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四話 誰か一般常識から教えてくれ②
それは良く見ると、気が遠くなるような細かさの金細工でできている。幾人もの職人の技の結晶で作られているのがすぐに分かった。
組織でたまに盗品とかを扱うからオレも少し目が肥えていた。こいつは小さいのに迫力があって、ゾッとするほど良い物だ。売ると足がつくから絶対に手は出さない類いの品だった。
「闇魔法に封印と類するものはありません。ただし結界ならあります。この箱の中に小さな結界を張り中の空間を他人には認知できないようにしてしまうものです。……陛下は先程『開かないように封をした』と仰いましたが、それはオレを試す『嘘』ですよね?」
オレの胡乱げな視線を受けても、皇帝は相変わらずにこにこと笑っている。そして「なるほど」とひとつ頷いて宝石箱を手に取った。――パカリ、と蓋を開けてしまう。
あっさりと開いたそこには、えんじ色のベルベットが敷かれているだけで中身は空だ。
これが闇魔法の結界で断絶された空間で、今は中身が認知できないようになっている。
「話を合わせてくるだけの詐欺師に何度か会ったからね、少しだけ試させてもらったんだ。君は察しが良くて助かるなあ。……で、これは解けそうかな?」
「……」
オレはテーブルに手をついて、じっと宝石箱を見つめた。
座っていた席からおりて床に膝をつき、じりじりとあらゆる方向から宝石箱を眺める。破損が怖くて触れないが、まあ見ればわかる。かかっている結界そのものはとくに複雑なものではない。
一定の魔力を注ぎ結界を中和して吸い取れば、簡単に解くことが出来る。ただこれに結界をかけた闇魔法の使い手に興味が湧いた。なんでこんなことしたのか、何のために必要だったのか。
「陛下にひとつ質問をして宜しいですか」
「なんだい?」
「オレ以外の闇魔術師には依頼をかけてみましたか」
問いかけると、三人がそれぞれ変な顔をした。皇帝は困惑したように眉を寄せ、騎士団長は目を逸らし、ライオネルは何故か納得したように笑っている。
その中で一番最初に口を開いたのはやはり皇帝陛下だった。
「先程、お祖母様は稀少な闇魔法の使い手だった、と言っただろう。最近帝国では闇魔法の適正を持つ者はほとんど見つからないんだ。神殿での属性判定では、多い順から光、火、水、土、風、となる。闇属性はここ三十年あまり、一人も見つかっていない。しかも前の闇属性の魔法使いは複数属性持ちでね、『闇魔法は無理』と断られてしまって」
「属性判定って何ですか?」
オレが不思議に思って問いかけると、皇帝は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……言葉通り、神殿がその人物の魔力属性を調べる儀式だ。属性判定は国民の義務のはずだが、君は六歳の時受けなかったのだね?」
「五歳で奴隷になって、鉱山労働していたので受けていません」
何に驚いたのか騎士団長がバッとこちらを振り向く。いや、形相が怖いからそっち振り向けないんだが。圧をかけるのもやめてくれ頼むから。
「ではネロ君はどうやって闇魔法を習ったんだ」
「たまたま変なじじいに声をかけられて、お前は闇魔法が使えそう、って言われて基礎を教えられただけです」
しん……と全員が黙ってしまった。
この沈黙を破れるのはオレだけのような気がしたので、さっさと宝石箱の結界を解いてしまうことにした。
深く考えても仕方ない。これは仕事だ。オレに出来るなら、やらなきゃ帰してもらえないだろう。
相手は帝国の最高権力者だ、逆らうだけ無駄。
「まあオレのことはどうでもいいんで。ではご指示通り解きますが、解いた後のことは責任持てませんのであしからず。……はい、解けました。これでおしまいです」
黒い煙をぷすぷすと吐く宝石箱から手を引くと、オレの手にくっついて黒い煙が抜けていく。それが全てオレの手の中に収まりきったとき、宝石箱の中身が変わっていた。
「……カギ? しかないですね」
宝石箱を覗き込んでオレは首を傾げた。なんか宝物っぽくないな。古代魔道具くらい出てくるかと思った。
えんじ色のベルベットはそのままで、斜めに立て掛けるように古びた金色のカギが納められている。オレは真っ先に宝石箱から視線を上げて周囲を見回した。仕事は終わったから帰っていいか?
皇帝陛下は壊れ物を扱うように金色のカギを拾い上げた。
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