『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第28話 料理人として真っ直ぐな男!

街の中は、石畳の通りの両側に屋台や店が並び、人の声が絶えない。
焼いた肉の匂い、酒の匂い、香辛料の香り、村とはまるで違う世界だった。

「すご~い!」

ミリアは、圧倒されたように周りを見回す。

「店、いっぱいある」

ルイも、キョロキョロと辺りを見渡す。

「久々だ!懐かしい食い物の匂いがする」

タクミは、焼いた肉の匂いに、自分が作る種類とは違う煮込みの匂いに、揚げ物の匂いに、前世の懐かしい記憶が蘇った。

「観光は、終わってからにしろ!こっちだ!」

男は、早くついてこいと指示をして、通りを曲がる。そして、少し歩くと広い通りに出た。そこには、石造りの二階建ての大きな建物があり、入口の看板には、街飲食組合と書かれている。

「ここか?」

「あぁ、そうだ!ついてこい」

男は、扉を押し開けた。中は広く、大きな机と長椅子。そして、数人の男がすでに座っていた。風貌的に、料理人であり、腕を組む者。椅子にもたれている者。静かにこちらを見ている者。全員の視線が、桶に向いた。

「やっと来たか。それで、後ろにいるそいつは、誰だ?」
 
奥にいた年配の料理人が言う。腕が太く、長年厨房に立ってきた手をしていた。

「お待ちかねの例の屋台だ」

部屋の空気が、少しだけ動いた。

「村の?」

「噂のか?」

「聞いた話によれば、発酵豆膏だとかって噂だ」

街の料理人が、口々に言うが、タクミは聞き流しながら、重い桶を下ろす。

「それが、発酵豆膏か?」

「発酵豆膏じゃない!味噌だ」

タクミは、説明していないのかと、組合の男を見たが無表情でいる。その様子から、一から認めさせろと言いたいのだと察する。

「発酵豆膏と聞いていたが、味噌とはなんだ?」

聞き慣れない名前に、料理人たちが顔を見合わせる。

「発酵豆膏とは違う!俺が作った発酵調味料だ!」

「新たな発酵調味料だと!?どうせ発酵豆膏の劣化版だろ?大きく出過ぎだ」

一人の料理人が馬鹿にしたように笑う。

「はぁ......もうこのやり取りはうんざりだ。食えば分かる」

タクミは、何度も聞かれ過ぎて味噌の説明が面倒になっていた。

タクミのうんざりしている顔を見て、何かを察したのか、年配の料理人が立ち上がり、ゆっくり歩いてきて、桶の前で止まる。

「開けろ」
 
タクミは、布を外す。桶の蓋を持ち上げると、ふわりと発酵の塩気の奥にある甘い香りが広がった。

「なんだこの匂い」

「豆膏じゃないぞ」

「甘いだと?」

さっきまで、馬鹿にしていた料理人までもが、血相を変えて桶に近づいてきた。

「皿をくれ」

年配の料理人だけは冷静であり、黙ったまま匂いを確かめると組合の男に皿を持ってくるよう言う。
すぐに、小皿が並べられて、タクミは桶の中から少量の味噌を入れる。

「これだけか?」

1人の料理人が、小皿にほんの少量しかないことに不満を言う。

「まずは、味だ!料理は、そのあとだ」

タクミは、焦るなと制する。
そして、まずは年配の料理人が指で少し取り舐める。

「ほぉ~。お前らも舐めてみろ!面白いぞ」

年配の料理人は、小さな声で感心したような声を出す。
他の料理人たちも次々に指で取り舐める。

「なぜ、こんなに塩が丸いんだ」

「発酵豆膏にない甘みがある」

料理人たちは、味わったことのない発酵調味料に舌を巻く。

「お前、これをどうやって作った?」

年配の料理人は、突き刺すような目でタクミを見る。

「待った!俺を呼んだのは、審査をするためだろ?それに、料理人に調味料だけで審査されるのか?」

料理人たちは黙った。だが、年配の料理人は、大声で笑った。

「ガハハハ、面白い!その味噌で俺たちを唸らせる料理を作ってみろ」
 
タクミが芯の通った男だとわかり、年配の料理人は楽しくなったのだった。
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