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四話 誰か一般常識から教えてくれ①
そこに口を挟んできたのはライオネルだった。オレにとっては助け船だ。
「団長、陛下の隣はどうかとは思いますが、私もネロを座らせるのには賛成です。申し訳ないのですが治療が終わっていないので」
「……治療が終わっていないだと?」
呼ばれて騎士団長に確定した彼の視線が、今度はライオネルに鋭く突き刺さった。やはり『なに言ってんだお前』というように聞こえる。人の上に立つ男は言葉の外で会話できるのか、すごいな。
急にスッと立ち上がった騎士団長は、ガゼボから出てオレに歩み寄ってきた。
ずんずんと近づくごとにその背の高さに圧倒される。……いや、まて。予想以上にデカいな?
ライオネルでもオレより頭ひとつ分は高いのに、騎士団長はそれよりさらに頭の位置が高く、身体の厚みもある。
えぇ? もしかして熊か? いや、容姿は渋めの美丈夫だから熊は失礼か。虎か豹あたりにしとくか。
「これを飲むといい」
首が痛くなるような角度で見上げていたオレに、騎士団長は青い小瓶を手渡してきた。現実逃避に勤しんでいたオレは唯一動く左手でその瓶を受け取り、まじまじと見つめる。
「最上級回復薬だ。これで折れた骨もつく」
「は、え……?」
最上級回復薬?
クソ難しい試験に受かった宮廷錬金術師が、年に三本とかしか作れない高級品じゃなかったか? その材料も稀少で薬草の葉一枚が金貨と取引されるとか聞いてるが? しかも死んでさえいなければ欠損でもなんでも治してしまうって噂の……。
目の前のこの青い瓶がその最上級回復薬だっていうのか、本当に?
唖然として声を失っていたオレに、騎士団長はぬっと手を伸ばしてきた。
え、ごめんやっぱ返せってことか? と思って瓶を片手で捧げ持ったが違った。騎士団長の丸太のような腕がそっとオレの身体を掬い上げて、子供のように縦抱きにする。
地面から持ち上げられ、団長の腕に座らされたままスタスタと運ばれていくんだが……え、なんだこれ。どういうことだ?
オイオイ助けろ、とライオネルを見ると向こうも焦ったようにこちらに手を伸ばしかけている。ただ、騎士団長の圧が強くて近寄れないみたいだ。
冷や汗が吹き出し、オレが借りてきた猫のように動けずにいたら、ガゼボに入った騎士団長はオレを自分のとなりに座らせた。
「まずは、傷を治せ」
「は、……い」
有無を言わせない騎士団長の言葉に、さっさと瓶を開けて中身をあおる。後ろで『あっ』と小さく声を上がった。口元を押さえているライオネルをチラと横目で見る。困った、というか焦った様子で視線を彷徨わせているが、なんかあったんだろうか。
「ええと、ネロ君? でいいのかな。私は皇帝のレイニールだ。そちらは騎士団長のジェラルド。さて、傷はどうかな?」
痒いような痺れが全身に走りみるみるうちに腕の骨がくっついて、右腕が動くようになった。打撲の痛みも消えていく。添え木と包帯を外してみたが問題なさそうだ。
袖を通していなかった上着をきっちりと着込み、顔の包帯も外した。ようやくホッ息をついて『ネロです』と立ち上がって礼をする。
皇帝はにっこり笑って座るように促し、オレの頭をポンポンと撫でた。
「包帯はない方が良いね。予想以上に可愛い顔だ。ゼフィールは面食いだからなあ」
「――はい?」
「陛下」
また険しい顔をして、騎士団長が低い声を絞り出した。
だから何なんだよあんたらはさあ。
傷が治ったのはいいが話に全く付いていけてない。皇帝の気安い態度にも驚くがこの騎士団長はこんな怖い顔を君主に向けていいんだろうか。
助けを求めるようにライオネルを見てみると、申し訳なさそうにオレのことをチラチラと見ていた。何だよ、と口の動きだけで問い掛けると、ライオネルはブンブンと慌てて首を橫に振る。さっきからこいつ、挙動不審でめちゃくちゃ怪しいんだが。
しかしライオネルは話題を逸らすように皇帝の方へ視線を移して、言った。
「また後で話すよ、ネロ。ひとまず陛下の依頼から……」
「ああ、忘れるところだった。闇魔法の使い手を呼んだのはこれを開けて欲しいからなんだ」
ガゼボの中に入っても、ライオネルは立ったまま皇帝の側に控えていた。そこが定位置なのかこの場でそれに異を唱える者はいない。
位置が変なのはオレだよ。なんでお偉いさんと一緒に座ってんの。
「この宝石箱だよ。お祖母様が稀少な闇魔法の使い手でね、この宝石箱に開かないよう封をしたまま亡くなってしまったんだ。闇魔法にそういう封印みたいなものはあるのかい?」
女性の手の平サイズの宝石箱がひとつ、テーブルの上に置かれた。
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