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二話 聖騎士がこんな世話焼きとは聞いてない①
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目を開けると、新緑のような色の天井が見えた。一瞬自分がどこにいるのか分からず、まだ夢の中かと訝しむ。
「……ッ」
視線を巡らせようとして全身に激痛が走り、小さく呻いた。
身体を起こすのは無理そうだ。
もともと動かなかった右腕は添え木をつけてガチガチに包帯で巻かれている。壊死して切断したかと思ったが、まだ腕がついてるな。あの治癒魔法のせいか。
視線だけ忙しなく動かしてみるが、顔にも包帯が巻かれているせいで視界が狭い。見える範囲にあるのは強い太陽の光が差し込む両開きの窓と、アイボリーのカーテン、自分の寝ているベッド、柔らかい枕、水差しの置かれた小さなテーブルくらいだ。
「……ぁ、……」
水を見たら急に喉の乾きを思い出した。熱が出たせいなのか喉がカラカラで、口の中も張り付くようでとにかく水が欲しかった。
左手を伸ばして水差しを取ろうとするが、遠くて届かない。
「クソ……ッ」
小さく舌打ちをして身体をそちらに動かすと、背にも激痛が走った。呻きながらシーツの上で左手を握り込む。
すると急に部屋の外から足音が聞こえてきた。
カツ、カツ、カツ、と規則正しい音だったのが急に間隔が短くなりはじめ、最後は走るような速度でこの部屋の前に辿り着き、扉が勢いよく開く。
「ああ、起きたのか。良かった……!」
「……」
入ってきたのはライオネルだった。足音から予想していた相手だ。しかしその満面の笑みはいただけない。
喜びを溢れさせている様子が眩しくてオレは目を眇めた。……こいつ、貴族の屋敷にいる毛並みの良い大型犬みたいだ。
眩しいながら少し目を凝らすと、今日も貴族令息のような服装だった。柔らかなドレープの白いシャツと黒いスラックスを身につけている。ずっと騎士団の鎧姿しか見ていないから違和感が半端ない。こいつ、本当にオレの知るライオネルか? 自信がなくなってきたな。
「本当に良かった。……水が必要か? 今持っていく」
ライオネルはベッドに近寄ってきて水差しを取ると、吸い飲みに移してからベッドに近寄った。ぐん、といきなり綺麗な顔が近づいてきて心臓が跳ねる。
さらさらとした銀髪が頬に触れそうなほど近い。
オレの包帯が顔まで巻かれていて表情が見えなくて助かった。ライオネルはオレの頭を起こそうとしただけだ。バクバクと跳ねた鼓動を何とか落ち着けようと努力する。
後頭部を少し持ち上げられ、ガラスの吸い口が唇に触れた。
そこまでは良かったが、一気に傾けるので当然オレの口からは水が溢れた。
「……っ、ぐ、……ゲホッ」
「あっ、す、すまない今なにか拭く物を……」
「坊ちゃん、こちらへお貸しください。慣れないことはするものではないですよ」
スッとライオネルの後ろから布巾が突き出され、誰かが咽せたオレの口元を拭ってくれる。
ライオネルの後ろから黒髪の男がぬっと出て来て吸い飲みを奪うと、オレの側に顔を近付けてきた。背を支えられ身体全体を起こし、クッションを背にぎゅうぎゅう押し込まれる。それに寄りかかって起きることができた。
「まだ水は必要ですか。お手伝いをさせて頂きたいのですが」
「……」
こく、と僅かに頷いて見せると吸い口がオレの唇に当てられた。ポタポタ、と滴るくらいの速度で与えられる水を貪るように飲む。
息をするように口を開けたら一度吸い口が離れ、オレが細い息を吐くとまた吸い口が添えられた。
要らない、と首を横に振るまで黒髪の男はオレに水を飲ませてくれた。
ようやくひと心地ついて視線を上げると、しょげたような表情のライオネルがベッド脇に立っている。自分がやりたかったのか、名残惜しそうに水差しを見てるがオレはもう水は必要ないからな。
ライオネルも黒髪の男も長身なので、ベッドの両側で立たれると威圧感が凄かった。ふい、と目を逸らして左手で布団を引き上げる。
顔を隠すように、柔らかい布団の中に潜り込んだ。回復すればさっさと出ていくのだし、顔はなるべく合わせないほうが良いだろう。
「あっ……」
「坊ちゃん、三日も寝込んだ方にまだ会話は難しいでしょう。眠らせてください」
「……ああ、分かった」
「坊ちゃん?」
「ここにいるくらい良いだろう? 無理に起こしたりしない」
ガタガタとベッド脇に椅子を持ってきて座る気配がした。思わず布団の中で顔を顰める。そこでずっと監視してるつもりかよ!
オレの内心の悲鳴も知らず、黒髪の男の小さなため息が聞こえ、彼はライオネルを置いて部屋から出て行ったようだった。
一度立ち上がったり、また座ったりソワソワとした落ち着かない気配を部屋の中に感じた。
――不意に、被った上掛けに大きな手が触れた。
それはポン、ポン、と軽く動いて振動を響かせるとすぐに離れていく。
オレは息を殺して布団の中で丸まっていた。
ライオネルは再びベッド脇の椅子に座り、何か本でも見ているようだ。ページをめくる小さな音がしている。
同じ部屋の中にこいつがいるなんて、正直寝にくい。こんな状態で寝られるものか。
……バクバクとうるさい心臓を抱えつつそう思っていたオレは、それでも疲労と眠気には逆らえず、ウトウトと瞼を落してしまった。
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