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「ひと夏」
1.進路調査票
しおりを挟む暑さで、身体が参る。
流れていく汗は鬱陶しいくらいに肌を通って、それから皮膚が湿っていって邪魔になる。
長く伸びた髪は束ねられてじわりと肌に絡み付いて気分を滅入らせてくれる。
――――最悪だ。
今日は、来なければ良かったのかもしれない。
学生鞄を片手に、ほとんど歩いたことも無い道を行く。
制服はロングスカートのセーラー。古風な感じがする紺のリボンタイ。
これが気に入ったから入った学校、谷塚小沢中学。わたしの家の近所にある、古びた形の古びた校舎。
薄茶色の壊れそうな校舎、少ない生徒数。
以前来たのは、いつの事だろうか?
覚えている限りでは今年の始業式。あれだけはきちんと参加した気がする。
それより前となると、1年の時だったか2年の時だったか…………さっぱりだ。
気まぐれにきちんと通っていた小学時代と違い、中学に入ってからは家に篭る事が多かった。
別に不登校グセがあるわけでもないし、勉強が苦手でもない。ま、我侭だ。
制服は気にいった。までは良かったが、古風な学校に相応しく女子は三つ編み男子は坊主の封建的な学校。
規律を重んじて、常に正しく生きて―――それから――
校門を過ぎて、校舎内に入る。
ここでも校則はしっかりと守られていて、悲しいぐらいクローン人間どもが歩く。
やつらを、あまり人だとは思いたくない。
三つ編み、坊主、三つ編み、坊主、短く切り揃えられた髪、三つ編み。
毒でも食べて生きているのかと疑いたくなるような人々。
わたしの髪は、とても長い。
子供の頃からほとんど切った事が無かったため、腰に届くぐらいの長さを持っている。
長らく切らないで居たおかげで、愛着のようなバカな感情を持っているため短く切るつもりはない。だからって、三つ編みにする気なんてまったく無い。
理由はまた、我侭。
面倒がキライで、自分の思う道だけを取りたい社会に外れた、わたし。
集団行動なんて真っ平ご免だし、毎日毎日学校なんかのために髪で苦労するつもりは無い。
三つ編みにするのがイヤなので、学校には行きません。
それを理由として、わたしは不登校を続けていた。内申に響く、学業が遅れる、健康な身体の癖に何て無駄な事を。批判は零れる様に溢れた。
が、それで特例を認められるわけじゃ無し。これが公立の条件か、わたしは学校体制に負けて不登校をしていた。
今日みたいな進路相談の時だけここに来て、後は自宅で有意義な時間を過ごしている。
階段を昇り終えて、教室に入る。
午後からの登校だったため、中に入った途端一度しか有った事が無いクラス連中の視線が痛い。
今日は三つ編みになってしまっている髪を撥ね退けて、今年2回目の自分の机に座る。
本鈴が鳴り渡り、と同時にほとんど初めて見る担任が室内に入ってきた。
生徒達を見回し、わたしの姿を確認すると”三原、今日は来たな”と大声で言う。
余計なお世話だ。あなたが呼んだからわざわざ来てあげたんだから、感謝されても答えてあげる義務は無い。
「…………………」
担任は、わたしの答えを待っていたらしい。
が、数十秒たつと諦めてくれたようで、すぐに手にしていたプリントを配り始めた。
進路調査票。
公立に行くか私立に行くか、志望校はどこにするか、文字だけの羅列が手渡された。
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