孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

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三話 謁見とかもう少し慎重にできないか②




 オレみたいな悪党にとっては鼻について仕方ないが、街の人々には尊いものに見えるんだそうだ。だから余計にいけ好かないんだが。

『仕方ないな。すぐに向かうことにしよう。バージル、用意を頼む』
『はい。向かう先は騎士団の詰め所でしょうか、王城でしょうか』
『王城だ。……それなりの格好で頼む』
『かしこまりました』

 手の上に停滞した黒い煙のようなものから、ライオネルとバージルの声が小さく聞こえてくる。この煙みたいなやつは闇魔法だ。これを対象の影に縫い付けると、その者の周辺の音や風景がこちらで見えるようになる。
 ただしこれは距離が遠くなると得られる情報が少なくなるので、なるべく対象と近づいて使う必要があった。今は声だけに絞っているが同じ建物内にいればかなり鮮明に映像も見ることができる。

「ネロ様、お着替えをお願いします。包帯も変えますのでどうぞこちらへ」
「……は?」

 さっきまでライオネルの元にいたはずのバージルが、部屋の扉を開け放ってオレに近寄ってきた。

「急拵えではございますが、完璧に仕上げてみせます」
「……え?」

 ギラギラと光るバージルの目は本気だった。
 そのまま服のたくさんかかったクローゼットのような部屋につれて行かれ、あれこれと服を身体にかけられる。
 そして最終的にひらひらした白いシャツにベスト、後ろだけ丈の長い黒のコートにピカピカの靴まで履かされて部屋から送り出された。

 ちなみに添え木のついた腕はドレープのきいたシャツだけ着て、上着には袖を通していない。腫れだけはなんとか引いた顔はまだ痣だらけで見苦しいからか、目元や口を残して包帯で巻かれていた。
 屋敷の外には馬車が用意されていて、騎士団の正装に着替えたライオネルが傍で待っていた。恐らく式典なんかで着る服なんだろうな。
 金糸銀糸のふんだんに使われたモールや刺繍は目を引くし、大きなサファイヤの輝くピンで濃紺のマントを留めている。それがライオネルの銀髪によく映えていた。他の騎士の正装は見たことがないが、これはライオネルのためにデザインされたのではないかと思うくらいだ。
 馬車の前にいたライオネルは、こちらに気付くとパッと顔を上げて微笑んだ。

「うん、とても似合っている。バージルの見立ては間違いないな」

 それはお前のほうこそ、と口から出そうになって喉で止めた。相変わらず、見目の良い男で口が滑りそうになった。危ない。
 トレードマークの白銀の鎧に似た白っぽい詰め襟は、かなり派手な装いだ。そしてライオネル本人の端正な顔立ちや逞しい体躯も、人目を引くし服に負けず派手だった。
 オレなんか気後れして近寄りたくもない。眩しいから別の馬車に乗せてくれないか。

「こうなると他の服装も見たいな。今度ネロ用に新しく服も仕立てよう」
「要らねえ」
「あっ、ネロ! 足元に気をつけて」

 馬車に乗る時エスコートされそうになったので手を振り払って先に乗った。
 なぜ着飾って馬車に乗せられるのか、意味は分からんがここまできたらどうしようもない。腹はくくった。
 こいつ、さっき王城に行くとか言ってなかったか。
 ついに牢屋かとも思うが、それで着替える必要はないよな。
 えらい人に謁見するから罪人でもそれなりの格好させろってか? そもそもバレたのかそうでないのか……いや、バレたならライオネルがこんな顔してるはずないか。
 オレが誰か分かっていたら、その透き通るようなアイスブルーの瞳を憎悪に塗り替えて掴みかかって来るはずだ。
 それがないってことは、違うんだろう。
 停まっていた馬車はオレたちが乗り込むとすぐに走り出した。馬が何頭かいたので速度が出る馬車みたいだ。思ったよりも揺れた。

「いきなりすまない。君の手が必要になったんだ。協力を頼みたい」
「協力……?」
「……闇魔法を、使って欲しい」
「ッ!」

 ガタッとオレが席を立つと、向かい側に座っていたライオネルはそれを予想していたように組み付いてきた。
 ぐぐぐ、と押さえられてまた椅子に座らされ、前にいたライオネルはオレの隣へ腰かけてくる。両腕は相変わらずオレの腕と腰をガッチリと拘束していた。
 暴れようとするがびくともしなかった。
 今まで、ライオネルはほどほどに逞しい体つきだなと思っていたが、触れてみると服の下の筋肉の厚みが桁違いだ。
 正面からぶつかって敵うとは思えない。体格差は歴然で、しかもこっちは片手しか使えない怪我人だ。暴れたら傷に悪いと思ったのかライオネルは極力オレを動かさないよう、しっかり捕まえていた。

「陛下は!……皇帝陛下はもう長い間、闇魔法の使い手を探していた。君にしか頼めないんだ、どうか頼む」

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