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冬、メール。
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『吉川藤次です。
元気にしてた?ゲームやりました。このゲームは松里の作品だよね?話したいことがあるので有給取りました。京都に行くので会ってください』
そして文末には「サイドノシュート」のダウンロードサイトのURLが貼り付けてあった。
「え、えぇ……」
どうして吉川がこのアドレスにメールなんかを、と思ったが昔何か資料を共有する時にこのアドレスを教えた気がする。おそらくそれでここなら拒否されないと踏んだのだろう。
「会うって……なんで……」
話なんてない。ゲームをやったから何。今は何も聞きたくない。ホワイトスピカで現役で活躍している吉川の顔なんか見たくない。
「でも……有給……」
ホワイトスピカは有給が取りづらい。それはもういつ取るか本気で揉めるほど取りづらい。なのに染衣に会う為に有給を取ったとまで言うのだ。多分行動力のある吉川のことだ。もう新幹線のチケットも取ってしまったことだろう。
二度と会わないと決めていた。
関わらないと連絡を絶った。
でも、会えるならーー……謝りたい。
『お前は普通の家でいいよな! 書ける環境があって羨ましいよ! あーあ、オレも普通の家に生まれてればな~! 家継ぐとかだるいわー』
『松里、ゲーム作りは趣味でも出来るよ』
『は? ふざけてんの? 商業以外無価値だろ。同人なんてなんのためにやんの?』
『それは』
『あーあ、最後に一作でもメインイベント担当したかったなー。でも無理か! メインライターに昇格は!』
『え……』
『だってお前がいるもんな! オレとお前どっち取る? って聞かれたらお前選ぶよな! だってお前『空っぽ』だもんな!』
『か、ら……』
『書けって言われたら百点出せるだけの何のこだわりのないロボットライター。それってAIと変わんねーじゃん。むしろ学習するだけAIの方がオリジナリティあるおもしれーもん書けるかも!』
勢いに任せて本当に酷いことを言ってしまった。帰り道で後悔して、そのまま振り返って謝ろうとして。
『……っ……』
彼が下を向いて何度も袖で涙を拭っているのを見てしまって、臆病な自分はそのまま駅まで走り去った。
知っていた。彼が自分の書きたいものがないことを気にしていること。こだわりがないことを気にしていること。評価ばかり気にするようになってしまって、本当は何を書きたくて入社したかわからなくなってしまったこと。全部知ってる。だって染衣が相談に乗っていたんだから。
『結果が全てだろ。ま、いつか見つかれば万々歳じゃねーの? ちなみにオレはーー』
染衣は、最低な形で吉川を裏切って突き放した。
会うべきだと思う。会って、謝るべきだ。あんな酷いことを言ったこと、連絡拒否をしたこと、それから泣かせてしまったこと。
でも、会ってそれからどうする?
何を言う?
あの言葉は染衣の嘘偽りない本心で、今更取り繕う言い訳なんて持ち合わせていない。
「……いや! 男らしくないな!」
会おう。とりあえず会ってみよう。話はそれからだ。どうせこの機会を逃せば一生引き摺るだろう。だったらキッパリ会ってきちんと話した方がお互いスッキリするはずだ。それにもう有給取ったと言っているし、何より吉川は方向音痴だ。京都にガイド無しで来たら絶対迷う。
そう言い聞かせ、返信を返す。
『いつ来る?』
そう一言だけを添えて。
元気にしてた?ゲームやりました。このゲームは松里の作品だよね?話したいことがあるので有給取りました。京都に行くので会ってください』
そして文末には「サイドノシュート」のダウンロードサイトのURLが貼り付けてあった。
「え、えぇ……」
どうして吉川がこのアドレスにメールなんかを、と思ったが昔何か資料を共有する時にこのアドレスを教えた気がする。おそらくそれでここなら拒否されないと踏んだのだろう。
「会うって……なんで……」
話なんてない。ゲームをやったから何。今は何も聞きたくない。ホワイトスピカで現役で活躍している吉川の顔なんか見たくない。
「でも……有給……」
ホワイトスピカは有給が取りづらい。それはもういつ取るか本気で揉めるほど取りづらい。なのに染衣に会う為に有給を取ったとまで言うのだ。多分行動力のある吉川のことだ。もう新幹線のチケットも取ってしまったことだろう。
二度と会わないと決めていた。
関わらないと連絡を絶った。
でも、会えるならーー……謝りたい。
『お前は普通の家でいいよな! 書ける環境があって羨ましいよ! あーあ、オレも普通の家に生まれてればな~! 家継ぐとかだるいわー』
『松里、ゲーム作りは趣味でも出来るよ』
『は? ふざけてんの? 商業以外無価値だろ。同人なんてなんのためにやんの?』
『それは』
『あーあ、最後に一作でもメインイベント担当したかったなー。でも無理か! メインライターに昇格は!』
『え……』
『だってお前がいるもんな! オレとお前どっち取る? って聞かれたらお前選ぶよな! だってお前『空っぽ』だもんな!』
『か、ら……』
『書けって言われたら百点出せるだけの何のこだわりのないロボットライター。それってAIと変わんねーじゃん。むしろ学習するだけAIの方がオリジナリティあるおもしれーもん書けるかも!』
勢いに任せて本当に酷いことを言ってしまった。帰り道で後悔して、そのまま振り返って謝ろうとして。
『……っ……』
彼が下を向いて何度も袖で涙を拭っているのを見てしまって、臆病な自分はそのまま駅まで走り去った。
知っていた。彼が自分の書きたいものがないことを気にしていること。こだわりがないことを気にしていること。評価ばかり気にするようになってしまって、本当は何を書きたくて入社したかわからなくなってしまったこと。全部知ってる。だって染衣が相談に乗っていたんだから。
『結果が全てだろ。ま、いつか見つかれば万々歳じゃねーの? ちなみにオレはーー』
染衣は、最低な形で吉川を裏切って突き放した。
会うべきだと思う。会って、謝るべきだ。あんな酷いことを言ったこと、連絡拒否をしたこと、それから泣かせてしまったこと。
でも、会ってそれからどうする?
何を言う?
あの言葉は染衣の嘘偽りない本心で、今更取り繕う言い訳なんて持ち合わせていない。
「……いや! 男らしくないな!」
会おう。とりあえず会ってみよう。話はそれからだ。どうせこの機会を逃せば一生引き摺るだろう。だったらキッパリ会ってきちんと話した方がお互いスッキリするはずだ。それにもう有給取ったと言っているし、何より吉川は方向音痴だ。京都にガイド無しで来たら絶対迷う。
そう言い聞かせ、返信を返す。
『いつ来る?』
そう一言だけを添えて。
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