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第1話 魅惑の保健室は青少年相談所
3.相談者の訪れ
しおりを挟む「――で、それが何だって……?」
すっと、背筋から何かが抜けていくような冷却が流れた。
大川は葛原の熱心な告白を蹴倒し、ガンを飛ばすという単純技法で葛原の魔の手を逃れた。
わぁぁぁぁと叫びながら、葛原は涙のご退場となってしまう。
しばらく、麻紀は呆然とデジタルカメラを握り締めていた。
---予想外の、結末だ。
まさか、金髪美少年がちょっちヤンキー入っている少年だとは、思わなかった。
何なんだと思う気持ちも強かったが、同時にこの男について興味が湧く方が強かった。
―――――――――――――――――
翌朝、麻紀は反応を試すため、掲示板にデカデカとプリントアウトした昨日の写真を貼り付けた。
建前としては、葛原君がショックで長期入院してしまった事の責めとして、誰かが理由を説明した。
という、いかにもやりそうな理由により、麻紀は掲示板を利用した次第である。
無論、葛原君が可哀想だから、仕返しになんてことは無い。楽しいからだ。
写真は、葛原が泣きながら逃亡するシーン。
ちょっと考えれば、大川が葛原を泣かせたとしか思えない、いじめの現場を公表するようなシーンである。
ただ、分かる人にはどんな現場だったか分かるだろう。
「うわ……。集まってるな」
もうすぐ始業のベルが鳴るというのに、この人だかりは何だろう。
掲示板にはA3サイズに拡大された写真が、科学部部員募集のポスターを下に目立ちすぎていた。
写真の右端は、号泣姿の葛原。鼻水まで垂らしている。
葛原で無くても泣きたくなる。そんなサラシモノ用の写真。
コンクールでちょっと賞を取れそうな、なかなかの出来栄えであり、この写真は二時間目の休み時間に大川によって破り去られるまで放置されていた。
―――――――――――――――――
「あのう、相談したいことがあるんですけど……」
やれやれと、麻紀は頬づえをつきながらだるそうに聞いた。
これで、朝から十人目。
昨日の葛原を足せば十一人目のご相談である。
一人、二人なら面白いだけだったが、五人を超えた辺りで麻紀もイライラしてきた。
都合が悪いことに、こんな日に限って重病人や怪我人が一人も来ない。嫌がらせでもしているかのようだ。
内容は昨日と全く同じ。
「大川君が好きなんです。でも、変なんでしょうか?」
男に持てる男はつらいね~。なんてそろそろ笑い事ではない。
体育倉庫の中で、大川君が強姦されていますなんて連絡が入ったら、こっちも寝覚めが悪い。
恐らく、大川の事を昔から愛してしまったいけない男子生徒。
が、多数居たのに、告白してしまった人が出てしまったから、彼らの闘争心に火が付いてしまったのだろう。
面白半分にやっただけあって、むなくそ悪い。
麻紀は適当にあしらって、生徒を追い返した。これ以上、付き合う気も起きない。
数秒たって、またガラガラという音と共に新規男子生徒のご登場だ。
この後は仕事ほっぽって、家に帰ろうかとまで麻紀は思った。
「あの、折り入って相談したい事があるんですけど……」
「はいはい。って、あんた……!」
入ってきたのは、問題の渦中に居る大川だった。
今日一日で告白されまくったのか、どことなく顔色が土気色にまで変貌していた。
その姿に、神経の太い麻紀もチクリと胸が痛んだ。
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