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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第66話 噛み合わない組み合わせと突然の出発
しおりを挟むウィルソンから料理、ノルンから外の世界の言葉の意味や発音を習い始めてから十日が経つ。
アライアの指導による魔法の練習の合間やウィルソンの手伝いのついでだったりするから少しずつではあるけれど、それでも私はここでの生活にようやく慣れ始めてきた。
「んーっ……さて、今日はどんな練習をするのかなー」
ぐっと伸びをしてさっそくアライアを呼びにいこうとしたちょうどその時、食堂の方からノルンが手招きしてるのに気付いてそちらの方に足を向ける。
ノルンさん、何の用だろう……。
いつもの書庫ならともかく食堂に、それも魔法の練習の前に呼ばれるなんて珍しいと思いながらも向かうと、そこにはウィルソンを除く全員が集まっていた。
「――よし、これで全員が集まったね」
私が入ってきたところでアライアがそう言いながらぐるりと見まわす。
「えっと、これは何の集まりなんですか?それにウィルソンさんもいないし……」
「ウィルソンは買い出しに出掛けてるよ。だからこれで全員……で、集まってもらった要件だけど、それはトーラスとルーコちゃんの事だよ」
「僕と……?」
「私……?」
何の事か分からず首を傾げる私とトーラス。
そもそも私とトーラスについての話だというならわざわざ全員を集める必要はない。
それなのにどうしてだろうと考えていると、すぐにアライアがその理由を口にする。
「そ、ルーコちゃんがここにきてそれなりに経つけど、君達はほとんど話さない。それどころかたまに話したかと思ったらすぐにいがみ合いに発展する……同じパーティとしてそれはいただけない事だと私は思うんだよ」
「は、はぁ……」
「そ、それは……ルーコが変に突っ掛ってくるからで……」
「突っ掛ってるのはバカ兄でしょ……」
「そうね。だいたいはトーラスが変に対抗心を燃やしてるって感じかしら」
確かにトーラスと会って話すと大体、口論に発展してしまう。
……私にも悪い部分はあったかもしれないけど、いっつもトーラスさんが絡んでくるから仕方ないよね。
サーニャとノルンの言う通り、私はいつも普通に話しているのに途中からトーラスが挑発するような口調になってそれに乗ってしまい、口論になる。
もちろん、最初は我慢するんだけど、あまりにしつこく挑発してくるから私もついつい反応して喧嘩腰になってしまう。
「……どっちにしても、いがみ合ってるのは事実。だから私は君達の現状を何とかするためにある提案をしようと思うんだよ」
「提案……?」
「……なぜかしら、物凄く嫌な予感がするわ」
私とトーラス、そしてサーニャが首を傾げる中、アライアの言わんとしている事を察したのか、ノルンが眉根を寄せて難しい表情を浮かべている。
「ルーコちゃん、トーラス……それにノルン。この三人である魔物の討伐に行ってほしいんだ」
にっこりと笑顔を浮かべたアライアが私達の方を向いてそう言い放った。
「――はあ……なんで私が……」
隣で荷物を準備しているノルンが大きなため息を吐きつつ、そう呟く。
あの後、当然ながら私以外の全員から不満の声が上がった。
トーラスからは魔物の討伐なら一人で十分だという声が、サーニャからはどうして私は留守番なのかと、そしてノルンからは何で私なのか、と。
三人からの不満をアライアは手で制し、それぞれの理由を口にした。
今回の目的はあくまでパーティー内の不和を取り除く事。
だから当事者の二人が行くのは当然で、ノルンは間に立って仲裁するためのお目付け役、サーニャが留守番なのは彼女がいたら深まる中も深まらないからだそうだ。
アライアの言葉に最初こそ反論していたが、最終的に全員が折れて私とトーラスとお目付け役のノルンはその魔物討伐に向かう事になったのだった。
「……すいません。私のせいで」
「え……あ、いや、ルーコちゃんが謝る事じゃないわ。私はアライアさんの強引さに怒ってただけだから」
慌てて否定したノルンは額に手を当て、もう一度ため息を吐いてから言葉を続ける。
「……今回の討伐依頼、元々はアライアさんが知り合いから頼まれたものらしいの。だから今回の付き添いもアライアさん本人が行くべきで、それを私に押し付けたみたいに見えたからちょっと頭にきただけ……決まった以上はきちんとするから安心して」
「……できるだけ迷惑が掛からないように努力します」
向こうから絡んでくる以上、絶対は約束できないけど、それでも我慢できる限りは私の方で抑えようと決意し、自分の荷物の準備を進めた。
それぞれの準備が終わり、拠点の裏にある倉庫らしき場所に集まった一同。
準備が終わったのだからてっきり出発するものだと思っていたけど、どうやらこの倉庫に何かあるらしい。
「えっと、ここに何が……?」
「ん?あ、そっか、ルーコちゃんは知らないんだっけ。まあ、見てればわかるよ」
一番近くにいたサーニャに尋ねると、そう言って倉庫の方に目を向けた。
「――これを使うのは久し振りだね」
アライアが倉庫の扉を上に押し上げて開け、中から大きな何かの存在が見えてくる。
何だろう……あれ……。
見覚えのない物体に首を傾げる私に気付いたのか、アライアがそれについて簡単に説明してくれた。
「これは魔動車といって、名前の通り、魔力を動力にして動く乗り物だよ」
「魔力を……ですか?」
確かによく見れば四方に車輪のようなものが付いているのが分かる。
おそらく魔力を込める事であの車輪がそれぞれ動くのだろうけど、どういう仕組みなのかは皆目見当もつかなかった。
「そ、これなら荷物も載せられるし、全員で素早く移動ができるからね」
「でもこれって誰にでも動かせるんですか?」
仕組みはわからないものの、一見してこれが簡単に動かせそうな代物には見えない。
それに魔力を込めると言っても、どこにどれくらい込めるという基準もわからないの状態では動かしようがないだろう。
「操作はそこまで難しくないんだけど、合う人と合わない人がいるから一概には言えないかな……あ、でも、トーラスとノルンは運転できるから今回に関しては心配しなくて大丈夫」
「……私も運転できるのに」
不貞腐れたようにぼそりと呟くサーニャ。
一度は折れたとはいえ、やはりまだ納得はいってないらしく、不満を漏らしている。
「……次はサーニャも同行させるから今回は我慢して、ね?」
「……分かってますよ」
アライアからの念押しで流石のサーニャも観念したようでそれ以上は何も言わず、黙々と魔動車へ荷物を運んでいた。
荷物を載せ終え、後ろの席に私とノルン、前の席にトーラスといった形で乗り込み、窓から顔を覗かせてアライア達の方を向く。
「それじゃあ、頼んだよ。向こうに話は通してあるから。大丈夫、相手はそこそこの魔物だし、三人なら問題ないよ」
「……いってらっしゃい。あのバカに何かされたら帰ってきてから教えて?絶対にやり返すから」
窓越しにアライアとサーニャの言葉を受け取った私達は二人に見送られながら目的地である村を目指して出発したのだった。
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