上 下
2 / 10
1 私、転生したみたい

師匠と同居しています

しおりを挟む

アレイトス。
その地名を知る者は皆、口を揃えてこう言うだろう。
「魔物の出没に注意しろ」

そりゃそうだ、と呆れるくらい当たり前なことだと思う。
だって、このアレイトスという地域は、人よりも魔物の方が多い地域なのだから。

私、リリー・エフェロニアは、このアレイトスの中でも魔物が出没しやすい森の近くに住んでいる。
危険がないわけじゃ決してないけれど、仕方がない。
だって、私を育ててくれている同居人がここに住んでいるのだから。

正直…生まれてからずっと、ここで生活している私としては、魔物に注意することが当たり前だからさほど気にならないが。

「普通に考えれば、ここで子育てしようと思う師匠がすごいよね」

かちゃかちゃと食器を洗いながら、私は呟いた。
今年で8歳となった私は、年齢不詳の師匠と一緒に生活している。
師匠の家は、魔物が頻繁に目撃される森の近くで、この辺りに住む人は私たち以外いない。
そりゃそうだよね、危険だから。

8歳の割に言動がおかしい、とか思っている?
よく気づいたね!
そう、私は見た目は8歳!頭脳はちょっと大人、その名は…っ、ってパクりに近いセリフでわかってもらえるかもしれない。
簡単に言えば「転生者」なんだろうと思う。
それもつい10日くらい前にわかったことなんだけれども…。
その時のことを思い出すと、今でも頭が痛くなる。

なにせ、でっかいボールがこの小さな頭にぶつかったんだから!
あれは痛かった。だって、ここで子供が使うボールは「木」だ。
一応ね、丸いし、蹴った時に怪我をしないように布切れが巻いてあるけど、痛い。
そんなものが後頭部に思いっきり当たって、よくタンコブ1つで済んだと思うよ。
その奇跡に私は感謝したいね!
鈍器で撲殺、みたいなことが村の真ん中で起きようもんなら、大事件だ。
それじゃなくても、村でそんな事件起きたことないから大騒ぎだろうし。

その大きな衝撃で、ぶっ倒れて、村から強制送還されたこの師匠の家で、自分の過去とも言える記憶を思い出した。
え、これって誰の知識?ってね。

この話はなんとなーく、その知識的にはテンプレっぽいから省略しよう。
とりあえず、元30代後半の社会人で、夫もいたキャリアウーマン、って感じかな。
特に貧乏じゃなかったし、すげー苦労したわけでもないので、過去は省略。
子供がいなかったから、それだけが救いかなぁ…流石に母親死亡とか…幼い子供の精神に悪影響すぎる。
まぁ、とにかく色々、思い出したんだけど…大したことはなかった。

だって、公爵令嬢でもなければ王族でもない、生まれてすぐにポイされて魔物徘徊する森の近くで生活する一人の少女な訳だし。
チート知識?どこで使うんだ。元手もないのに。
チート能力?身体が弱くて、そんな使える気がしない。
そりゃちょびっとくらいは使えるよ。でも、全然チートなレベルじゃないし。
意味ねー…とボソリ呟いた私は悪くないと思うんだよね、うん。

「食器は終わったのか、リリー」

がちゃりというドアが開く音とともに聞こえてきた声に、私は振り返った。
そこには魔物よけのローブを着た師匠の姿が見えた。

ちなみに、師匠は男だ。
別にイケメンとかじゃないよ、普通の40代くらいのおじさん。
期待した人、ごめんね。

「だいたい終わったよ。お手伝いする?」

ひょいっと流しのところに置かれた私専用の台から飛び降りて、師匠の近くへ歩いていく。
すると、目の前に少し大きめの麻袋が。
それを受け取ると、ずっしり。

「今日はもう仕分けてある。そのままでいい」
「はーい。じゃあ、置いてくるね」
「無理はするなよ」
「はーい」

師匠の言葉に、私はその麻袋を持って、キッチンの横にある階段から地下へと降りた。
そこには、暗がりの中に棚があり、その奥には金属でできたドアがある。
そこを開けて、麻袋の中に入っていた笹のようなものでぐるぐる巻きにされている肉を置いていく。

冷蔵庫ほど高性能じゃないけど、だいたい5度前後に保たれているらしいこの場所は肉を置いたりしている。
まぁ、血肉の匂いは魔物が寄ってくるから、それをごまかすための仕組みだとも言われているけど。

金属のドアは、なんだかわからない。ステンレスがあるわけないし、銀とか銅なら参加するし、鉄でもなさそう。
前に師匠に聞いたけど、教えくれなかったので、私は勝手に謎金と呼んでる。
私はそんな謎金のドアをしっかり閉めて、麻袋を持って一階に上がった。
そこにはローブを外ではらっている師匠がいた。

「師匠ー、麻袋洗浄してもいい?」
「あぁ、頼む」

私は手に持った麻袋を、すぐ外にある壺の中に入れる。
ちょっと大きめのツボなので、近くには私用の台が置かれていて、私はそこに飛び乗った。
ひょいっと中を覗けば…暗闇。
普通に考えて底が見えないっておかしいけど、まぁ、師匠曰く魔法の壺らしいからそういうものなんだろう。

私はそっと壺の入り口に手をかざした。
ゆっくりその手に、意識を集中する。
すると掌がほっこりとしてくるのがわかった。
イメージは放射。ノイズとかがこう電波のよう広がるイメージ。
あんまり高周波なイメージをすると壺ががたがた言い出すからたぶんよろしくないらしいので、出来るだけ低周波イメージ。

すると、ぽんっと麻袋が壺から吐き出された。
麻がちょっと艶やかになったことに私は満足。

私は今日もいつも通り、この家で生活している。
しおりを挟む

処理中です...