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四章 とある港街の魔術師と弟子
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師匠は片手に虹色の珠の入った箱を持ち、もう片方の手で俺を引きずって『作業場』の奥の扉を開けた。そこは師匠の寝室だ。夜遅くまで何か作業をした後、すぐ寝室に行けるように続きの部屋になっている。
ドサリとそのベッドに下ろされて、上から師匠が覆い被さってきた。
頬や首筋に口付けが落ちてきて、「待って待って」と声を上げる。不満そうな顔をしながらも師匠は一度身体を離してくれた。
「……この珠の全てが、お前の前世だったわけじゃない」
箱をベッドの上に置いた師匠は、その一つをつまみ上げて魔道具の灯りに翳した。小さめの卵くらいの大きさで、乳白色に見えるその珠の表面はオパール色に輝き様々な色を反射する。
「確かめる間もなく死んだ者もいた。……エーテルの精霊術士はだいたい早世で、その死に方は悲惨なものが多い。能力を考えればわかるだろう。人々に利用され搾取され尽くして、最後には絶命する。でもどいつもこいつも、こんな人生に意味があるのかと嘆くどころか、無力さを悔いながら死んでいく。それはお前のせいじゃないと死に際言ってやるだけで、安らかに死ねるなら俺はいくら労力を払っても構わなかった」
師匠が俺の手の中に、コロンと一つ珠を乗せた。その不思議な珠は冷たくはなく、かといって温かいわけでもない。不思議と手のひらに馴染む手触りだった。
「死後は安らかに眠りたいだろう? だから、看取ったエーテルの精霊術士は全てこの箱に納めて、精霊を集める効果を無効化している。……いずれお前が死んでも同じようにするつもりだ。ルイス」
頬に大きな手が伸びてきて、温かい親指がすりっと肌を撫でていった。慈しむようにこちらを見つめる青い目が、わずかに細くなる。
「お前が最近なにに悩んでいるか、知ってる。――でも俺にとっては今更だ。もう何人……生まれては死ぬお前たちを見つめ続けたと思う。俺にお前を看取らせてくれ。それだけが俺の望みで――これが紛うことなきお前への愛だと、俺は思っている」
ぼろ、とあふれ出したのは大粒の涙だった。それは顎から滴り、手の中の虹色の珠を濡らす。
「――一緒に逝こうとは、言わないの?」
「…………」
師匠は見たこともないほど穏やかな笑みを浮かべて、俺の額にキスをした。
「死んだ後のお前の身体が、誰かに利用されないか。それが気になっちゃ死ぬに死ねないだろ。……俺はお前の、たった一人の墓守だ。これからもずっと」
濡れた舌が俺の涙を舐めていく。一滴も逃さない気なのか、目尻に口付けられて涙の粒を吸い取られた。そのままベッドに押し倒されて師匠を見上げる。
「そんな泣きそうな顔で、言わないでよ」
俺は両手を伸ばして師匠の頬を包んだ。ふと、前世のルキアーノスが死ぬときは、こんな気持ちだったのだろうかと思う。
――どうか、泣かないで。別れに苦しむよりも再会を、夢見て待っていて。
「……ルイス」
うん、それなら理解できる。俺は初めてルキアーノスと自分が重なるのを感じた。そう思うことができて、心底安堵する。
「これからもずっと。……うん、一緒だよ」
こちらから口付けたら師匠の唇はわずかに震えていて、俺は初めて彼のことを、可愛いなって思ったんだ。
‡
……それから日が傾く時間帯まで、俺は師匠のベッドの上で愛され続けた。
「っぁ、……師匠、待っ……もう、……許し、……あぁッ」
師匠の唇が触れていない場所はないくらい、全身にキスをされた。
汚れてるからって嫌がったらすぐさま浄化の魔法を使われて、抵抗する道を塞がれる。足の指を口に含まれたり、耳の中まで舌を入れられたりして、俺は恥ずかしくて散々泣かされてしまった。
もうやだ、やめてよ、と泣くと師匠は意地悪な顔をして笑う。
そしてまた、新しい悪戯を思いついたように俺を追いつめた。
「これじゃあまだ入らねえよ。……入れたいんだろ?」
俺はもう長い間、泣きながらシーツの上で四つん這いになって、師匠の指と舌を受け入れていた。はじめは仰向けだったんだけど、師匠の顔は見えるし足を大きく開かされるのが恥ずかしくて、こうなった。
でも後から気がついたんだけど、うつ伏せで腰を上げてるのも十分恥ずかしいよね!?
どおりで師匠にお願いしたときニヤニヤ笑ってると思ったんだ! 先に教えてよ意地悪!
「んっ、……ぁ、や、……そこ、や、ぁっ」
師匠の太い指は唾液と香油でふやけた穴に、ゆっくりと出入りしている。
たまに内壁を指先でツーッと撫でながら出ていって、またずぷりと奥まで入ってきた。しっかり俺の感じる場所を探し出して、師匠はそこばかり苛めてくる。
く、く、と感じる場所を押し上げられる度にとろりと性器から薄い白濁が滴った。
もうイキ過ぎて出るものもなくなっているのに、絶頂はやってくる。ビクビクッと全身が震えて力が抜けてしまった。くたりと倒れた俺の尻に師匠がかぷりと噛みついてきて、指を銜え込んだ穴へまた舌を這わせてくる。
「や、ぁっ……」
深くキスするときみたいに、師匠の舌はそこに入り込んだ。キュッと締め付けてしまう俺の反応を笑っているのが振動で伝わってきた。
吐息が触れて、ヒクヒクと収縮する内壁に三本の指がゆっくりと出入りをはじめる。
はー、はー、と荒い呼吸をしながら俺はそれを受け入れていた。全身に汗をかいているのは俺だけじゃなくて、師匠の額もしっとり濡れている。逞しい胸板を流れていく汗の雫も艶めいて見えた。
「そろそろいいか。……ルイス」
大きく息を吐いて、師匠が身体を起こした。頭を振って長い金髪を払い、それから俺を見下ろしてくる。
「このまま後ろからされんのと、前から抱かれるのとどっちがいい」
「……えっ! えっ、と……」
わざわざ聞いてくるなんてすごく珍しい。肩越しに振り返って師匠を見上げたら、何か企んでるみたいにニヤニヤしていた。この選択は師匠にとっても面白いものなのかもしれない。
でも、考えてみたら俺の希望は一つだ。……俺は大好きな師匠の顔を見てしたい。
「抱きつかせてくれなきゃ、しない」
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