落ちこぼれ精霊術士はドSなお師匠様に執着されてたみたいです

天城

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三章 最強の魔術師

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 俺は師匠の腕から降りて恐る恐る祭壇の方へ一緒に進んだ。ふと視界の端で、警備に立っていたらしい数人の兵士が悲鳴を上げて逃げていくのが見えた。

 床に穴が空いて下の階層から敵が現れるなんて、普通思わないよね。非常識過ぎてさすがに敵わないと思ったのかな。
 無人になった祭壇の部屋で、俺たちは落ち着いて箱を観察することができた。それは俺の顔くらいの大きさで、師匠の片手に簡単に収まってしまう箱だった。
 真っ黒で継ぎ目がよく見えず、師匠は無造作にそれに手を伸ばした。すると、触れる直前でいきなりバチッと白い火花が散った。

「……」

 師匠の片眉がわずかに上がった。
 サラマンダーの気配がするから、誰か精霊術士が守りの術をかけているんだろう。
 精霊なら俺がなんとかしよう、と思ったら師匠は首を横に振ってそれを止めた。

「あのクソ術士どもに……格の違いを教えてやる」

 また魔王みたいな顔で笑う師匠を間近で見てしまい悲鳴が漏れかけた。俺はコソコソと師匠の後ろに隠れて箱の様子を見守ることにする。
 堂々と再び箱に手を伸ばした師匠は、バチバチと火花を散らす精霊の攻撃を物ともせず、その手で箱をこじ開けた。
 師匠の指にはまった魔道具の指輪が金色の光をまき散らし、完全に精霊を制圧していた。守りに設置されていた精霊は握りつぶされて、霧散する。あの様子だと術士に跳ね返っていったのかな。

 開いた黒い箱の中には……丸くて青い石が入っていた。

 透明度がなくのっぺりとした色のその石には、よく見ると細い杭のようなものが無数に穿たれ、深い亀裂が入っている。それでも割れていないのが不思議なくらいだった。欠片を剥がして持って行ったような跡もいくつか残っていて、無残な有様だ。

「……は。好き勝手しやがる」

 師匠は嘲るように笑っていたけど、俺はちっとも笑えなかった。
 ヒュ、と恐怖で喉が震える。魔力の源と繋がる臓器をこんなに痛めつけられて、おそらく剥がされた部分は別のことにも利用されて、どれだけ苦痛だっただろう。
 そう思った次の瞬間、襲ってきたのは恐怖を凌駕する激しい怒りだった。初めて感じる強い憤りに喉奥が焼けるような感じがする。
 でもそれが爆発する前に、師匠の手が俺の背を軽く叩いた。
 落ち着け、とでも言うように。

「どうせ、これで終いだ」

 その石を拾い上げた右手の指輪が淡く光る。すると、青い石は簡単にパキンッと割れて砂になってしまった。
 その瞬間、王都を覆っていた結界の気配が消え失せる。
 あまりにも呆気ない終わり方だった。きっとこれに気づいたのは魔力の気配に聡い精霊術士くらいだろう。

「ゲニウス! 貴様、死体を還してやった恩も忘れて……!」

 遅れてこの部屋に現れたのは、身なりのいい壮年のおじさんと白い服の精霊術士だった。
 術士のほうは顔を見たことがある。王都にくるまでに何度も師匠に因縁を付けて殴ってきたあの男だ。でも、その顔は異様な状態になっていた。目や鼻から血を流し、白い服の胸元が真っ赤に染まっている。ただその目だけは爛々と輝き、憎悪に歪んでいた。
 あの血はもしかして、箱にかかっていた精霊術を返されたからかな?

「ルイス。お前は聞かなくていい」

「――えっ?」

 師匠が急に俺の前に出て、片手を振った。森で師匠が連れ去られる前みたいな仕草だ。
 キィン、と耳鳴りのような高い音が一瞬だけして、俺の世界は無音になった。






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