孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

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三話 謁見とかもう少し慎重にできないか③




 なんでオレが闇魔法を使えると分かったのか謎だったが、過去にゼファーも見抜いたことだ。
 オレが知らないだけで、魔法使い同士は互いの属性が分かるのかも知れない。ライオネルの必死な目が、これ以上暴れないでくれと訴えていた。
 オレだって傷が痛むから無理に暴れたくはない。

「……分かったから、離せよ」
「逃げないか?」
「逃げない」

 そろりと腕の力が弱まったところでオレはライオネルの拘束から抜け出した。こちらがパッと離れたことでライオネルは慌てたように手を伸ばしてくる。
 それを片手で制し、空席だった向かい側の席に腰を下ろす。
 こいつと横並びで仲良く馬車に乗っていく趣味はない。オレの視線から言いたいことが伝わったのか、大きくため息をついたライオネルは今いる席に座り直した。

「……そんなに、嫌わないでくれないか」

 思ったよりも憂鬱そうな、弱々しい声だった。ライオネルがそんな声を出すとは。意外に思い片眉を上げて相手を見遣る。
 輝く美貌の聖騎士サマは、今やしょぼくれた犬みたいな表情で俯いていた。
 眼帯をしていない方のアイスブルーの瞳が濡れたように光っていて、ジッとこちらを見つめている。先ほどまでの色男ぶりとの落差が激しくて吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。

 そのままオレたちは馬車に揺られ、王城へと向かう。
 馬車の中ではずっと無表情を貫いていたが、刺すようなライオネルの視線は馬車が止まるまでずっとオレに向けられていた。

 王城に着くと、明らかに正門ではない方から直接奥の宮に馬車が入って行った。そっちはたぶん皇族の住まいがあるほうだろう。政治を行う王城とは、区画が違う。
 窓の外の風景を見て顔を引き攣らせるオレに、ライオネルは安心させるように微笑んだ。

「心配しなくていい。陛下は怖いかたではないから」
「……」

 そういう心配じゃねぇんだよな。
 というのがこいつに伝わるはずがないので、オレは黙ったままでいた。
 一般人だって皇帝に謁見するとなったらチビりそうになるくらい緊張するだろうに、オレみたいな悪党は余計に冷や汗ものだ。
 そもそも縄もかけられずこんなところに連れて来てるのがおかしいんだよ。だからって今から縄かけられたいわけじゃないが。

「ここからは歩きだ。大丈夫か? 庭園の奥になるから、抱き上げて運……」
「歩ける」

 先に降りて手を差し出してくるライオネルを無視して、オレは馬車から降りた。ここから先は広い庭園が続いているようだ。
 屋敷を出たのは昼食後だった。ここまで来るのに太陽は中天を外れ西の山にかかり始めている。
 そうしてライオネルの屋敷までの距離を目算しておいた。これからあの家を出た後にどこへ向かうか決めておかなくては。もうそろそろ潮時だしな。

「ネロ、せめて手を」
「要らねぇ。さっさと前歩いて案内しろ」
「……」

 しゅんとして進むライオネルは、しばらくとぼとぼとしょぼくれた犬になっていたが庭園の一角に入ると背を伸ばした。
 そうして顔を上げて歩き出せば、あの頃の輝かしい『聖騎士』そのものだ。『元』騎士団とか言いつつ、ちゃっかり王城にはその正装で来る意味が分からない。皇帝の前に出る時の決まりとかか?
 酒場の噂ではライオネルと皇帝は仲が悪いとか一方的に叱責されたりして、皇帝がライオネルを嫌ってるとか言われてたが。個人的な依頼をしてくるくらいだから、噂通りではなさそうだな。

「お待たせしました、陛下」
「ああライオネル。よく来てくれた」

 颯爽と庭園を歩き、花の蔦が絡んだガゼボにライオネルが近づいていく。
 そこには酒と食事が用意されていて、金髪と黒髪の男が二人、手に杯を持って寛いでいた。
 一人はゆったりとした白い長衣に精巧な金刺繍の施された服の男で、もう一人はライオネルとあまり変わらない騎士の正装に身を包んでいる。
 おそらく金髪が皇帝レイニール、黒髪が騎士団長のジェラルドだろう。『夜の牙』の書類で見た情報だけは覚えているが、貴族や皇族の長ったらしい名前は流石に記憶していない。
 ちなみに髪や目の色など特徴は知っていても、その顔は今日初めて見た。二人とも確か四十路のはずだが、だいぶ若く見えるな。

 さすがに病み上がりで、ガゼボに近づく足元が若干おぼつかなくなるが、こんな高貴な野郎共の前で倒れるわけにはいかない。これは悪党の矜持だ。気を引き締めて姿勢を正した。
 ここまで歩いてくるのもそれなりに重労働だったが、これからどのくらいの時間立って話さないといけないのか。それか、冷たい床に跪くのか。気が遠くなりそうだった。

「そちらが例の闇魔法の使い手かな。……急に呼び出してすまなかったね。怪我をして大変だったのだろう? 辛いだろうからこちらへ座るといい」

 皇帝らしき白い服の男がポンポンと叩いたのは、己の隣にあるクッションだった。流石にオレも絶句して動けなくなる。

「――は」
「陛下」

 口を半開きにしたまま硬直してしまう。オレが無様な声を上げるのと同時に、被せるように騎士団長らしき男が皇帝に声をかけた。
 やめろ、と叱責するような言い方だった。ずいぶんと遠慮がないんだなと意外に思う。
 それとやはり白いほうが『陛下』でいいのだと分かった。

「何故だ。こんな可愛い子をゼフィールが独り占めしていたって? ずるいじゃないか。私も少しくらい可愛がったっていいだろう」
「……陛下」

 同じ一言だというのに、騎士団長のその三音には毎回違う意味が込められていそうだった。
 オレには『なにふざけたこと抜かしてんだお前は』と聞こえた。だって視線があまりにも馬鹿にした風だからさ。

 で、本当にいいのか皇帝相手にこんな調子で?



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