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三章 最強の魔術師
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「師匠、師匠……! 助けにきたよ」
コソコソと小さく声をかけ続けていたら、しばらくしてやっと閉ざされていた瞼が上がった。
ゆっくりと開いた左目の青が、力を失っていなくてホッとする。
ここは王城の地下にある牢屋だ。まだ昼間のはずなのに、頭上に小さな明かり取りがあるだけだからか薄暗い。こっそり忍び込んで壁にかかっていた鍵を取り、牢を開けたところまでは順調だったんだけど、中で師匠が気を失ってたから焦ってしまった。
不衛生で黒ずんだ石の床に、吊り下げられた枷、壁に寄りかかるように倒れていた師匠だけど見た感じやつれた様子はない。それどころか俺の目の前で殴られていたときの傷さえ綺麗になくなっていて、三日前に別れる前とまったく変わりないように見えた。
相変わらず首には魔力封じの枷がついているし腕も拘束されているけど、あくまで自分の意志でここに閉じ込められているかのようだ。
「お前……ルイス?」
俺の姿を見た師匠は驚いたように言葉を詰まらせた。青い目がパチパチと何度も瞬く。
師匠がそんな反応になるのも無理はない。今の俺は、かけてもらった魔法が解けて髪も瞳の色もオパール色に戻ってしまっている。それに、肩には同じ色のエレンを乗っけているし。
「――契約したのか」
師匠が驚いた顔をしたのは一瞬で、すぐ俺の状態に気づいた。そう低い声で問いかけられて、ビクッと身体が震える。
だってこれを隠してくれてたのは師匠で、俺はそれを自ら台無しにしたんだ。どうしよう、すごく怒ってるよねきっと。
『威嚇するんじゃないわよ、ボケカス魔術師。アンタがいなくなるからでしょう。大変だったんだからね色々と!』
また雷が落ちるかなとビクビクしていたら、先制したのはエレンだった。すっかり猫サイズに戻っているので、シャーッ! と威嚇の声を上げても可愛い。
俺はその逆立った毛皮を撫でて宥め、エレンの『奇跡』で師匠の両腕の枷を外してもらった。
師匠が壁によりかかって座ったままなので、俺も側にしゃがむ。なんとなく嫌な感じがして、真っ黒なこの床に腰を下ろす気にはなれなかった。
エレンと師匠はしばらく殺気立った目で見つめ合っていたけど、先に目をそらしたのは師匠だった。そしてため息をついて頭を横に振り、俯いていた顔を上げる。
そのときにはもう、いつもの師匠に戻っていた。皮肉げにつり上がった唇が笑みの形を作る。
「……別に、お前らの自由だ」
ふん、と呆れたような表情をして師匠は俺の鼻を指先で摘まんだ。ギュッと力を込められて結構痛い。いたた、と顔を顰めていたらすぐにその指は外れた。こちらを見上げる青い瞳には怒りの感情は見えないから、仕方ないと思ってくれたのかな。
でも俺は痛む鼻を押さえて、素直に師匠に謝ることにした。師匠のやってくれたことをすべてふいにしたのは俺だ。
「師匠、ごめん。ずっと隠してくれてたのに。……契約するのが必要だったから」
「……わかってる」
しどろもどろに言い訳をしながら、俺は師匠の首の枷に手を翳した。
触ってみた感じ、これは師匠の外側に放出する魔力を封じているようだ。封じられる前にかけた、俺の髪の色替えのように『持続系』でかけた魔法は生きているけど、新しくかけることはできない。
でも相変わらず師匠の顔色は悪いままだから、内側から結界に魔力を吸われ続けている。
なんて忌々しい枷だろう。こんなもので師匠を封じ込めた奴らに怒りがわき上がる。
俺が師匠の首の枷を掴み強く睨み付けると、それは砂のように散り散りになって消えた。今の俺は願うだけでこんなことができてしまうんだ。
――それが、エレンと契約したエーテルの精霊術士の力だった。
エーテルというのは、この世界で五大元素と呼ばれる自然物のすべてを構成する源だ。言ってしまえば、世界の全てはエーテルで形成されている。エレンと契約することで俺はようやくこの世界の理を知った。
この知識は文献には残っていなくて、精霊術士の神殿にも伝えられていない。
エーテルの精霊と契約した者だけが一世に一人、この知識を継承できるのだという。
エレンと契約した今の俺には、不可能なことがほぼなかった。この城への侵入も、姿を他人に知覚できないようにして壁をすり抜けて入ってきたんだ。
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