落ちこぼれ精霊術士はドSなお師匠様に執着されてたみたいです

天城

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三章 最強の魔術師

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 ゴウッと強い風が吹き付けて、俺は目を覚ました。瞼を上げたらびっくりするほど間近に師匠の顔があってヒッと息を呑む。

「おう、やっと起きたか。寝ぼすけ」

「師匠? あの……っわ! なに、なになにここ!」

 下を見たら目が回りそうな高所だった。お城の庭が見えて、灰色の壁が下に続いている。そんな状態でも俺は力強い腕に抱き締められているから、安定感はあるし怖くはないんだけど……。

 あの、どうしてお城の壁を登っているのでしょうか!?

『飛行魔法は魔力の消費が多いから私がやめさせたのよ』

 俺のマントの胸元からエレンがぴょこんと顔を出した。

『だってルイスの魔力を食べたのよ? しかも気を失うほどたくさん! 許せないわこの魔術師。無駄使いなんかさせるものですか! ……そしたら外壁を登ることになっちゃったのよね』

 師匠の手元と足元を見ると、登る速度に合わせて石の足場が壁から飛び出して道を作っている。土の精霊を操ってるのはエレンかな。
 師匠はその足場を使い、俺を抱えながらひょいひょいと壁を登っていた。

 いや、さすがに意味がわからないんですが、力業というか筋肉すごすぎない?

「いや、そもそもなんで登ってるの!?」

「俺の目玉を取り返しに行くんだろ?」

「いや、結界の方を壊そうかと!」

「……んー、真正面からエーテルの精霊術士の力とぶつかりたくねえなって」

 微妙に言葉を濁す師匠の顔に、横からエレンの前足がドスッと突き刺さった。ピンクの肉球が頬にめり込んでいる。

『馬鹿ね。正直に圧し負けるのが癪だって言いなさいよ。……ルイス。今ね、この空っぽな魔術師より貴方のほうが明らかに強いの。それで結界を壊されると、その負荷は術士にそのまま飛んでくる可能性があるのよ。ルイスもゲニウスを殺したくないでしょ?』

「こっ、殺っ……ないない! そんなのしたくないよ!」

 そうか、師匠は未だに結界に魔力を吸われていて、弱ってる。そこに俺が結界に対して攻撃をしかけたみたいになると、いけないんだね。
 願えばなんでもできるからって、やっちゃいけないこともある。手順を考えて慎重に力を使わないと思った結果にならないんだ。これからは結果のこともよく考えて行動しないと。
 つまり師匠を解放するためには、解く順番があるってことだよね。

「まず、師匠の身体と結界を切り離すのはどうかな?」

 ピタ、と壁を登っていた師匠が動きを止めた。エレンも耳をピクピクさせて頭を横に傾ける。

「師匠の右目は契約の要として奪われていて、そこを通じて内側から魔力を吸われてるんだよね。……だから、師匠の目を先に作ってその穴を塞いでしまったらどう?」

『塞ぐってどうするの?』

 エレンが長い尻尾を振りながら俺の胸の上によじよじ登ってきた。両手で柔らかな毛皮に触れ、抱き上げて身体を起こした俺は師匠の顔をのぞき込んだ。

「……ッ」

 ビクッと顔を引きかけた師匠の頬を捕まえて、右目を覆う眼帯に顔を近づける。

「ルイス、待っ――ッ」

 制止の言葉が聞こえていたのに、俺はそれより早く眼帯に唇を押し当ててしまった。
 失われた部分の再構成と、大好きな青い瞳を想像しながらそこに魔力を注ぎ続ける。エレンの『奇跡』を俺を思うとおりに作用させるのが術士の仕事だ。集中して、成功の形をイメージする。師匠の中に巣食う要らない線を断ち切り、そこに新しく生まれる眼を繋いでいった。
 一本一本、丁寧に外しては繋ぎ……真っ黒で汚泥にまみれた黒い管を最後に引き抜いたら、綺麗な黄金色の流れが視界に広がった。

「――できた」

 やった! と思って閉じていた目を開くと、急に視界が揺れた。

 師匠は俺を抱き締めたまま、すぐ側の窓を割って建物の中に飛び込む。そこは天井がドーム型になった広い空間で、警備兵らしき男たちが慌ててこちらに向けて剣を構えた。

「はぁっ……はぁ……ッ」

 師匠は床に蹲ったまま全力疾走の後みたいに激しく息を切らせている。
 これ、俺の作った目がいけなかったのかな!? 慌てて身体を起こした俺は、背に師匠を庇ってエレンに指示を出した。

「エレン、ごめん。攻撃を防いで!」

『わかったわ。――障壁でいいかしら』

 俺の腕の中から床に降り立ったエレンは、剣を持った兵士たちを相手に石壁を出現させ翻弄していた。その間に俺は蹲る師匠を助け起こして、その背中を撫でる。

「師匠、大丈夫? ごめんね、ごめん。動ける?」




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