落ちこぼれ精霊術士はドSなお師匠様に執着されてたみたいです

天城

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三章 最強の魔術師

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 ガシッと師匠の首の後ろを掴んで、引っ張った。
 シャラッと音を立てた護符やビーズは、触ってみた感じちゃんと『防具』として機能しているみたいだ。
 これがさっき感知した師匠の魔力の気配、小さな光の正体だった。

 そして『本体』は、いま空っぽだ。弱々しい光が薄く明滅を繰り返している。

 じゃあやっぱり、俺の推測は正しかった。

「師匠、ずっと自分の身体に持続系の魔法で『時の巻き戻り』をかけてるよね?」

「……」

「不老不死は嘘だよね。師匠はずっと時間を遡ってるだけだよね。この護符や防御は――即死しないためだけのものだよね? 死ななければどんな怪我も治るから」

「ああ。俺は治癒魔法は使えない。時を少し戻せるだけだ。……それも、死んだものは戻せない」

 悔いるように呟く師匠が考えているのは、死んだ親友のことだろう。
 でもそんなのは今問題じゃないんだよ。殴られても傷ついても、時間が巻き戻ったらすべてなかったことになるの? そんなわけないよ。痛いし苦しい記憶は残ってるでしょう。

「っ――なんで……そんなッ」

 気がついたらボロボロと涙が零れていた。
 不衛生な石の床は、染みついた黒い汚れでいっぱいだった。錆臭いこの牢屋が本来何をする場所なのか、無知な俺だって少しはわかる。

 この場所で、過去にどれだけ鉄錆の匂いのする黒い染みが広がるようなことが、行われてきたんだろう。三日もここにいた師匠に、なにがあったの。
 俺なんかの想像力じゃ、師匠の痛みや苦しみは想像もつかない。でも、すごく痛かったはずの師匠が、血の一滴も残ってないからって全然なんでもないような顔するのは耐えられないよ。
 俺は悔しくて悲しくて、この国への憎悪で頭の中がいっぱいになってしまうんだ。

 国や人々への同情なんか吹き飛ばすほどに、俺は怒ってるんだよ。

「途中で魔力が尽きたら、どうするつもりだったの……」

「護符や魔石のビーズの中に魔力も充填してある。さすがに今は、半分以上空になったな。……ああ、腹減った。ルイスのメシが食いてぇ」

 ズルッと急に力の抜けた師匠の身体を慌てて腕の中に抱き留めた。

 さすがに重かったけど、腕の中に師匠がいることが何よりホッとした。そのまま引っ張って牢の外へと連れて行く。
 看守がいた場所は比較的床も綺麗だったから、そこに俺の上着を置いて師匠を寝かせた。膝に師匠の頭を抱き込んで、どうしようと視線を彷徨わせる。

 お城で手に入る食べ物なんかある? 
 うーん、料理じゃなくてエーテルでなんか作れるかな? 
 やったことないけど可能ではあるような……。

「食べ物、何にも持ってないから、少し休憩したら外に――」

「いま、くれ」

「え、だから何も持ってなくて」

「……ルイス」

 乞うようにそう囁いた師匠の頭が、急に近づく。俺が師匠の頭を膝に抱えていたはずなのに、いつの間にか大きな手に頭を引き寄せられていた。

 そのまま唇が重なって柔らかな感触が食むように動く。

「――ッ!」

 驚きすぎて悲鳴も出なかった。そのキスに慌てたりするヒマもない。

 俺の身体から急激に魔力が吸い取られていった。精霊術を使ったときとは比べものにならないほど大量に、いる。

「んっ……んん、……」

 唇を合わせたまま、師匠が口を開いた。濡れた舌が俺の唇をこじ開けて逃げる舌を追う。いつの間にか絡め取られ、舌を吸われてビクッと身体が震えた。

「は、っ……んっ……」

 少しだけ隙間の空いた唇から、熱の籠もった息が漏れる。でもすぐに、それさえ食い尽くすようにまた塞がれた。貪るような口付けに身体の中が熱くなる。
 でも同時にくらりと目眩が襲ってきて、俺はそのまま意識を手放した。




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