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~友愛編~

第三十九話……台車式バリスタ

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今日の天気は雪。ちょっと寒いけどお鍋が美味しい季節。



 サイクロプスの出没地に近づくにつれ、ブタは赤毛の女アサシン【ライン・シュコー】に偵察を頻繁に命じるようになる。

 (……ブタが指揮??)

 そう、ブタは老騎士から手渡された教科書通りにやっているだけに過ぎなかったが、今回指揮を執っていた。
 教科書には、『功を焦るな、味方こそ惜しめ』……などが書かれていたようだった。

 ブタ達はブヒブヒ情報を集め、目的地に近い小高い丘に陣を張った。


 そして、近隣の住人(主にモンスター)に工賃を渡し、陣地を作ってもらう。
 どこの社会でも、冬場は物入りで実入りは少ない。
 ブタ領は比較的温暖ではあったが、『比較的』の範疇から出ることはなかった。
 よって、この公共工事は周辺住民に非常に好評で、遠いとこからも来た人がいたくらいだった。


 100名の最精鋭(主にハイオーク)は、従軍文官であるンホール司教により『読み書きソロバン』を猛訓練されていた。
 もちろんウサもブタもお勉強組であった。
 ちなみに、ポコには陣地の周りを走り込みが課された。

 (@ω@`;) 厳しい、お……おうち帰りたいでござる。




 ……が、彼ら彼女らの地獄の特訓は3日3晩で終わりを告げる。



──
「巨人現る!」
 遠くの山陰から、巨人のような人影が見えた。


「距離は!?」

 骸骨騎士のザムエルは、報告の遅い部下のハイオークを蹴り飛ばした。


「きょ……距離は8kmであります!」

 王都から取り寄せた新兵器の計算尺も使い、素早く相手の大きさを割り出した。

「!?」

 導き出された大きさはなんと18m超!!


「18mだとぉ?」

 ハイオーク達は怯んだ。

「所詮は一体よ! 慄くべからず!」

 アガートラムの副将、骸骨騎士【ザムエル】が、可愛がっている若手を軒並み蹴り飛ばしながら、右へ左と叱咤と激励を飛ばす。


 ちなみに、この骸骨騎士【ザムエル】には夢が二つあった。もちろんこの戦場でも功績をあげたい。
 皆と凱歌を上げることは、この場の彼にとって必要十分条件であった。

 近隣の居住地域に被害が出ないように、陣地から派手な狼煙をあげる。従軍してもらっているクマのドリス夫妻にも美味しそうな煙も作ってもらっていた。

──果たして。
 巨人はゆっくりと近づいてきた。きっと巨人の目には派手な赤い鎧を纏うオークたちが生意気にも感じられたかもしれない。

 オーク達からすれば、目の前の一つ目巨人の姿は伝承に聞くサイクロプスそのものだった。しかも伝承の大きさの30割増しの巨躯。


──ガォォォオオ!
 青白い皮膚の一つ目巨人は木々を薙ぎ倒すような咆哮を上げ、ブタ達の陣地へ向けて走り始めた。

 オークたちの鼓膜は、巨体に踏みつけられる大地の悲鳴と、大気を震わす巨人の吐息に襲われる。
 歴戦の勇士たちの精神も揺さぶられ、背筋には冷や汗が滝のように流れる。彼らの心が命じても彼らの肉体は言うことを徐々に効かなくなっていった。


──恐怖。

 それは最強の支配者かもしれない。


 が、彼らのそれは一本の嚆矢により解き放たれた。

 その矢は、台車式複合材質大型弓によって放たれた重たい鉄製の矢だった。


 (黒色火薬による火縄銃の最大射程が400mだった時代、優れた複合材質弓は最大射程が700mにも達したといわれる。)

 この強弓と弦は、海獣製の恐ろしいほどの剛性を頼みにしていた。かつ巨人を仕留められる威力は、その大きさにも依った。
 よってこの弓は台車式であり、STR255のウサと力自慢のオークが3匹で引いた。


──が、
 照準手のタヌキがポンコツだった。

 矢は、巨大な巨人の脛に突き刺さる!

 Σ( ̄□ ̄|||) なんで脛やねん!?




 サイクロプスは転がり込み、絶叫とともに蹲った(痛そう)
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