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第一章 近未来の普通の大学生は事件に巻き込まれる

第3話 近未来の大学生もアルバイトをする

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今日は、木曜日。

今週分の大学のオンライン授業とレポートの提出は、昨日の夜に完了している。

大学の授業スタイルも大きく変わり、月2回の集合教育以外はオンライン授業となり、レポート提出で評価されるようになった。

アイディア、思考錯誤のプロセスが重視され、単純な暗記モノは参考評価レベルになっていた。
インターネット上で簡単に検索できる情報は調査手段としては評価するが、その情報を使用して、どう考えるか、新しいアイディア・切り口を発見できるかで加点される。

オンライン授業主体となったこと、アイディアを生み出す人材を育てるという国の施策により、乱立した大学は淘汰された。
物理的な建物としての大学は激減したが、有能なアイディアを持つ人を取りこぼさないようにという観点から、大学の門戸は広く開かれ、授業料も無料となった。
大学生も高校から進学したもの、社会人、主婦、高齢者など、多種多様となった。

自分のように、独創的なアイディアもなく、目をみはるほどの才能もない、いわゆる普通の人間にとっては良い評価を目指そうとすると斬新な切り口を見つけなければならず、苦労する内容となっている。

もっとも大多数は普通レベルで、そこそこの努力とそこそこの評価で納得している。

向上心はあるけど普通レベルの自分は、何がヒントになるかわからないということで、気分転換と小遣い稼ぎを兼ねてちょっとした労働をしている。


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木曜午前中のスキルを利用した小銭稼ぎは、いつもの作業となっている。

スキルとは、個人が事前に登録した技術というスキルを、必要とされる人とスキル保有者をAIがマッチングをかけて、発注する。
スキルレベルが高くなると、報酬も高くなる。

一年前からドライブサービスというスキルを登録し、空き時間を利用し細かい仕事を受注し、コツコツとポイントを貯めている。
半年前にシルバー・レベルとなり、もうすぐゴールド・レベルに昇格し報酬の高い仕事を受けることができるようになる。

昔の免許のようにペーパードライバーでゴールド(優良)になるものではなく、AIが安全性・正確性・都市から田舎までの依頼の網羅性や依頼の消化件数を判断する。
ちなみに、悪質な運転、事故を起こした場合は、一切運転することができなくなる。

免許を取得できないだけでなく、現在主流となっているAIサポート機能搭載者では、手動での運転ができなくなるというペナルティが発生してしまう。

ドライブサービスに登録すると、VR越しに実際の車を利用しチュートリアルを受ける。
運転操作者の視点を体験しながら、AIの運転でモデルコースを運行し、駐車場に入れるまでを1セットとする。

続いて、AIのガイド付きでモデルコースの運転を繰り返し、最終的にガイド無しでAIが合格と判断すればドライブサービスの依頼を受注できるようになる。

最初は、路線バスのようなAIによる自動運転の同乗。AIがすべて運転し、人間はVRモニターを使って見ているだけである。
これは、もしもの時のために法律で義務づけられた措置であり、本当の小遣い稼ぎくらいの金額が設定されている。

次の段階は、一時間以内の距離で人間が主体で運転し、AIがサポートするドライブ依頼である。
その依頼の大部分は公共の交通機関がない地域の、病院や買い物の移動手段として活用されている。

令和の時代に多発した車の誤操作による重大事故は、高齢者の免許自主返納促進と事故の加害者の免許没収、再取得の禁止という法改正につながった。
それは、地方だけでなく都市部も含めたバスや電車などがない交通弱者の存在と、自家用車の普及がもたらす公共交通機関の利用者の減少・人口減少による不採算路線の廃止、という問題を浮き彫りにした。

この問題の対策として、国家主導で自動車メーカー、IT企業が協力し、AIを活用した自動運転の開発が進められ、急速に実用化が進められた。

自動運転の実用化は、いくつかの問題点が明らかになった。

悪天候でGPSが効かず一定の時間が経過すると位置情報のズレが許容量を超え、自動運転が停止してしまう。

都市部であれば、電柱、信号機、カーブミラーなど公共や民間の建造物のセンサーを利用し、位置情報を補正することで自動運転を継続できた。
しかし、建造物自体がない地方の道路や、政府に反対する土地所有者の地区では、自動運転が停止してしまう。

また、飛び出しなどの不測の事態に、センサーからの情報を瞬時にAIが判断するには高額な演算機能と高度な判断が必要なことがわかった。

この二つの問題点を解消するために、人を活用することにした。
AIと人が補い合うことで、安価な交通手段を提供することに成功したのだ。

これにより、車を所有しないカーシェアや無人タクシーのにより、交通弱者の問題が解消されるとともに、交通事故件数も激減した。
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