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第一話 橋本部長の生徒会選挙

1.生徒会選挙だ!!

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「夏だ! プールだ! 生徒会選挙だ!!」

 ぐるぐるメガネに、白衣という中学生にはふさわしくない出で立ちで、彼は黒板に飾られたポスターをバンと叩く。
 ここは、都内にある第三中学の理科室。
 今は放課後で科学部の部活動時間だというのに、部をそっちのけにして、ぐるぐるメガネの少年。つまりは、科学部部長橋本橋蔵は叫んでいた。
 部。とはいっても、彼と強制的に部活に入れさせられた、一年下の山本君以外は部員がいない弱小のため、活動らしいものもしていない。ただ、熱風と蚊のなく音が鳴り響く理科室で、部長の思いつきに山本が付き合わされていることが、唯一の活動だった。

「これが、どういうことだか分かるか? 山本!」
「分かりません」

 有能なる部下に、無理やりされている彼、山本はじめは素直に答えた。

「まだまだ、甘いものだな山本! 後輩ならピンっときてもいいものだ!!」

 また始まったよ。と思いながら、山本は「はぁ」と返事をする。

「生徒会。つまりこれは、愚かな生徒達をひとしく正しい道へと誘ってやろうとする会! 古来より、弱者を強者が支配していた時のように、学生社会においても、このシステムは生かされている。
 生徒の代表、とは言ってもしょせんは第三中学の一生徒で終わってしまう小物に過ぎない。小物に生徒を指導させたらどうなるか?  生徒は生徒会を馬鹿にして、乱れた中学が生まれてしまう! そうだな、山本?」

「は、はい。多分」
「そこで、問題になってくるのが、この男だ!!」

 懐から取り出した写真を、黒板に貼る部長。
 どうやら、写真は去年行われた弁論大会関東地区大会の写真。壇上に、地区大会を惜しくも逃した、橋本の同級生である大掘啓介の姿がある。中学生にしては、と公表だった答弁で、審査員の覚えも良かったと評判になった。成績もかなりのもので、上位クラスに名前を連ねている。


 ・・・だからどうした。と山本は思った。


「今回のターゲットはこの男だ!!」

  ガタ

 あまりのことに、山本はイスからど派手に転げ落ちた。部長はついに、熱さで脳みそがいかれたのか。

「どうした山本?」
「いえ」

 ほこりをはたき、山本はイスに座りなおす。
 黒板前での熱弁は、まだまだ続きそうな予感がした。

「ふっふっふっふっふ・・・・こいつがいなくなれば、あとは蹴散らせる相手ばかり」
「もしかして、部長。立候補したのでは?」
「その通り」

 今度は、カバンの中から自作のフィリップボードと候補者紹介のポスターを貼る。
 フィリップボードには、どういう経緯で行動すれば、橋本様は当選するかを書いてあり。紹介のポスターには、薔薇の花を口にくわえた部長のアップが映し出されていた。

 ---鼻の穴に、画鋲を挿されそうなポスターだと山本は感じた。

「ここまでは、完璧。あとは、この男をどうのこうのすれば、無敵の支配者が第三に出現する!」
「む、無敵」

「選挙は来週の月曜。もう、何日もない。お前は、応援演説だ。私達は最後のトリを仕切る。演説内容は、考えてあるから、覚えろ!」

「って、僕は遠慮したいんですけど。その、期末ももうすぐだし、数学がちょっとやばいんで」
「よきにはからえ!」

 部長は、数枚の写真を山本に渡す。
 そこには、制服でお菓子の買い食いをしている山本の姿、学校で漫画を読んでる山本の姿。彼女の舞ちゃんには内緒で、クラスで一番美人な久川さんとデートをしている山本の姿が映し出されていた。

「喜んでやらせていただきます!!」
「そうか、それは良かった」

 いつの間にシャッターを押されていたのか?
 考え付く余裕もなく、山本は珠算部へと連れて行かれた。
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