震える手と弾丸、罪

ゴミ箱

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中編 対話

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僕は引き戸を開けた。



ガラガラ



「らっしゃぁい!」

と勢いよく店員が挨拶してきたが、周りの騒音にかき消されていった。

店内では大声で会話をするも者や、酒の入ったグラスを合わせ乾杯をする者でいっぱいだった。



「やぁっと来たか、おせぇよ、10分遅刻」

鳥谷はすぐに店内に入ってきた僕を見つけ、少しにやけたで顔で声をかけてきた。

「あぁ、すまんな」



僕は鳥谷のいるカウンター奥の席に向かう。

「あれ?鳥谷、お前禁煙中だろ?吸ってていいのかよ」



顔を少し上に向かせ、目だけこちらに向け口に含んだ煙をゆっくり吐きながらリラックスした様子で言った。

「ふぅ...今日はいいんだよ、今日は」

鳥谷の吐いた煙が彼の周りを漂っていた。




僕は鳥谷の右隣りの椅子をズズっ音を立てながら引き

そこに座り、背もたれに体重を乗せ、一息をつく。

カウンターには既におしぼりが二人分置かれていた。

「ていうか、いつものギターは持ってきてないの?」

「今日は持ってきてない」

「そうか」

「...」

「...」

「酒はいつものでいいよな」

「ああ」








鳥谷は背もたれに寄りかかり、右手の指で煙草を挟み頭の後ろで腕を組んで、足を組みながら会話を続ける。

「警察の方は最近どうよ?順調?」

「あぁ、まあまあ上手くやってるよ。上手くは」

「ふぅーん」



店員がカラン、カランと音を立てながら梅酒が注がれたグラスを2杯、テーブルの上に置いた。両方、大きな氷が二つ入っている。

グラスは店内の暖色を放つ照明の光を反射させ、黄金色に輝いている。



右手に持ってる煙草の灰を鉄製の灰皿の落としながら言った

「でもなんかお前、少しやつれてるきーすっけど」



僕は右手でグラスを掴み、梅酒を優しく一口飲んだ。

グラスを少し覗くと、積まれていた氷がカラン言いながら崩れる。

「順調でも、疲れるもんは疲れんだよ」



「...そんなもんか」

「そんなもんだよ」



「...そういうお前も、いつもの元気が無いじゃん。なんかあったのか?」

「...あぁ...あったよ」

「...もちろん言いたくなかったら、言わなくてもいいよ...」

「...いや、大丈夫」

「...そうか」

「...」

「...」

「親友がさ、」

「死んだんだ。」



鳥谷のグラスに入っている氷が、カランと崩れた













「高校からの悪友でさ、あいつも俺も金なかったんだけど、バンドするためにどうしても東京に住みたくて、大学卒業したあたりで同居し始めたんだ。」




右手で挟んだ煙草を口元に持っていき、一口吸う。

ジュゥ...と小さな音を立て先が赤く燃える。

煙を吐き出し言った。

「男同士だったけど、けっこう楽しかったよ」

昔を懐かしむように、笑っていた。




「でさ、同居して一年経つか経たないかぐらいで、あいつの母親が病気しちまってよ。治療費が結構かかるんだと。」



「あいつの父親はかなり昔に死んじまったらししいし、金出すのはあいつしかいなかった。もちろん俺も金だしたり、手伝ったりしたさ。それでも足りなかった。」



「必死だったよ。俺もだけど、あいつの方が。何個バイトを掛け持ちしてたか思い出せないぐらいはね。家なんてただの寝床当然だったよ。」



「そしたらあいつ、急にいい仕事見つかったなんて言い出したんだ。」



「その仕事してからは、かなりの金が入るようになったんだ。治療費を賄えるくらいに。」



「なーんか怪しくてよ。どんな仕事してんのか聞き出そうとしたんだけど、頑なに教えてくんなかったんだ。」




「教えてくれなかったんだ。親友なのにな。」





右手の指に挟んでいた煙草の灰が、力なくテーブルの上に落ちた。





「そしたら、この前の朝に急に警察が来てよぉ...。あいつが死んだなんて言いやがったんだ...」



「一緒にバンドで有名になろうって約束したのによぉ...破りやがってよぉ...あいつも薄情だよなぁ...」



「...なんか、暑くね...?汗かいてきちゃった...」



鳥谷は煙草を灰皿に置き

手元にあった暖かいおしぼりを広げ顔を覆い、両腕はだらんと椅子のわきに下げ、

上を見上げた。




「...」

「実はさ俺、警察の仕事中だけどさ、人を殺しちゃったんだ。」

「...」

「ほんとうに殺意なんてなかった。ほんとうに、殺したくなかったんだ...」

「...」

「でも、あの状況は撃つしかなかったんだ。やるしかなかったんだ...」

「...」

「...」

「...仕方ないよ」

「...そうかなぁ...」

「そうだよ」

「...」

「...」



僕の両手には拳銃の重みが残っていた。



「あのさぁ鳥谷...、お前と親友の家、行ってもいいかな..?」









「...いいよ」
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