落ちこぼれ精霊術士はドSなお師匠様に執着されてたみたいです

天城

文字の大きさ
25 / 41
三章 最強の魔術師

6



 激しく咳き込んでゼーゼーと肩で息をしている師匠は、なんだか相当大変そうだ。
 
 どうしたらいいのかわからない。今更右目を元の状態に戻すこともできないし、とおろおろしながら側に膝を突いていたら、服を強く引っ張られた。

「ここにいろ」

 そう低い声で言われてヒッと息呑んだ俺はきちんと正座した。これはもしかしてお怒り待ちだろうか、緊張してしまう。
 しばらく呼吸を整えていた師匠は、片手で右目の眼帯を押し上げ大きく息を吐いた。

「――魔力の、供給過多だ」

「へ?」

「結界に吸われてた魔力が、全部逆流して戻ってきやがったんだよ。……ったく、相変わらず何しでかすかわかんねーなお前は!」

「ヒッ、ご、ごめんなさ……」

 師匠の新しく生まれた青い右目は、瞳の色だけは左と寸部違わず一緒だった。でも、白目の部分が乳白色というか……俺の髪と同じ色をしている。
 キラキラと虹色の光を反射するオパール色だ。

「戻ってるか、目」

「あ、あ、うん」

「なんだ? 色が違うか」

「いや、いいんじゃないかな! うん、すごくちゃんと青い目だよ師匠!」

「……なんだそりゃ」

 のそりと起き上がった師匠は、側にあった窓に顔を映してジロジロと右目の様子を眺めた。
 俺はその後ろで粛々と叱られ待ちをする。なんだこの色はって言われるかな、こわいな。

「――ま、悪くねえ」

「えっ、ほんと?」

 予想外の反応にびっくりしていたら、グイッと腰を引かれいつの間にか師匠の右腕に抱き上げられていた。師匠の左手の指輪が光り、その指輪と似た雰囲気のある銀色の長剣が一振り、光の中に現れる。それを見上げた師匠は懐かしそうに目を細めた。

「ああ、久しぶりだな……」

 すぐさま長剣を掴んで鞘から抜き払い、師匠はそれを構えた。あれがもしかして、ドワーフに作って貰った師匠専用の剣なのかな? 昔、夜に話してた英雄譚で聞いたことがある。
 左手にそれを握って感触を確かめた師匠は、エレンに向かって叫んだ。

「オイ、ここから最上階に向かうぞ!」

『なによ、元気じゃないの! これだから魔術師は!』

「魔力さえあれば、元気に決まってんだろ」

 滑らかな動きで跳躍したエレンを抱き留め、俺は師匠の首にしっかり抱きついた。
 銀色に輝く剣が大きく振られヒュッと風を切る音がする。次の瞬間、鈍い音がして触れてもいない天井に大きな亀裂が走った。
 ガラッ……と天井の一部が崩れ落ち、ぽっかりと空いた穴から上の階層が見える。

「お前ら、振り落とされるなよ」

 またも師匠は軽々と跳躍して、飛行魔法でその空いた穴から上の階層へと移動し始めた。行く手を塞がれれば剣を振り、穴を開けてそこを通り過ぎる……とんでもない移動の仕方だ。飛行魔法の移動速度が尋常ではなくて、風が耳元でビュウビュウとすごい音を立てていた。

「ね、ねえ! もう結界からも解放されたのに、上になんの用があるの!」

 力業で城を破壊し登っていく強行軍だ。俺は揺れで舌を噛まないようにしながら、師匠に引っ付いたまま問いかける。

「用はあるさ。散々コケにしてくれたからな」

 俺の背を抱く師匠の腕に細かな振動が伝わってきて、くく、と押し殺したような笑い声が聞こえた。顔を上げると、師匠は上の階層を見上げながら悪魔みたいな凶悪な顔で笑っていた。
 ヒッ……こわい。それじゃあ悪の親玉みたいだよ、師匠。しかも飛行魔法の速度がまた上がってるんですけど!?

「し、師匠……それより速度ゆるめて……ッ」

「もうすぐ着くから我慢しろ」


 牢屋で見たときとは打って変わって師匠の顔色が良い。
 ……むしろこんなに生き生きとした師匠を初めて見たかもしれない。血色はいいし、魔力の輝きを見ても今度は護符の小さな光なんか吹き飛ばすほどの強い光が師匠の身体から迸っていた。

「拳の一発くらい返していっても構わねえだろ?」

「……師匠の拳?」

 チラ、と筋骨隆々とした師匠の腕を見て俺は首をすくめる。顔面の骨が折れてオバケみたいな顔になりそうだ。

『着いたわよ。結界の要はあそこね。……もう供給がないからわずかな残留魔力しか感じないけど』

 エレンが師匠の肩の上で尻尾を揺らしながら、そう言った。耳がへたりと平らになって気味悪そうに目を細めている。
 城の最上階までたどり着くと、広い空間に祭壇のようなものがぽつんと設置されていた。その真ん中に小さな黒い箱が置かれている。

 あの四角い箱から師匠の魔力が感じられるから、中に右目があるのかな?







感想 5

あなたにおすすめの小説

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

最悪の婚姻から始まるただ一つの愛

統子
BL
最悪の婚姻だった。 皇太子の正室として迎えられながら、 与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。 触れられることすら恐ろしく、 ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。 けれど—— 差し出された手は、思っていたものとは違っていた。 無理に触れない。 急がない。 ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。 気づけば、隣に座ることが当たり前になり、 言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。 触れられるたびに怖さは消え、 代わりに残るのは、離れがたい温もり。 これは、最悪の婚姻から始まった関係が、 やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。 望まれなかったはずのはじまりが、 いつしか、何よりも大切なものになるまでの—— 静かで、優しい、溺れるような愛の記録。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。