あやかし探録記

めろんぱん。

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26 新宮結の独白(3)

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『今日は転校初日! 友達沢山出来たよ!』

 夕刻。パトロール終わりに鳴ったスマホは姉からのメッセージ。添えられた写真はとても沢山、とは言えないが何人かのクラスメイトに囲まれ、お見上げにと購入した東京土産が映り込む写真。皆笑顔が眩しい。

 私のことを忘れずに連絡してくれることを嬉しく思う。知らない制服を着たお姉ちゃんを見て寂しく思う。友達が出来たことに安心する。

『よかったね』『任務、頑張って』

 渦巻く感情を隠すように、平然を装った言葉を選ぶ。この写真は保存しよう。誰に見せる訳でもないし、自分で何度でも見るためではない。ただ、私のスマホにデータとして残しておきたかった。

「へー未来は今日から長期任務、だったケロ?」

「うわっ! びっくりした……」

 肩に重みが加わり、耳がくすぐったくなる。驚きから体は跳ね、足が引けた。振り返ると私の唯一の友達が立っていた。

「やぁぴょん。暇だから遊びに来てやったぴょん」

「七葉って妖術師の癖に暇そうだよね」

「失礼なケロ。三笠木七葉は友達に会う為にさっさと任務を片して時間を作ってるんだケロ」

 相変わらずの黒子スタイルはいつ見ても違和感しかない。彼女なりの事情があるので、あまりどうこうは言えないが、黒子に両手にパペットを手けて歩くなんて……不審者と間違えられて通報されないか心配になる。

「ムスキチはパトロール中ケロ?」

「もう終わった」

「じゃあこれから暇ってことぴょん?」

「まぁそうなる」

「じゃあムスキチの家に行くケロ」

「えっ……私の家……?」

 正直言ってありがたいがやめて欲しい。姉がいない以上、私はあの家で使用人……いやそれ以下として扱われている。七葉がいれば父は態度を変えるかもしれないが、それはそれで七葉に迷惑をかける。友達を家族問題に巻き込ませる訳にはいかない。

「嫌だよ。お家に帰りなさい」

「……それは三笠木七葉の家が福岡にあると知った上での発言ぴょん?」

「うん」

「即答は酷いケロ。それに帰る訳にはいかないんだケロ。三笠木七葉はちょこっと調べ物があるからどのみち今日は帰れないぴょん」

「じゃあホテル探してあげるわよ」

 すかさずお姉ちゃんとのトークアプリを落とし、インターネットを起動させる。

 えーっと、現在地から一番近いホテル……素泊まりで値段は上限なしっと……

「酷いぴょん、酷いぴょん。ムスキチはそんなに三笠木七葉と一つ屋根の下で一晩共にしたくないぴょん?」

「今の言い回しでもっと嫌になった」

「布団の数が足りないなら、一緒の人んで寝てあげるケロ」

「生憎布団は有り余ってるのよ。アンタの分だけじゃなく、ぴょん吉、ケロリンの分も用意出来る程ね。ま、泊めないんだけど」

「ケチムスキチ」

「ケチで結構」

 そうこうしている間にまたスマホが震える。また姉からだ。嬉しくてぴょんぴょんしたくなるが、そういうのは私のキャラじゃないので、平然と、業務連絡を受けたかのように開く。

『結はどう? お父さんに変なこと、させられてない?』

 手が止まる。ぴょんぴょんどころの騒ぎではなくなった。

『別に心配するようなことはないから』

『お姉ちゃんは自分の任務に集中しなさい』

 バレバレな嘘をつく。お姉ちゃんだって聞かなくても分かっているはず、私がどんな目に遭っているかくらい。彼女はどれほど私を心配
してるか手を取るようにわかる。

 だから私は虚勢を張る。平気だと言い続ければ脳がマヒしてそのうち本当に平気だと思えるようになるから。

「嘘つきケロ。ムスキチ、お父さんに何かされてるケロ」

 勝手に人のスマホを覗き込む悪趣味カエルにの頭を叩く。虚勢を張るのは、心配をかけたくないのは、友人だって同じ。

「何もにって言ってるでしょ? ほらホテル探してあげるから……」

「実は未来に言われてきたんだぴょん。任務があるのは本当ケロが、ムスキチが心配だからって……」

「七葉。私は平気だから。私、プライドだけはいっちょ前なの。半端者の私がいることで貴方たちの貴重な時間を奪うのなら……死んだ方がマシね」

「結……」

「あ、ホテルのリンク送っとくから。請求は勿論三笠木家に行きますので」

「……抜かりないヤツめ、ぴょん」

「じゃあまた」

 また、虚勢を張る。でも今度の嘘は全部が嘘じゃない。貴方達の時間を奪いたくない、紛れもなく本音だ。同い年の七葉は私の倍以上働いている。必死に隠したようだが、目にははっきりとクマが描かれていた。

 お姉ちゃんだってそうだ。人口こそ少ないが、海葦村は面積が広い。たった一人の妖術師がカバーのは不可能に近い。

 だから、私のことなんか、気にかけないで欲しい。他人の為に頑張りすぎる二人はもっと、自分のことを大切にして欲しい。

「……三笠木七葉は結に笑って欲しいだけなのに」

 だから。その言葉は聞こえなかったふりをして、走り出す。私の家とは到底言えない、新宮家へと帰る。
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