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夜明けの金糸雀 (シン視点)
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彼女は俺とだけ契約しようと考えていたから。
そうなればメンバーは事務所の意向で自由に組み替えられてしまう。
それだけは避けたかった。
「今のメンバーがベストなんですよ。アイツらは俺の音楽を完全に、いや、それ以上に表現してくれる」
「そんなにあの子を守りたいの」
「何の話ですか」
「あなた。あの子と深い仲なんでしょ」
バレてたか。
まぁ隠す気も無いけど。
「まぁ、そうです」
「恋人に歌わせたくて音楽をしてるの?違うわよね」
「うーん。違わないかも」
呆れた様子の彼女に、俺は畳み掛ける。
「この条件が飲めないなら。飲んでくれる事務所と契約します」
「……それって脅し?」
「契約してくれたら。恩返ししますよ。必ず」
「大した自信だこと」
「俺たちの音楽は売れる。そう思ってるから毎回来てくれてるんでしょ?」
俺には自信があった。
今まで多くの超人気バンドを世に送り出して来た、彼女の審美眼には間違いが無い。
その彼女がこんな熱心に口説いて来るんだ。
俺たちは売れる。
「俺は貴女を信じてる」
「……そこまで言われたら見捨てられないじゃない。私の負けね」
「勝ち負けじゃないでしょ。これから共に戦うんですから」
彼女は諦めたように苦笑すると、右手を差し出した。
「シン。あなたと……いえ、あなたたちと正式に契約します」
俺は満面の笑みで、その手を握った。
「ありがとうございます」
そんなやり取りがあって。
ステージ裏でみんなに話したらめちゃくちゃ喜んだ。
でもサチだけは浮かない顔だった。
「サチ。嬉しくないの」
「嬉しいけど……僕でいいの?」
まだ自信が無いのか。
謙虚なところも可愛いんだけど。
「サチがいいんだ」
「……うん」
ライブハウスからの帰り道。
サチが珍しく俺の手を握る。
冷たくて細いサチの手。
俺はそっと握り返した。
「どうした」
「僕……頑張るから」
「うん」
「みんなに迷惑かけないように」
「うーん。違うんだよな」
「何が違うの?」
「何て言うか。俺たちは家族みたいなもんだから。迷惑かけてもいい」
そう言ったらサチは驚いた様子だった。
まぁ、子供の頃から人に迷惑をかけるなって教育されて来たからな。仕方ない。
「俺もみんなに迷惑かけてるし。お互い様だろ」
「そんなことないよ」
「そこまで言うなら特訓するか」
「うん」
「今夜は寝かせないからな」
俺は大袈裟にニヤけてみせる。
また殴られることを想定してたけど。
「……お願いします」
サチは承諾した。
「え。いいの?」
「それで体力がついて大きな声が出るようになるなら」
「それだけの為に俺とするの?」
「それだけじゃ……ないけど」
分かってる。
サチは本当に心底、俺のこと愛してくれてるって。
抱かせてくれるのもサチの優しさだ。
本心ではあまり行為が好きじゃない。
彼女の代わりになるって言った手前、断りにくいんだろうな。
知っててしたがる俺が悪いんだけど。
「無理すんなよ」
「無理なんかしてないよ」
「添い寝でいいからさ」
「それじゃ鍛えられないし」
「じゃ、走るか」
「え?」
俺はサチの手を握ったまま走り出そうとする。
サチは慌てた様子で俺を引き留めた。
「……ちょっと待ってシンさん!僕、走るの苦手だから!」
「知ってる。けど」
「けど?」
「案外、そう思い込んでるだけかもな」
歌声も外見も人柄も。
サチは自己評価が低過ぎる。
こんなにも魅力的なのに。
染み付いてる劣等感が、もどかしい。
だから俺は笑顔で言った。
「サチは出来る奴だって。俺は知ってる」
喜ぶかと思ったのに。
何故かサチは号泣し始めた。
子供みたいに大声で。
ここは街中の歩道。
行き交う人たちの視線が痛い。
俺、可愛い男の子を泣かせたヤバい奴になってる。
ただでさえ胡散臭い見た目だからな。
警察呼ばれるぞコレ。
「……うん。サチ。一旦落ち着こう。な?」
懸命に宥めるがサチは泣きじゃくってた。
困り果てて抱き寄せ頭を撫でる。
サチも俺に抱き着いて来た。
「まぁ……いいか」
どうせ俺たちのことなんて誰も知らないんだ。
今は、まだ。
いつか有名になったら自由に街を歩くことも出来なくなる。
それまでは普通の恋人みたいに二人の時間を楽しもう。
サチの柔らかな髪を撫でながら。
俺はそんなことを考えてた。
【 完 】
そうなればメンバーは事務所の意向で自由に組み替えられてしまう。
それだけは避けたかった。
「今のメンバーがベストなんですよ。アイツらは俺の音楽を完全に、いや、それ以上に表現してくれる」
「そんなにあの子を守りたいの」
「何の話ですか」
「あなた。あの子と深い仲なんでしょ」
バレてたか。
まぁ隠す気も無いけど。
「まぁ、そうです」
「恋人に歌わせたくて音楽をしてるの?違うわよね」
「うーん。違わないかも」
呆れた様子の彼女に、俺は畳み掛ける。
「この条件が飲めないなら。飲んでくれる事務所と契約します」
「……それって脅し?」
「契約してくれたら。恩返ししますよ。必ず」
「大した自信だこと」
「俺たちの音楽は売れる。そう思ってるから毎回来てくれてるんでしょ?」
俺には自信があった。
今まで多くの超人気バンドを世に送り出して来た、彼女の審美眼には間違いが無い。
その彼女がこんな熱心に口説いて来るんだ。
俺たちは売れる。
「俺は貴女を信じてる」
「……そこまで言われたら見捨てられないじゃない。私の負けね」
「勝ち負けじゃないでしょ。これから共に戦うんですから」
彼女は諦めたように苦笑すると、右手を差し出した。
「シン。あなたと……いえ、あなたたちと正式に契約します」
俺は満面の笑みで、その手を握った。
「ありがとうございます」
そんなやり取りがあって。
ステージ裏でみんなに話したらめちゃくちゃ喜んだ。
でもサチだけは浮かない顔だった。
「サチ。嬉しくないの」
「嬉しいけど……僕でいいの?」
まだ自信が無いのか。
謙虚なところも可愛いんだけど。
「サチがいいんだ」
「……うん」
ライブハウスからの帰り道。
サチが珍しく俺の手を握る。
冷たくて細いサチの手。
俺はそっと握り返した。
「どうした」
「僕……頑張るから」
「うん」
「みんなに迷惑かけないように」
「うーん。違うんだよな」
「何が違うの?」
「何て言うか。俺たちは家族みたいなもんだから。迷惑かけてもいい」
そう言ったらサチは驚いた様子だった。
まぁ、子供の頃から人に迷惑をかけるなって教育されて来たからな。仕方ない。
「俺もみんなに迷惑かけてるし。お互い様だろ」
「そんなことないよ」
「そこまで言うなら特訓するか」
「うん」
「今夜は寝かせないからな」
俺は大袈裟にニヤけてみせる。
また殴られることを想定してたけど。
「……お願いします」
サチは承諾した。
「え。いいの?」
「それで体力がついて大きな声が出るようになるなら」
「それだけの為に俺とするの?」
「それだけじゃ……ないけど」
分かってる。
サチは本当に心底、俺のこと愛してくれてるって。
抱かせてくれるのもサチの優しさだ。
本心ではあまり行為が好きじゃない。
彼女の代わりになるって言った手前、断りにくいんだろうな。
知っててしたがる俺が悪いんだけど。
「無理すんなよ」
「無理なんかしてないよ」
「添い寝でいいからさ」
「それじゃ鍛えられないし」
「じゃ、走るか」
「え?」
俺はサチの手を握ったまま走り出そうとする。
サチは慌てた様子で俺を引き留めた。
「……ちょっと待ってシンさん!僕、走るの苦手だから!」
「知ってる。けど」
「けど?」
「案外、そう思い込んでるだけかもな」
歌声も外見も人柄も。
サチは自己評価が低過ぎる。
こんなにも魅力的なのに。
染み付いてる劣等感が、もどかしい。
だから俺は笑顔で言った。
「サチは出来る奴だって。俺は知ってる」
喜ぶかと思ったのに。
何故かサチは号泣し始めた。
子供みたいに大声で。
ここは街中の歩道。
行き交う人たちの視線が痛い。
俺、可愛い男の子を泣かせたヤバい奴になってる。
ただでさえ胡散臭い見た目だからな。
警察呼ばれるぞコレ。
「……うん。サチ。一旦落ち着こう。な?」
懸命に宥めるがサチは泣きじゃくってた。
困り果てて抱き寄せ頭を撫でる。
サチも俺に抱き着いて来た。
「まぁ……いいか」
どうせ俺たちのことなんて誰も知らないんだ。
今は、まだ。
いつか有名になったら自由に街を歩くことも出来なくなる。
それまでは普通の恋人みたいに二人の時間を楽しもう。
サチの柔らかな髪を撫でながら。
俺はそんなことを考えてた。
【 完 】
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