上 下
50 / 100
~友愛編~

第五十話……借金と情報

しおりを挟む




──以前に【シュコー家】は御家再興を期するために借金である債券を発行、つまり起債していた。
 が、もちろんハリコフ王国の陪臣騎士爵などに、クローディス商館など大手はお金を貸さない。


 シュコー家の家宰ベネトー・シュコーはなんと債権の保証人に、ブタではなくボロンフ辺境伯爵を選んだ。
 ドロー公爵によりブタ領権益を奪われたボロンフ辺境伯爵にとっては、再びブタ領に関与できる口実として悪い話ではなく、上限限度額を双方で協議のうえ定め保証することとなった。

 シュコー家の債権は、ボロンフ辺境伯爵が保証したことで、一応の信用の担保を得た。
 その債権の内容とは『シュコー家に払った銀貨は、その金額の4倍を5年後に受け取れる』というものだった。
 つまるところ、シュコー家に銀貨1枚を貸せば、5年後に銀貨4枚を貰えるといことだった。

──が、これを売り出したベネトーは当時だれも見向きもしてくれなかったという。
 実は、一番最初に来たお客さんはタヌキのポコだった。

 シュコー家の起債の話を聞きつけたクローディス商館長ポリー嬢は、ブタ領家宰に起債の話を持ち掛けるが取りあってもらえない。
 で、人の良いタヌキで通っているポコに話を持ちかけたところ。

「OKポコ!」
 と二つ返事でポコが受諾。ちなみにポコはINT(かしこさ)1で有名である。

 ポコはブタに了承を取り、クローディス商館長の言う通りに『払ってもらった金額の3倍を5年後に受け取れる』債券をブタの名のもとに、クローディス商館やニャッポ村民に売り出した。

 鉱山経営が順調なブタ領の債権は、ニャッポ村村民に人気ですぐ売り切れた。そのお金でポコは大量にシュコー家の債券を買い入れた。もちろんポコはクローディス商館長であるポリー嬢に言われたままをやっているだけである。


──読者の皆様の視点からすれば、ブタ領は5年後に銀貨三枚の支払いと同時に、銀貨4枚を手にするトンデモ取引である。


 とりあえず、シュコー家の資金調達は、ポコが大量に買い付けた姿を見て他の商人たちが追従して購入したため成功する。



──が、これがなぜシュコー家の『諜報力』に繋がるか……。

 直接的な要因としては、ブタ領から王都の宮廷闘争により近いボロンフ辺境伯爵とのつながりと、もう一つはそのままの資金力強化。

 三番目は、家宰ベネトーが起債した債券である。

 古来、二つの勢力が戦えば双方とも大量の軍事費の調達のために起債する。勝ちそうな勢力の債権は値上がりし、負けそうな勢力の債権は紙くず同然の価値となる。

 そこに介在するものと言えば情報であり、双方の勢力よりも債権を保持した商人たちの方が、情報網がより広大で正確だった。

 戦争屋の王侯貴族より情報がお粗末であれば、到底商人は商売にならなかったのだ。

 つまるところ、シュコー家の家宰ベネトーが債券を大量に起債したことにより、その動向はあまたの商人たちの監視下に置かれた。

 商人たちは危険から身を守るために情報をやりとりし、交換もした。
 もちろん出る情報もあれば、入る情報もある。

 さきほどニャッポ村に来た商人は、王都ルドミラから来たものかもしれないし、遥か当方のアルサン侯爵領から来たのかもしれない。もちろんボロンフ辺境伯領から来たのかもしれないし、更にはその商人の取引先は遥か北方のトリスタン帝国の人かもしれなかった。



──そうした人々の流れを読み解き、シュコー家は次第に膨大な情報を手にすることになっていったのだった。
しおりを挟む

処理中です...