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第一章 近未来の普通の大学生は事件に巻き込まれる

第4話 アルバイトを受注したら、最新のAIシステム搭載の依頼だった

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コーヒーを一口飲んだ後、カップを机の上に置き、AIスピーカーで手頃な依頼がないかチェックする。

「ドライブサービス」

《ドライブサービスを起動します。推奨順に依頼を表示します。》

ディスプレイに簡単な依頼内容が表示される。
件名、ポイント、報酬額、開始時間、想定所要時間、走行ルート、備考有無。

「一番上、詳細」

《成人男子、移送。ポイント30。1万円。開始10分前。所要時間30分。走行ルート画面表示。備考:最新リリースAI モヒンダ Ver.1.01》
音声とともに、ディスプレイにルートが表示される。

短時間の割に報酬ポイント、金額が高めで、走行ルートも特に気をつける部分はなさそうだ。多分、最新リリースAIの走行テストも兼ねた依頼なんだろうと思う。
おそらく、ゴールド・レベル間近ということと、両親が社内割引で用意してくれたVRマシンが高性能だったので最新AIに対応していたための、おいしい依頼なのだろう。

「リザーブ」

《依頼がリザーブされました。》

カップのコーヒーを半分ほど飲み、机の上に置く。
飛行機のファーストクラスのシートにも似たVRマシンに乗り込むと、シートが自動調整され人間工学的にリラックスした状態で最大のパフォーマンスを促進する姿勢になる。

いつものように、VRマシンと自分が接続され、仮想空間にダイブする。
仮想空間はイメージしやすいように、8畳くらいの部屋で壁がディスプレイ表示され、椅子に座っているように表示される。

実際には、宇宙空間を漂うイメージでも、現実世界とほぼ同じ机とパソコンでも、意識体を投影するため制約はない。
ただし、明確なイメージがないと仮想空間でうまく動くことができなくなる。

自分の場合は、VRでゲームをしているので、通常は8畳程度の部屋、同時起動のアプリケケーションが増えてくると奥行きを出して、半透明のウィンドウで重なるようなイメージで作業している。

「ステータス」とつぶやくと、メイン画面が表示される。

体調に問題がないこと、通知欄に緊急で確認するものがないことを確認する。
画面右上に☆マークが点滅し「ドライブ・サービス 受注」と表示されている項目に意識をあわせ、椅子の肘掛けに置いた右手の人差し指をダブル・クリックする。

意識のみで項目を選択することも可能だけど、単純作業でイメージした方が早いものはVRの身体を使っておこなうようにしている。


VRマシンがクラウド上のドライブ・サービスに接続すると、ドライブ・サービスの画面がメイン画面として表示される。

《新規AIに接続しました。チュートリアルに移行します。YES/NO》

いつもであれば、受注した件名が表示されたものを選択するとすぐにVRドライブが始まるのだが、今回は最新型のAIのためチュートリアルがあるようだ。
初めてVRマシンのドライブ・サービスを選んだときもチュートリアルがあったので、同じようなものかと思い《YES》を選択した。

チュートリアルが始まる。
この車種全体が専用のシステムに接続され、始めて使用するひとにはチュートリアルが発生するそうだ。

チュートリアルは、今までの依頼内容、現在のドライブスキルを反映した説明で、より進化した予測、大幅に強化されたAI処理性能により、ドライブサポートと自動運転機能の向上を説明するものだった。

《拡張モードの説明を受けますか。YES/NO》

一通りチュートリアルを終えると、拡張モードの説明を受けるか確認があった。

通常モードでは普通に運転する感じだったが、拡張モードでは全方位の情報が流れ込みながら、運転にも集中できるという優れものであった。

過去のドライブ記録から、擬似的に拡張モードを付加したシーンが再生される。
街中に張り巡らせたセンサー、情報ネットワークと接続し、これまで注意マークが表示されるだけだったブロック塀で見通しが悪いところも、VRモニターを通して見ることができるようになった。
実際の目で見る感覚に加え、いろいろな角度からの映像が頭の中に流れ込んでくる。

「この感覚は知ってる」と、思わずつぶやいた。
シューティング・ゲームで全体を見ながら、視覚を埋め尽くすような弾幕をかいくぐり、ボスキャラを攻撃している時の感覚だ。
どこかを集中してみるのではなく、全体を把握し、最適なルートを考えるより感じ取り、気負いもなく自然に操作している時のようだ。

《適合率98%、このまま拡張モードを継続しますか? YES/NO》

「もちろん、YES」とつぶやきながら、選択した。
拡張モードは情報量が増加するが、VRゲームで鍛えた自分には使いやすく、大きなメリットがあると感じた。
適合率98%がどういう意味かわからないが、よさそうな数字だと思っておこう。

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