ。気負う必要もないだろ」

「いやいや、普通は逃げだすぞ!組合は、強いからな」
 
商人は、何もわかってないなと言った表情で話す。

「わかってなさそうだから言うが、街の食堂も酒場も、ほとんど組合に入ってる。それに、値段も、仕入れも、店の場所も、全部関係してくるんだ。これだけ言えば、勘の鈍いお前でも、どれほどの影響力かわかっただろ?」

商人は、いつも見せない真剣な顔で説明をした。

「そんなにか!?」

タクミは、組合がこれほどまでに影響力があると思っていなかったので、素直に驚く。

「そうだ!まぁ、それでも行くんだろ?」

商人は、いつもの顔に戻って、タクミの性格を見透かしたように言う。

「まぁな。驚きはしたが、俺のやることは変わらないからな」

「そうか。お前らしくていい!だが、油断するなよ」
 
炊事場の女性と同じで商人も忠告をしてきた。だが、やることは変わらないタクミは、頷きはしたが、全く気負うことはない。

そして、村と別れを告げて歩き始める。
まだ夜明け前の空気は冷たく、桶を持つ手がかじかむ。しかし、誰も弱音を吐くことはなく、畑の向こうに見える街道へ向けて歩くのだった。
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