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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第49話 初めての街とぎるどでの一幕
しおりを挟む次の日、戻ってきたウィルソン達と入れ替わりになる形で私とアライア、サーニャの三人は三等級魔法使いの登録を済ますために町を訪れていた。
「これが人間の町……」
初めて目にする街並みを前に思わず感嘆の声が漏れる。
立ち並ぶ見たことのない様式の建物、いい匂いを漂わせながら人を呼び込み賑わいをみせる屋台、歩く人たちの格好も多種多様で目に映るもの全てが私にとっては新しく、惹かれるものばかりだった。
「ふふ、ルーコちゃんったら、表には出してないけどすごくはしゃいでますね」
「まあ、あの子にとっては初めて目にする人間の町だからね。無理もないよ」
自分では隠しているつもりだったけど、どうやら二人にはお見通しだったようで何やら見守るような視線を向けられているのが分かる。
「ん、んん……えっと、ひとまずはその冒険者ぎるど?って場所に向かうんですよね?」
その視線になんだか恥ずかしくなり、誤魔化すように目的地を確認すると、二人は笑いを溢しながら答えを返してくれた。
「うん、今日はルーコちゃんの登録とついでに初依頼を受けるのが目的だからね。その両方ともを冒険者ギルドで済ませてから少し町を散策する予定だよ」
「本当はみんなで来たかったけど、流石にウィルソンさん達は帰ってきたばかりだったし、バカ兄にも修行するって断られた以上は仕方ないですね」
本当はウィルソン達と入れ替わりの形ではなく、少し時間をおいてから全員でこようという案もあったのだが、少しでも早い方がいいというアライアの一言で今日ここにくることが決まり、今に至る。
「昨日の模擬戦でルーコちゃんに展開を取られたのがよほど悔しかったんだろうね。これからしばらくはあの調子かな」
「……一応、負けたのは私なんですけどね」
内容は確かに私が押していた部分もあったが、結局のところ最後は一撃のもとに沈められておるため、悔しいといわれても釈然としない。
「……バカ兄のことなんて今は放っておこうよルーコちゃん。それよりほらギルドが見えてきたよ」
トーラスの話題になりかけたとたんに顔をしかめ、話を切り替えたサーニャが一際大きな建物を指差した。
「ここが……」
賑わっている街並みの中でも薄れないほど大きく存在感を示すような外観。
それでいて入りにくさを感じないように入り口は大きく、開け放たれれており、食事がとれるようになっているのか、中から良い匂いが漂ってくる。
「大きいでしょ。ここのギルドは他の町と比べても大規模だからね。中には酒場と食事処が併設されてるんだよ」
「……食事はともかく、酒場としてここを使うのはおすすめできないけどね」
建物の大きさに圧倒されていた私にアライアがそう説明し、その後でサーニャが僅かに眉根を寄せてぼそりと付け加えた。
「……何か嫌なことでもあったんですか?」
サーニャの様子からそう当たりを付け、それとなく尋ねると、辟易した表情で答えが返ってくる。
「嫌な事っていうか……基本、ここの酒場をよく使うのは冒険者なんだけど、元々の気性が荒い人が多いせいか、酔っぱらった勢いで誰かが暴れて乱闘が起こるの」
「乱闘って……この建物の中で?」
私自身、まだお酒を飲んだことがないので酔っぱらうという現象は知識として知っていても、その気持ちや状態はわからない。
本には確か気分が高揚して判断力が鈍ると書いてあったが、いくら何でも室内でそんな騒ぎを起こすほど低下するものだとは思わなかった。
「もちろん、ギルドとしても備品を壊されるわけにはいかないから職員が止めには入るけど、近くにいたらそれまでに巻き込まれる可能性が高いのは確かかな」
「そ、そうなんですか……」
ただ近くにいただけで被害を受けるなんて堪ったものじゃない。そんなことになるくらいなら他の場所を利用した方が賢明だ。
「ま、それはあくまで酒場の話だから普通に利用する分にはそんなに身構えなくてもいいよ。わざわざ絡んでくる人なんて滅多にいないしね」
「……ですよね。気にしないようにします」
みんなそれぞれ目的があってここを訪れているのだから、こちらを構うような事はないだろうというアライアの言葉に同意して頷き、私達は建物の入り口に足を踏み入れた。
アライアとサーニャの案内で活気づく建物内を移動し、受付の前まで連れてこられた私は、そのまま三等級魔法使いの登録手続きを申請した。
「……えっと、本当に貴女が三等級魔法使いに登録するのかしら?」
受付の女性に手続きを申し出た瞬間、訝しむような視線向けられる。
ここまでの出会ってきた人達の反応から私の年齢で戦えるかどうかを疑っているというのはわかるが、もう少し表情に出さないようにしてほしかった。
「……はい。何か問題でもあるんですか?」
「いえ、規定上は何も問題ないんですが……」
「問題がないならいいじゃないですか。ルーコちゃんの見た目は小さいですけど、とっても強いんですよ」
思わず強い口調で返すと受付の女性は歯切れの悪い様子で言葉を濁し、それに対してサーニャが抗議の声を上げる。
このままだと下手をしたら登録が認められないかもしれないと内心、心配していると、アライアがすっと私に前へ立った。
「……この子の実力は〝魔女〟である私が保証するよ。それでも駄目かな」
顔見知りなのか、アライアが前に出たとたん、受付の女性はたじろぎ、少し悩むような仕草を見せた後で、小さくため息を吐く。
「……アライアさんがそういうなら納得せざるを得ませんね。一応、三等級は誰でも登録できますから」
まだ少し訝しんでいる様子だが、〝魔女〟であるアライアの言葉と三等級に登録するだけならいいだろうという判断の元、彼女は書類を取り出し、手続きを進め始める。
「ありがとうございますアライアさん。危うく登録すらできないところでした」
「ううん、礼にはおよばないさ。私は事実を言っただけだしね」
アライアはそう言うが、実際にその一声がなければおそらくまだ登録を渋られていただろう。
やっぱり〝魔女〟っていう称号はそれだけ影響力があるって事だよね……。
改めてその称号の重みとアライアの凄さを再認識したところで不意に、誰かがの気配を感じて後ろを振り返った。
「━━おやおや、これはこれは、かの有名な〝創造の魔女〟様じゃあ、ありませんか」
私が振り返ると同時にアライアへと話しかけてきたのは大きな杖を持った見るからに不健康そうな男だった。
「……私に何か用かな。ギーア・レールウッド一級魔法使い?」
ギーアと呼ばれた男はにやりと不気味な笑いを浮かべる。目の下に深く刻まれた隈と瘦せこけた頬も相まってその顔はより一層不気味に見えた。
「いえいえ、別に用というほどの事じゃありませんよ。ただ貴女が〝魔女〟の威厳を不当に使っているのではないかと思ってね」
にやついたその表情のまま饒舌に話を続けるギーアにアライアは若干の嫌悪を滲ませつつも、言葉に応じる。
「不当?生憎と心当たりはないんだけどね」
「そうですよ。アライアさんのどこに不当な要素があるっていうんですか」
毅然とした態度で否定するアライアにサーニャも賛同し、逆に問い返すも、ギーアはその笑みを止めることなく私の方へと視線を向けてきた。
「フッ、そんなのは明白でしょう。そこにいる才能も感じられない貧相な少女を無理に登録させようというのだから」
やはりというべきか、ギーアはさっきのやり取りを聞いていたらしく、私の登録に関しての事を利用してアライアにいちゃもんをつけようという腹積もりのようだ。
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