雪を溶かすように

春野ひつじ

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第一章

8 side悠

 那の部屋につき、ドアをノックして中に入ると読書をしていたところらしく、手に分厚い本を持っていた。

「兄上、どうなさったのですか?」

パタンと本を閉じて那が言った。

「薫王子のことで聞きたいことがあるんだが…」

「あぁ、あの獣人ですね。彼がどうかしましたか?」

「高熱が続いていて、医者が体力が回復しないことが原因だといってるんだが、何故だか知っていたら教えてほしい。」

「それは、私がつけたチョーカーのせいでしょうね。」

那は、全く悪びれることなく、いつも通り微笑みながら得意そうに言った。

「あのチョーカーは、獣人が獣化するのを防ぎ、かつ獣人の力を弱めることもできるんですよ。」

「どうやったら外せるんだ?俺が外そうとしても外れなかった。」

「それはそうでしょうね。つけた私にしか外せないように作ってありますから。」

「じゃあすぐに外してくれ。彼が死んでしまうかもしれないんだ。」

「嫌です。」

那はきっぱりといった。

「どうして…?」

「なぜ私が外すなんて面倒なことをしなければならないのですか?」

どうやら弟にはチョーカーをつけたことを悪いと思う心も、彼の命が危ないのにチョーカーを外すという考えもないようだった。どうしようと焦っている俺に弟は飄々と言った。

「そうだ、兄上が王位継承権を譲ってくれたら、彼のチョーカー、外してあげてもいいですよ。」

その言葉に後ろで暖が憤りをあらわにするのがわかった。俺も驚いたが、彼の苦しそうな顔が思い浮かび、すぐに

「わかった。」

と言って那から紙をもらうと、そこに那に権利を譲ることを書き、サインをした。

「今は一刻を争うから正式な手続きはできないが、お前がチョーカーを外したらすぐに手続きをしよう。」

那は俺が要求を呑むとは思っていなかったようで、耳を疑っていたが、俺が紙にサインをすると、自分の要求が通り嬉しそうに笑った。

「それでは行きましょうか。彼は今、どこにいるのですか?」

「俺の部屋だ。」

そして、俺らは部屋を出て、那に俺と暖が離れてついていった。暖がこっそり俺に言う。

「本当に良かったのですか?那様に王位継承権を渡してしまって…」

「あぁ、お前もあいつについた方がいいかもしれないぞ。」

少し笑いながら言うと、

「何を言うのですか?私は悠様のその優しい心に惹かれてお仕えしています。驚きはしましたが、悠様らしいなぁ、とも思いましたよ。」

と微笑みながら言ってくれて、俺は恵まれているな、としみじみと感じた。
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