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一章 魔術師の森
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「ちげぇよ。メシの用意が途中で放ってあったから……オイ、離れろ」
「でも嬉しい!」
今度は広い背中側に張り付いたら、それ以上は抵抗されなかった。面倒くさくなったのかな。そうして引っ付いたまま、小屋に向かって歩き出した。
俺の帰りが遅くなると、こうやって師匠が灯りを持って迎えに来てくれる。いつもではないけど、今日は機嫌がいいのかな、だったら嬉しいな。
カンテラが魔法の灯りじゃないのは、さっき結界内の修復で魔力を使い過ぎたせいだろう。今の師匠の顔色は、朝の寝起きのときより青ざめて見えるから、きっとそう。
最近、夕方から夜にかけていつも顔色が悪い。なにか魔力を消費するような魔道具でも作ってるのかな? ぶら下げてる護符とかは、増えてるように見えないけど。
でも、師匠が疲れてるなら今夜は! たくさん食べて元気つけてもらわないといけないよね。魚もあるし美味しいものを作ろう。
「師匠、魚とれたんで焼いて出します」
「おお。あんな不格好な罠によくかかったな」
「酷い! わりと上手くできたのに。三匹も捕れたんですよ? ほら!」
ハイハイ、オメデトウ、とおざなりに褒めてくる師匠と一緒に、すっかり日の暮れた森の中を歩いた。
夜空に光る月も星の輝きも、師匠のカンテラの灯りのほうが強くてあまりよく見えない。でも俺には、師匠の灯りだけあれば十分だった。
「塩焼きとスパイスで蒸すのと、どっちがいいですか?」
「んー……どっちでもいい」
「ええー。俺の好きな料理にしちゃいますよ?」
「お前の作るモンはだいたい美味い」
「また、そういう……」
不意打ちでちょっと照れてしまった。師匠はだいたいいつも怒ってるか意地悪そうに笑ってるのに、たまにこうやって褒めてくるからその度に照れてしまう。
今は背中側に張り付いてるせいで、こっちの顔が見えてなくてよかった。のぼせたみたいに耳まで熱いから、顔は全部真っ赤になってそう。
……俺は、物心ついたときから師匠のことが好きだった。有り体に言えば初恋だ。
尊敬と憧憬、そして家族みたいな愛が『恋』に変わったのはいつからだっただろう。もしかしたら、始めからかもしれないけど。昔も今も俺の世界は師匠でいっぱいだった。
胃袋掴んでるだけでも満足で、嬉しくなっちゃうくらいだから重傷だよ。
そりゃあ毎日のお世話にも身が入るってものだよね。師匠にとっては出来損ないの弟子だから、今は側にいられるだけでいいんだ。
こんな想いなんか、墓場まで持って行ったって全然構わない。その間、師匠と一緒にいられるならそれが俺の幸せだ。
「じゃあ蒸したのにします。あと、用意してあるのはくるみのパンとカブのスープ」
師匠は「ん」て短く返事をするだけだけど、俺は気合いを入れてメニュー組み立てていた。今日も頑張って師匠のためにご飯を作ろう。
そう思いながら、俺は温かい背中にくっついたまま家に入った。カンテラを置いた師匠は、そのまま居間のソファにゴロンと転がって動かなくなってしまう。
ノーム騒ぎで昼寝の邪魔しちゃったからかな。食事ができるまで放っておこう。
『おかえり、ルイス』
「ただいま~。エレン、いい子にしてた?」
魚を台所に置いて自室に引っ込み、上着を脱いでいたら、黒猫の姿をした精霊の『エレン』がベッドの中から出てきた。そしてつんと顔を上げて言う。
『あら、私はいつでもいい子よ。オフトンもふかふかにしておいたわ』
「ホントだ、布団があったかい……」
ぼふ、と柔らかい布団に顔を乗せたらそのまま寝てしまいそうなほどホカホカだった。エレンはこういう、生活にちょっと嬉しい『奇跡』を起こしてくれる子だ。
エレンは何の精霊か本人が言わないので不明なんだけど、俺が孤児院にいたときから側を離れない変わった猫だった。
やれることも普通の精霊と違っていて、たまに俺の『影』に隠れて修行についてきたりする。それで、途中で驚かせるみたいに「ワッ」て出てくるから心臓が止まりそうなほどびっくりするんだ。悪戯好きのところは他の精霊と変わらないんだよね。
そのエレンの遊びが見つかると、師匠は何故か怒りの形相で「そいつは家に置いておけ」と怒鳴るから、俺はそれに従うようにしていた。
『ルイス、寝ちゃ駄目よ。超絶俺様クズ男がお腹空かせているわよ』
何度も一緒に怒鳴られているからか、エレンは師匠を敵認定している感じがある。
「ハッ、いけない寝ちゃうところだった! ありがとうエレン!」
『クズ男にツッコミはないの……?』
肩に飛び乗ってきたエレンをそのままに、俺は台所に立って腕まくりをし、料理に取りかかった。
精霊のエレンはご飯を食べないので、三匹の魚は俺と師匠の分だ。暫くするとスパイス蒸しのいい匂いが家中に漂った。
朝焼いたパンはかまどの火に近づけておいて少し温め、スープの準備もよし!
「師匠~。ごはんできたよ~」
「……おう」
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