上 下
1 / 24
第一章 近未来の普通の大学生は事件に巻き込まれる

第1話 令和からの元号変更から10年、社会制度は変わった

しおりを挟む
日本の元号も令和から切り替わり、10年が経過した。

令和元年初日に婚姻届けを出した両親は、相変わらず仲が良く、父親の会社の勤続20年のボーナスと10日間の休暇で二人で海外旅行にでかけている。

僕の名前はレイ、19歳。
前に両親に「令和に生まれたからレイ?」ときいたら、ちょっと目を泳がせながら、「昔、流行ったアニメからつけたんだ。いい名前だろ。」と言っていた。
しかし、両親はアニメに全く興味がないことを知っている…

ちなみに、1クラス20人のうち3人はレイという名前だが、自分としては響きもいいし、名前も覚えてもらいやすいので、結構気に入っている。


***


前の元号「令和」で変わったことといえば、AIが日常生活レベルに浸透し、単純労働はほぼAIに置き変わった。
単純労働がAIに置き変わることで、劇的なコスト削減と、人からAIへの労働力がシフトされた。

生活にかかる費用が大幅に低減された。
しかしそれは、AIへの労働力シフトであり、多くの人が職を失うことを意味していた。
その対策として、政府は成人した国民に月10万を支給するというベーシックインカムという制度を導入した。

国民の生活は、汎用AIを利用した安価でそこそこ快適なものと、高品質AIと洗練された人の両方を使用した上質なサービスに分けられることになった。

ベーシックインカム制度導入時は、働かない無気力な人間が増えるとか、働いている人が自分は他人のために働くのかと不満を抱いたり、財源が確保できるのかなど、多くの問題が噴出した。
しかし今では、ベーシックインカム制度がうまく機能している。

富裕層は雑務から解放され、代えのきかない重要な仕事、やりたいことだけを行い、より多くの収入と充実した人生を得た。
一般層は、AIの隙間の人手が必要な作業をスキルという名前で至るところに設置されたネットワークで提供している。スキルレベルにあった収入を得て、ちょっと贅沢なサービスを受けるサイクルが回っていた。

もちろん、その陰では時代に適合できない人、今まで高額な報酬を得ていたがAIにより職を失った人も多かった。

AIの波は製造業だけでなく、サービス業もふくめた、あらゆる分野に及んでいた。

全国均一な制度、サービスを提供するということで、役所や議員は存在意義を失い次第に人員縮小・廃止され、現在ではAIとスキルによるサービスのみとなっている。

国による年金、保険も廃止された。
ベーシックインカム制度により、その役割を終えることになった。
解決されなかった消えた年金は再現せず、世代間でくすぶっていた不平等な負担、支給がなくなった。

今まで払ってた分がなくなってしまうという声もあったが、もともと積立ではなく現役世代が負担している分は、現在年金を受給している高齢者のものと指摘されると、将来受け取れないかもしれない年金を期待するよりベーシックインカムで一律で受け取る方がまだましという声に変わっていった。

100年安心と宣言した数年後に支給期間の大幅引き上げと支給額の引き下げ、老後は自分で2000万円の貯金を準備するのが推奨と、制度も論理も破綻したボロボロのシステムだった。

しおりを挟む

処理中です...