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一章 魔術師の森
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しおりを挟む意地悪な師匠はすぐ「結界の外に捨ててくるぞ」とか、「孤児院に戻るか」とか言ってくるんだけど、実際はどれだけ失敗を積み重ねても師匠は俺を捨てなかった。
ずっとこうして師匠と一緒にいられたらいいのにって、毎日思いながら過ごしている。
きっと魔術師である師匠のほうが長生きだから、俺は老いて動けなくなるまでここに置いてもらえたらいいなって。
それだけが俺の一生の願いなんだ。
「これでよしっと! 日暮れ前に終わってよかったぁ! あっ、そうだ晩ご飯どうしよう。川の罠も見て帰ろっかな」
やっとのことで穴を埋め終わった俺はスコップを片付け、川に向かって走り出した。
師匠の結界で囲まれた森は広大で、整備された道こそないもののいつも通る獣道がいくつも通っている。迷子になりがちな俺が毎回通るごとに雑草を払い、歩きやすくした道だ。いつもここだけを行き来して、小屋に帰るようにしていた。
小屋の西には近くの村に通じる『門』があって、そこが師匠の結界から安全に出られる唯一の道だ。今向かっている東には大きな川が流れていて、上流には綺麗な水をたたえた池がある。そこでは魚釣りができるんだけど、ちょっと遠いから時間があるときしか選択肢には入らなかった。
北には雪を被った高い山脈が連なり、その向こう側に通じる山道がある。そして南は丘が続き、そこを越えると結界の外になるんだ。南にも大きな森が広がっていると師匠から聞いたけど、俺はまだそっち側に行ったことがなかった。
「あっ、魚かかってる! やった!」
引き上げた罠には川魚が三匹もかかっていて、俺は大喜びで川からカゴを引き上げた。
ピチピチと元気に飛び跳ねる魚はそれほど大きくはないけど、塩焼きにしたら美味しそう。夕飯には十分だろう。
ナイフを取り出しその場で手早く下処理を済ませた。エラを取って内臓も洗ってカゴに戻したら、それをぶら下げて今度は小屋に向けて走り出す。
森の中に、俺の呼吸の音と足音だけが響いていた。暮れかけだった日はもう山の方へ半分隠れて、空も暗くなってきている。
灯りもなしに真っ暗な森の中を走るのは結構怖いし危ないから、必死に足を早めた。灯りの代わりになる光か火の精霊が呼べたらいいんだけど、また大火事を起こしたら今度こそ炭拾いだけじゃすまない。
師匠に怒られるのを想像したら血の気が引いて、もっと必死になって走った。
「はぁっ……はあっ……」
息が切れるほど全速力で走ってるけど、迫ってくる夜の闇のほうが早そうだ。
たぶん小屋に着くまでに真っ暗になっちゃうだろうけど、家には師匠がいるはずだからその灯りを頼りに走ればなんとか――。
そう考えていた俺の進行方向から、ぽつりと橙色の灯りが近づいてきた。カンテラの灯りだ、と気づいたときにはそれに照らされる師匠の姿が見えた。
シャラ、と金属の護符とビーズの擦れる音が聞こえて、ホッと安堵の息が漏れる。
「オイ、いつまでかかってんだ」
「師匠! 迎えに来てくれたの」
ブワッと嬉しさがわき上がって、カンテラを持っている師匠の腕に飛びついた。
ふわっと師匠の匂いがする。ハーブみたいでちょっと燻した香木のような、柔らかい香りだ。それが師匠の体臭なのかわからないけど、俺はこの香りが大好きだった。
すぐさま鬱陶しそうに振り払われてしまったけど、めげずにもう一度引っついた。
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