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~南方編~
第七十二話……北将再臨
しおりを挟む日暮れの雨は冷たい。
まるで北国からの贈り物の様だ。
――
釣りの帰りにブタは疲れた声に呼び止められた。
「そこのブタさん、水をいっぱいくれんかね?」
「ブヒ?」
見ると、疲れ切った男が、老人を背負っている。
ブタは急ぎ腰の水筒を手渡す。
水筒を受け取った男はよく見ると左目がなく、右足も無い。
彼は一口水筒の水をすすると、ガックリとその体をブタに預けた。
「しっかりブヒ!!」
「ぽこぉぉお!」
ブタはその男たちを自らの屋敷に連れ帰った。
途端、屋敷が騒がしくなる。
ポコは急いで湯を沸かし、リーリヤは手持ちの絵本を読んだ。
女官は急いで医者を呼びにいき、
「ウサァァァ!」
ウサのよわよわ回復魔法がさく裂する。
……(´・ω・`)
が、ほとんど効果が無いようである。
(´・ω・)(・ω・`)ヒソヒソ
「どうしようかブヒ?」
「わたくしが、急ぎ家宰様を迎えに行ってきます!」
護衛長のアーデルハイトはそういうと、急ぎ馬で駆けていった。
すっかりと日が暮れた後に。
「殿! 件の男はいずこに!?」
老騎士がやってきたが、その顔つきは嫌々といった感じだった。
なにしろこの世界は助けてあげられない貧しい人々などいくらでもいるのだ。
……が、老騎士は男と老人の服を見て驚いた。
トリグラフ帝国の、そしてとても高い階級の将校の物だったからだ。
――次の日。
小鳥がさえずる歌でくたびれた老人は目をさました。
ゆっくりと体を起こし、伸びをした。
「モロゾフ将軍、ですな?」
老人が振り返ると、ブタ領家宰が椅子の上でほほ笑んでいた。
――
ブタ達の棲む屋敷から平原を駆け蒼黒い山の稜線をまたいだ大森林の向こうに、ボルドー伯爵は陣地の設営に着手していた。
ボルドー伯爵はアーベルム領北端、シュコー家領近隣の街道周辺に陣を張り、兵士の宿舎を次々に建て始めた。
その数は日ごとに増え始め、その外周に柵と土塁を築き、さらに掘りも巡らせた。
ボルドー伯爵は陣地の構築に際し、自らの兵だけではなく近隣の、とくにアーベルム領の村民を多く雇った。
このような国境地帯に施設をたてるのは敵対行為と取られてもおかしくない。アーベルムだけではなく、シュコー家にも迷惑だった。しかし、周りの取り方は一様にそうとも言い切れなかった。
「まぁ、飲まれよ」
「かたじけなし」
ボルドー伯爵は毎晩に、アーベルムの地方豪族を酒宴に招いた。
「はっはっはっ! 先の戦いではそのようなことが?」
「ボルドー伯爵殿にも是非私の武勇を見せたかったものよ! うわっはっは!!」
日に日に宴の規模は大きくなっていき、港湾自治都市アーベルム北方の盟主はボルドー伯爵である、といった向きにもなっていった。
当然にアーベルムの中央政庁は神経を尖らせ始めたが、いつの時代も地域の国衆たちをまとめるのは容易ではなかった。
――
「くっ……、そういうことですか」
政庁で報告を受けるリーリヤの伯父メンデム将軍は、ボルドー伯爵の毒牙にようやく気づくことになっていた。
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