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第二話-2
しおりを挟むエルヴェは殿下と同い年の側近で、護衛も兼ねているらしくそれなりに立派な体型をしていた。
ただしその表情は柔らかく、文官といっても差し支え無さそうな容姿をしている。細身の銀縁眼鏡をしているせいもあるのだろうか。
薄いガラス越しに見える紫の瞳と、柔らかそうな金髪が警戒心を勝手に削ぐ役割を果たしていた。
「殿下、カフェに個室をとってございます。そちらでお話をされたら如何でしょう」
「そうだな、落ち着いて茶でも」
「いえ、殿下。申し訳ありませんが手続きをしなくては。学生ですから」
これが本来の王族と貴族令息という立場であったら、この断りはあり得ない。しかし先ほどオーギュスト殿下は学生であるということを強調した。それならば、俺は学生の本分を盾に取ってもいいはずだ。
そもそも手続きをしなくては、俺は部外者になりかねん。早く入寮手続きがしたい。
オーギュスト殿下は俺の腕を掴んだまま、小さく呻いた。
「待ってくれ、話したいことがあるのだ」
「簡単なことでしたらここでお話頂いても……」
「お前、私のものにならないか!!」
焦ったような殿下の声がしんとしたあたりに響き渡った。横で側近のエルヴェが『ああー』というバツの悪そうな顔で額を覆っていた。
これ、明らかに殿下の暴走だろう。王族ならもう少し慎重に話をもっていなきゃいけないだろうに。
「お断りします」
「……は」
「申し訳ありませんが、私はジラール家の長子ですから、殿下の物にはなれません」
「あ、いや、それは」
なんか権力とか勢力とか、もしくは性的な意味とか側近にだとか、素で戦力という意味だとか。
殿下の言葉の意味は色々と考えることができたが、そのどれもが俺の一存では決められないことだった。本当に俺が欲しいなら、父であるジラール卿を通してもらわないとダメなのだ。おれはまだ成人前の子どもだからな。
殿下だってそれはわかっているはずで、いまは口を滑らせたことを後悔してそうな表情をしている。
「お話がそれだけでしたら失礼致します」
「……」
「殿下、いい加減ウォルフハルドを離してあげたらどうですか」
エルヴェが先ほどとは打って変わって呆れたような様子で言った。こいつもだいぶ猫をかぶって過ごしているタイプのようだ。
そう、殿下はいまだに俺の両腕を掴んで立ち上がらせた姿勢のまま、がっちりと拘束していた。俺の筋力ステータスなら無理やり抜け出すことも不可能ではないが、それでは不敬も極まるなあと思って解放を待っている。
「ウォルフハルド・ジラール」
「はい」
「……茶には、また今度誘ってもいいか」
「はあ。今でなければ構いません」
「そうか。引き止めて悪かった」
ようやく腕を締め付けていた殿下の手が外れた。ホッとして息を吐くと、すぐそばまで近寄ってきていたエルヴェに服の袖をするするとめくられる。
真っ赤になった殿下の掴み跡があらわになって、またエルヴェは『あーあー』という苦い表情を浮かべていた。『これをどうぞ』とポーションを一つくれたので、ありがたく受け取っておくことした。
袖を戻す時、エルヴェはするりと俺の腕の内側を撫でた。びく、と震えた俺にふんわり微笑みかけて、エルヴェは殿下と共に優雅に歩いていってしまった。残された俺は明らかに注目を浴びていて、急いで退散することにした。
これから1番厄介なフレデリックとの対面控えてるって言うのに、なんでこう次々と問題がやってくるんだ!いまだにどんな顔してフレデリックと会ったらいいかわからない。気まずい。
いっそフレデリックの到着が遅れていて、片付け終わった後に来てすれ違いだけで済んだりしないかな。少しでも時間がズレていたら、早めに切り上げたり後まわしにしたりして調節できるかもしれない。
そんなふうに思って部屋に向かったら、間が悪いことにフレデリックも丁度着いたところだった。
まさか到着が同時刻とは思わず、部屋の前でばったり出会って『ウォルフ!』と走り寄られてしまった。
柔らかな金髪を陽の光にすかしてにっこりと微笑みかけてくるフレデリックを前に、俺はびしりと一瞬固まった。ひく、と顔が引き攣ってしまったのは仕方のないことだろう。
不思議そうに『どうかしたのか』と聞かれたけれど、答えられるはずもない。そうして一緒に部屋に入ってしまった手前、不自然に出て行くこともできず俺は黙々と片付けをした。
その間にフレデリックが何度か話しかけてきていたが、俺は昨日アデラに言われたことで頭の中がいっぱいで、生返事しかしていなかった。
昨夜、なんでフレデリックなんだとアデラに問いかけたら、茫然とする俺に膨大な量の情報が提供された。眠れなくなったのはそれのせいだ。
──フレデリックはどうやら俺に惚れているらしい。
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